今更普通の勉強会ができるとでも?

「お邪魔しまーす」


 挨拶をして部屋に上がる。

 迎えた週末。テスト一週間前をきっていた今日、依子の家で勉強会をすることになった。と言っても、俺と依子の2人っきりだが。


「はぁー、テスト勉強めんど」

「同じく。でも赤点取ると、夏休みにわざわざ学校に補習で出ないといけないけどな。そっちの方がめんどいから頑張ろーぜ」

「あいよー。あっ、アタシ部屋着に着替えていい?」

「いいぞー。じゃあ俺は冷蔵庫から飲み物取り出してていい?」

「いいよー」

「糖分補給として……ポッキー買ってきた」

「あ、たけのこの里じゃないんだ」

「それ戦争起こるやつだろ。しかも俺きのこ派だし」


 ほらこうやってバトルが起きそうだ。

 軽く雑談を交わしながら、フローリングの床の中央部に敷かれた絨毯の真ん中あたり、テーブルの上に教科書やノートを広げ、まずは数学の勉強に取り掛かかった。


 しばらくして。


「ねぇ、透矢」

「ん? どうした」

「ここ、分かんない」


 問題集の1つを指す。俺は、依子の隣に座り、分からないところを確認した。

 

「えっと、ここはxに3を代入してだな……」

「なるほどー。これでいい?」

「ああ、それで合ってる。……っ」


 依子に数学の問題を教えていた俺であったが、つい視線が依子の胸元にいってしまった。


 前屈みの姿勢を取っている依子のTシャツの隙間から、大きな胸の谷間がはっきりと見える。

  

 ……く、黒!? 黒なのか……。


 依子が黒色のブラジャーを着用しているのを知ってしまい、背徳感のようなものを感じ、自分の体が熱くなっているのが分かった。

 

 ああ、クッソ。また思い出しそうで……


「透矢? 大丈夫?」


 俺の視線を不審に思ったのか、依子が尋ねてきた。ヤバイ……まさか見てたのバレたか……?


「え? あ、あぁ。大丈夫だ! うん!」

「そ。こんな暑いし熱中症とかも気をつけないとだから無理はしないでね? クーラーの温度もっと下げる?」

「いや、このままでいいぞ! 自分でどうにかできるし!」

「?」


 依子に首を傾げられてしまったが、まぁ誤魔化せただろう。


 勉強に集中だ。……集中。


 気を取り直し、再び数学の問題を教授した。


「おー、ありがとう。解けたわ。じゃあ次もいい? ここなんだけど……」

「あー、これか。これは問題を少し難しく考えすぎ。もっと単純でいい。ほら、この途中式だってここにいく過程で使うのは公式1つで出せる」

「おー、確かに」

「最後に使う公式も、形はあってるけど使ってるものが違うだけだ。それこそ……この公式を使えば簡単に導けるはず」

「本当だ。てことは深読みとケアレスミス?」

「そういうこと」


 間違いと解法をし終え、もう一度解き直す依子を見つめる。Tシャツの隙間に目がいかないように。


 身体と身体の間隔が縮まり、少しでも身動きすれば触れてしまいそうな距離。互いの呼吸音が聞こえるような近さ。……なんて、意識してるのは俺だけなんだろうなぁ。


 その後、何とか自制心をコントロールしているとタイマーが鳴った。


「はい休憩〜」


 互いにため息が漏れる。俺のは多分、ちょっと違う意味も含まれているが……。


「つかれたー。あ、結構勉強したね。2時間30分くらい? しかももうすぐお昼だし。 んん〜〜」


 身体の凝りを和らげるように依子が手をうえに上げる。そのせいで、綺麗なおへそが露わに……


「……何見てんの?」

「え?」


 今度は気づかれたようだ。


「いや、その、そんなつもりで見ていたわけじゃないぞ……!」

「それ、そう見てる人の言い訳だし。ふーん……アタシの身体、そんな気になる?」

「ま、まぁ……そりゃ3回もしましたから」

  

 誤魔化すのも良くないと思い、正直に言う。


「……アタシの身体……良かった?」

「そりゃもう……」

「……」

「……」


 互いに気まずい空気が流れる。

 破ったのは依子の方だ。


「ひ、昼は外に食べに行く! アタシ着替えてくるから透矢は戸締まりみてて……!」

「お、おう! 任せとけ……!」


 会話が終わり、それぞれで行動する。


 今更普通の勉強会って、無理だよな……。

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