第12話 動物園デート?


 約束の日曜日。


「ツ、司っ! あの奇妙な生物はなんですか!」


 隣ではしゃぐ子供と同じくらいのテンションで、7は象を指差す。


「あれはゾウって言って、あの長い鼻でモノ取ったりするんだよ」


 象が雄叫びに近い鳴き声をあげると、7もつられて両手を上げて「うおぉっー!」と叫ぶ。抑圧された感情が解放された瞬間だった。


「す、すごい……です……!」


 それでも敬語は残っていた。ここにきて、正解だったな。7は象から離れると思うと次はキリンのコーナーへ走った。


「司! あの黄色い物体は何ですか!」

「首が長いじゃないのかよ………」


 目の付け所が違う、とはまさに7の事であった。苦笑いしつつ、丁寧に説明してやる。


「あれは高い木の葉っぱを食べるために首が長くなった生き物なんだよ」

「か、………感無量です」


 目を輝かせながら動物たちを見つめる7はまさに子供そのものだった。


「ニホンにはこんなに素晴らしい動物がいたんですね………」


 本当は輸入してきたりしたものなんだけど……その辺は言わない方がいいよな。夢を壊すのも憚られたので、しばらく一緒にキリンを見ていた。きっと……グリズランドじゃ見れなかったんだろうな。

 よく考えれば、7は銃を持っていた。それは俺を守るため、外敵を排除するということ。すなわちそれ相応の訓練を受けていたんだ。動物園なんて、行く暇がないはずだ。

 隣で見入っている少女に暗い影が浮かんだような気がした。別段かわいそうとうは思わない。それが7の人生なんだから。それを否定するような考えは、7に失礼だ。


「7、次はパンダ見に行こうぜ!」

「ぱんだ? ……それは一体どんな生物ですか……?」

「いいから、行くぞ」


 7の手を引っ張って人気のパンダのコーナーへ向かった。

 いつもより人が少なく、じっくり目当てのパンダを堪能していた。


「……………」


 ガラスに張り付いて笹を食べるパンダをじーっと見つめる7。


「あ、あんなかわいい物体が………この世に存在していたのですか!」


 口を開けて、人目も気にせず7はずっとパンダに魅入っている。一挙手一投足に興奮し、はしゃいでいた。

 三十分以上たってから、俺達はお土産売り場に向かった。あまりにも7がパンダに魅入っていたために遅れてしまったが、まぁ良しとしよう。


 そして、目の前の棚にパンダのぬいぐるみ。


「…………………」


 ぬいぐるみに目線を合わせて、じっと固まったまま動かない。


「あの~7さん?」


 小声で呼びかけても返事は、ない。


「……7?」

「……はっ! 司でしたか」


 耳元でささやくとようやく気付いてもらえた。7は襟を正して咳払いを一つ。


「さ、もう行きましょう」

「お、おい。これいいのかよ?」


 ぬいぐるみを見せると、7はたちまち止まった。何かの力に押さえつけられるようにゆっくり振り返る。


「か、構いませんよ……べ、べ、別に」


 視線は俺を捉えていない。はっきりしない7の態度が気にくわない。


「………欲しいのか?」


 試しにぬいぐるみを片手で持って振る。すると7の体は戻ろうとした途端、ビクン、と反応した。……素直すぎるだろ。


「い、いえとんでもない! スートである私がそのような綿を詰めただけの物体を……」

「じゃ、いらないな」


 棚に戻そうとすると7は「あぁ!」と手を伸ばしてくる。再び取ると物欲しそうに見つめ、戻すと手を伸ばす。……面白いな。

 しかし、そう何度も続かない。三度目で7が気づいて怒鳴る。


「司! 私で遊ばないでください!」


 いい加減素直に言ってほしかった。


「……買ってやるよ」


 根負けしたのは俺の方だった。出会った時は物事をハキハキと進めると思ったが、やっぱりまだまだ子供だったんだな。


「で、ですがそんな……」

「一週間看病してもらったし、そのお礼だよ」


 レジへ持っていき、会計を済ませる。……意外な出費だった。今ので財布から二人くらいヒトが減った。最近のぬいぐるみは高い。ほんと、『綿を詰めただけの物体』、なのにな。


「ほら、プレゼント」

「いいのですか?」

「大したことじゃないって」


 その時、7の素直な喜びの顔を見た。混じり気のないその笑顔を、壊したくないと思った。





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