密室空間では嫉妬を止められない②
映画が始まった。
内容は、ラブストーリー……のはず。
俺は映画に集中できないでいた。
暗闇なので、依子には気づかれていないだろう。
(なんだ、このモヤモヤは……)
ナンパの件からずっとこの調子。
心の中で自問自答……と言っても答えの方は出てない。モヤモヤが貯まるだけ。
そして暗い中で距離感がわからなくなったのか、ほんの少し肩がくっついた。
「っ! ……悪い」
「……別にいいけど」
(いかんいかん……これ以上依子に迷惑かけるわけには……)
と思った時だった。
なにやらザワッと館内が一瞬騒がしくなった。
何かと思えば、スクリーンには海外の映画とかにある濃厚なキスシーンが映し出されていた。
「……あっ」
隣の依子もどうやら気がついたようだ。
キス……かぁ。
昔の俺なら恥ずかしがっていたかもしれない。
今の俺は、むしろこれよりも激しいキスを———
「なに、どうしたの? ……手繋ぎたいの?」
「……え?」
俺はいつの間にか依子の手を握っていた。
無識とはいえ自分で手を握ったのだ。
「透矢……?」
なんとか口を動かそうとしたが、うまく言葉が出てこない。しかし、体は積極的。
「ん、触り方……」
依子の問いかけなど無視して手を動かす。スス、と人差し指で撫でたり、恋人繋ぎをしたり……。
このままじゃヤバイことになるとわかっている。
手を離せ。
理性を止めろ。
……なんで、離れない。
ふと、髪の隙間から小さな耳が少し覗いた。俺はそこに口をつけ……耳たぶを甘噛みした。
「んっ……」
熱っぽい声が漏れる。
それが俺を煽った。
舌を出して耳の穴へと侵入させる。
「あっ……耳、耳は……だ…め………」
あの時も思ったが……依子は耳が弱いようだ。
隣同士の席叫べば怪しまれ、逃げ場などない。
またそれも俺を煽った。
今度はうなじに何度も口づけて、首筋から首の付け根にかけてキスマークで埋め尽くす勢いで吸い付く。
俺だけの……俺のだってちゃんと……
……だめだ。何を考えている?
でも、触れたい。
依子を……依子を独占したい。
体の奥がかっかと燃えるように熱くなる。
ああ、もしかして俺は……依子がナンパされていたのに、嫉妬してるんだ。
◇◆
(依子side)
「と、おや……」
映画館という密室空間。周りには他の客がいる中、透矢は執拗に耳を舐めてくる。
「っ……ふ……」
声を我慢するがやっと。幸いにも映画のキスシーンも激しくなっているようで周りはこちらなど気にもならないだろう。
ふと、耳舐めが終わった。
「はぁ、透矢……」
安堵をついていると、透矢の顔がやけに近づく。薄らと顔が見えた。
いつになく鋭い瞳、切迫詰まった顔——瞬間、唇が塞がれた。
柔らかな感触を覚え、キスされているのだとわかった。
「ん、ぷぁ……ちょっと……」
キスしてくるので透矢がどんな表情をしているかよく分からない。
でも………
「……透矢、怒ってる?」
「怒ってなんか……ない」
声色は分かる。
透矢は怒ってる。何やら拗ねているに近い。
こんなところじゃ、だめ。
お、落ち着いて、ね?
いつものアタシならこう言うのに……
「もっと、しよ?」
「……っ」
出した言葉は透矢を求めるもの。
「……依子」
切なそうな声と吐息が耳にかかる。
続いてアタシは、
「透矢がなんでそんなに不機嫌なのか分からないけど……アタシを求めてくれるなら……嬉しいから」
「っ……!」
また唇がくっつく。
映画館とあってかキスは控えめ。だけど、角度を変えながら軽いキスを何度も繰り返される。
「ん……キス、気持ちいい」
アタシの行為など気づかないで他の男のために動こうとした透矢が、伎織ちゃんに背中を押されて強引に恋人になった透矢が……大好きな人が今、自分の意識でアタシを求めてくれている。
まるで独占するように、離れないでと言わんばかりにねちっこく、しつこいキスを……。
「はぁ、ん……透矢好きだよ……」
可愛い………どうしようもなく、可愛くて……好き。
その後も映画に集中できなかったのは言うまでもない。
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