第2話

 シェリーはアルバートから婚約破棄を申し渡された後、妙に冷静だった。

 一人、部屋で本を読んでいると辺りが暗くなっていることにシェリーは気がついた。

「……お腹が空きましたわ。こんな時でも、体は素直に動いているんですわね」

 食堂に行き席につこうとすると、カルロスお父様が真っ赤な顔をして私に問いかけた。


「アルバート殿から婚約破棄をしたいという話が合った。シェリーはもう聞いているのか?」

「ええ、カルロスお父様。聞いております」

 父親はグラスに注がれたワインを一気に飲み干して、ため息を突いた。


「辺境伯を敵に回すつもりか? アルバートは!」

「お父様、おちついてくださいませ。アルバート様はとても優秀な魔法騎士です」

 カルロスは驚いてシェリーを見た。


「シェリー、お前はアルバート殿とずいぶん長い間付き合っていたし婚約までしていただろう? もう少し悲しんだり、怒ったりしないのか?」

 シェリーは首を振った。

「私の心は凪いでいますわ。起こったことは仕方の無いこと。特に何か出来る事もありませんし。むしろ結婚する前でしたから幸いかも知れません」

 私は一息でそう言うと、ふうと息をついてから両親に言った。

「さあ、食事に致しませんか? せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」


「シェリー、無理をしなくてもいいのですよ。こんなことは私たちが許しませんから」

 母親のグレイスの言葉に、シェリーは戸惑った。

「レイズ伯爵にも事の顛末をお話して、なにか制裁を加えた方が良いのではないかしら?」


「そうだな。何もしないというのはホワイト家の体面に関わる」

 両親の会話を聞いて、シェリーは慌てて二人を説得しようと、明るい表情と声で言った。

「その必要はありませんわ。最低限のお話で構わないと思います。アルバート様との毎日は楽しい思い出も沢山ありますし」

 シェリーの言葉にカルロスの表情が曇った。


「シェリー、今でもアルバート様のことを思っているのかい?」

「……いいえ、お父様。でも、レイズ家と事を構えることは、辺境警備にも悪影響がでてしまうのではありませんか?」

「確かにそうだな。一時の激情に振り回されるところだった。お前は賢い子だ、シェリー」 カルロスは少し寂しそうな表情でシェリーに微笑みかけた。


「さあ、お食事にしましょう。私、お腹が空いていてたまらないのです」

 シェリーがそう言うと、カルロスとグレイスは食前の祈りを始めた。

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