第5話 名付け

 さて、一緒に冒険をする仲間として青いスライムが加わったわけだけど、それなら名前ぐらいつけてあげないとね。


「君、名前何がいい?」

「スピィ?」


 と言っても自分で名前を決められるわけないもんね。スライムもどうすればいいの? という顔をしている、ように思えるし。


 ならやっぱり僕が名前をつけないとね。何にしようかな……青いからブルース――う~んもうちょっと何かあるかな。


 う~スライムだからライムス? いや、水と一緒に出てきたわけだしね。スライムで水だから――


「そうだ! スイム! どうかなこの名前?」

「スピィ~♪」

 

 やった何だから嬉しそうだぞ。


「よし、それなら君の名は今日からスイムだ」

「スピ~♪」

 

 スイムを持ち上げて名前を呼んであげる。凄くプルプルして嬉しそうだよ。するとスイムが淡く光輝いたような気がした。


 ……気のせいかな? スイムは僕の腕の中で更にプルプルしている。


「街に戻ったら何か食べる?」

「スピィ~♪」


 あ、何か嬉しそうだ。お腹減ってるのかな。


「スイムは何が好きなの?」

「スピィ~スピピィ~」


 スイムが可愛らしく鳴いて答えてくれた。だけど聞いておいて何だけどはっきりとはわからないな。


「町に戻ったら一緒に見て回って決めようか」

「スピッ!」


 肩の上に乗せかえて提案するとスイムが頬ずりしてきた。ひんやりしてて気持ちいいな。


「よう。今お帰りかい?」


 うん? 森を出ようと歩いていたら藪の中から三人組の男が姿を見せた。


 この連中、いつも僕を小馬鹿にしていた冒険者だ。さっきも酒場で馬鹿にされたのを覚えてる。


「僕になにかよう?」

「スピ~?」


 道を塞ぐように立ち並ぶ三人にそう聞いた。彼らはヘラヘラした顔で僕とスイムを見ていた。


「プッ、こいつスライムなんて肩に乗せてるぜ」

「流石水属性の雑魚だけあって連れて歩いているのもクソ雑魚スライムか」

「勇者パーティーを追放されて、もう一緒にいてくれるのは弱っちぃスライムだけってか?」


 そして腹を抱えて三人が笑いだした。何だろうこいつらは。そんな事を言うためにわざわざやってきたのか?


「スピィ~スピー!」


 スイムが頭から湯気を出して声を上げた。僕がバカにされたと察して怒ってくれてるのかな。


「何だこいつ? 生意気なスライムだな。ぶっ潰すぞ!」

「ス、スピィ……」


 男たちに恫喝されスイムがプルプルと震えだして僕の首にピッタリと引っ付いた。


 怖がってるみたいだ。頭をなでて落ち着かせて上げる。


「大丈夫だからね。ねぇ、スイムも怖がっているし用がないならどけてくれるかな?」

「おう。いいぜ通行料として有り金全部置いていったらな」


 は? こいつら何を言ってるんだ? ここは誰の物でもない森だ。当然通行料なんて支払う義務がないし領主にも黙って勝手にそんな真似出来るわけがない。


「意味がわからないよ。何でそんなの支払わないといけないんだ」

「とぼけても無駄だ。俺たちは知ってるんだぜ? お前あの栄光の軌跡を出る時にたんまり金を貰ったんだろう? 全くこんな無能にあの連中も随分と気前が良いよな」

「全くだ。こんなやくたたずにな。どんだけ儲かってるかしらねぇがお前には過ぎた金だ」

「だから俺たちがお前の代わりに有意義に使ってやるよ」


 ……僕は空いた口が塞がらなかった。何だよその自分勝手な理由。


「冒険者はいつから追い剥ぎになったんだ? お前たちのやってることはれっきとした犯罪だぞ」


 当たり前だけど冒険者が犯罪行為に手を染めるのは許されない。もし発覚すれば即座に除名されるし衛兵にも捕まる。


「そんなものバレなきゃ犯罪でもなんでもねぇよ」

「テメェみたいなクソザコ幾らでも始末出来るからな」

「寧ろ馬鹿はお前だな。自分からノコノコ森に入ってくれたおかげでこっちもやりやすくなったからな」


 それがこいつらの言い分だった。もはや殺すことも厭わないってことなのだろう。


 ふぅ、こうなったら仕方ない。僕も覚悟を決めないと駄目だろう。もしこれで今日あの古井戸に巡りあってなければ僕は詰んでたかもしれないけど、今は違う。


 今の僕の水魔法なら十分通じるかもしれない。

 

「は? おいこいつ生意気に杖を構え始めたぞ」


 そう。僕は連中に向けて杖を翳し、抵抗の意思を示した。杖が無くても魔法が使えるけど基本的には持っていた方が効果が高い。

 

 特にこの青水晶の杖は水属性の杖だから魔法の効果は引き上がる。勇者パーティーにいる時にダンジョンで見つけた物だ。


 水属性が僕しかいなかったからガイ達が使っていいとくれたんだっけ。あの頃はまだ上手くいっていた気がするな――なんて物思いに耽ってる場合じゃない。


「水魔法なんて怖くねぇな。たく大人しく金を渡しておけば痛い目を見ずに済んだってのによ」


 男が剣を抜いた。右手の甲に紋章が見える。剣使いということは剣の紋章持ちか。


「決めるぜ切断強化!」


 武芸アーツを発動したか。武芸は魔法の武術版みたいなものだ。魔力は消費しないけど体力や物によっては精神力は生命力を消費するんだとか。


 さて切断強化ってことはもう僕を斬る気満々ってことだよね。こっちも流石に黙って斬られてあげるわけにはいかないかな。


「水魔法・重水弾!」

 

 そこで僕はいまさっき練習した魔法を行使することにした。圧縮された水弾は三人の間を抜けて地面に着弾。ちょっと狙いが外れたけど轟音がして地面に大穴をあけてしまった。


「「「……な、なんじゃこりゃーーーーーー!」」」

 

 その穴を見て三人が仰天したよ。外れはしたけど奴らにインパクトを与えることは出来たかな――


あとがき

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