第2話 戦争を知らない子供たち

 ♪ 球球球キュキュキュの球 球球球の球

 球状音頭で 球球球

 今日も平和だ ホイ球状

 みんな幸せ ソレ球状


「なんじゃこの歌」

「盆踊りだからな、こんなもんだろ」

 孝一と貫太郎は、大日本球状教の夏フェスに来ていた。

 あれから一年、教団は大躍進を遂げ、都内の野球場を借り切ってのイベントを開催、超盛り上がりだ。芝生に櫓が組まれ、老若男女が浴衣姿で球状音頭を歌い踊る。

 夜空に花火が上がり、スタンドを埋め尽くした観客が歓声を上げた。信者だけではなく、抽選で招待された客も多いようだ。このイベントでまた、がっちり信者を増やすのだろう。

 青年部代表の男女が登壇した。二人とも超が付くイケメンであり美女だ。満福の子供たちだというが信じられない。

「皆さん、ようこそ大日本球状教の夏フェスへ」

「楽しんでいってくださいね」

 平静潤一と美波きょうだいがにこやかに挨拶すると。

「ジュンさまー!」

「ミナッチー!」

 熱狂的な声援が飛ぶ。

 確かにどちらも整った、今時のアイドル顔をしている。

「どうせ整形だろ」

「ツラの皮一枚のことなのにさ」

 とはいえ、やはり女はイケメンに、男は美人に弱いものなのだろう。

「昔、『戦争を知らない子供たち』なんて歌が流行ったな」

「ああ。あれを聞いてた子たちも全員ジジババだろう」

「月雛流れる、だな」

 孝一と貫太郎は、複雑な気持でイベントを見守る。

 花火が夜空を彩り、歓声が会場を包む。どこからどう見ても平和そのものの光景だった。


 同じころ。政界では、新党「絶対平和党」が急速に支持者を増やしていた。

 当初は弱小政党だったが、球状教と同様、分りやすい政策が受けたのだ。

 とにかく日本の平和を守る、消費税を廃止し、格差を是正。教育に力を入れ、若い層が希望を持てる社会をつくる。

 言うまでもなく、支持母体は大日本球状教だったが、政治に関心のない無党派層の支持も取り付けた。

 その秋。

 与党「自由放任党」は総選挙で惨敗を喫した。どこかと連立政権を組まなければならない。目を付けたのは当然、「絶対平和党」である。

「ぜひ連立与党を組んでほしい」

 申し入れは快諾され、連立政権は盤石に思われた。

 極力、同じ選挙区に候補を立てず効率よくを議席を確保していゆく。大日本球状教の組織票も大きな魅力だった。

 だが。それは自由放任党にとって、諸刃の剣だった。

 絶対平和党、つまりは球状教の票がなければ議席の維持は難しくなっていった。連立を解消しようにも、技セぎ減が怖くて実行できない。次第に絶対平和党の政策を受け入れざるを得なくなっていった。


 三年後、次の総選挙が終わった直後。

「今度こそ消費税を廃止しましょう」

 絶対平和党の党首、真田行杉ゆきすぎがきっぱりと言った。40歳になったばかりのやり手である。

 自由放任党の党首・道楽伸太のびたは驚きに目を見張った。66歳、ことなかれ主義の彼には考えられないことだった。

「どうやって? 税収減は困りますよ」

「ですが、国民の消費意欲が向上し、景気もV字回復します」

 そうだろうが、とにかく税収を増やしたい財務省を説得できる自信がない。

「税収激減を、どうやって補填するんですか」

 真田がにやりと笑った。

「医療費を減らすんです」

 と真田は言う。

「公的医療は80歳で打ち切りましょう」

「な、なにを言うんだ。そんなことしたら高齢者の支持が!」

「そんなだから若者の支持を得られないんです。現にS国ではとっくの昔に実施している。消費税を25パーセントも取っておいて、医療を受けられるのは70台までですよ」

 それでも不満の声はあまり聞かない。消費税のおかげで社会保障が充実し、学費も大学まで無料、と行き届いており、国民の幸福度は高い、と真田は力説した。

「不満だらけで100年生きるより、幸せなまま80歳で他界する方がいいと私は信じております」

 真田はじりじりと道楽に迫る。

「消費税ゼロのインパクトは大きい。税金を払うのが大嫌いなわが国民には、必ず支持される」

「ううむ」

 道楽は腕を組み、唸り声をあげた。








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