第一章 200×年、仙台。孫娘の今。そして、祖母の記憶。

第1話 あさみの決心

 絶対に書きたくない。書いてやるものか。

 あさみはそう決めた。


 今日の帰りの会でのことだ。


「来週は七夕があるので、みんなには短冊に願い事を書いてもらいます」

 担任の百田先生は、教室をぐるりと見渡しながらそう言った。

「来週までに考えておいてくださいね」


 クラスメイトたちは席の近い者同士で、願い事を何にするか、早速あちこちでおしゃべりを始めたけれど、あさみは参加する気にはなれなかった。

 別に、願い事なんてなかったからだ。


 サッカー選手になれますように。メジャーリーガーになれますように。ケーキ屋さんとお花屋さんになれますように。

 ……なれるわけないって。現実は厳しいんだから。


 こうむいんになれますように。

 ……これは、その子の親の願い事でしょ。


 お金持ちになれますように。

 ……こんなの、夢がない。


 有名人になれますように。星野まりんちゃんみたいに美人になれますように。

 ……なれないよ、せめて芸人にしとけば。


 犬を飼ってもらえますように。タイガークエストを買ってもらえますように。

 ……いつから七夕はクリスマスになったんだろう。


 家内あん全。無病息さい。家族みんなが健康で暮らせますように。

 ……神社の絵馬にでも書いておけば。


 こういう願い事はみんなダサイし、子どもっぽい。

 叶うわけもない夢が多すぎる。

 願い事なんて絶対書きたくない、とあさみは思う。


 第一、みんなに見られてしまうのが恥ずかしい。

 願い事というのは、こっそりと胸の中に大切にしまっておくものなのに、どうして七夕ではそれをばらしちゃわないといけないんだろう。


 だから、あさみは決心した。

 帰り道、ゆきこと別れ、考えた。

 道路沿いのポプラの木は、大きな葉っぱをさわさわと鳴らしている。


 あれを実行するには、笹がいる。

 そのためには……。

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