第5話 (無理な)笑顔から始まる最終終末戦争(アルマゲドン)

オレの“元”彼女カノ(…と、言っていいのだろうか?)である“上級”魔王ヴィリロスが、オレの処に来た。 オレはその事をオレが魔王を辞める前に仕えていた“情報屋”であるシノブから聞かされ、折角ニートでスロゥなライフを満喫できると思っていた安住の地を棄てようとしていたのだが、運悪くヴィリロスのヤツと鉢合わせになってしまいどうにかこの急場をしのぐ為にシノブに妥協案を提示した結果…


「やあ、ヴィリロスじゃないか、久しぶりだねえ。」(ニコニコ)

「あらあら、おほほ…だぁーれかと思ったらグラナティスじゃあーりませんの。」(ニコニコ)


えっ……これ一体、今から何が始まろうとしているの?まさかとは思うんだけど最終終末戦争アルマゲドン勃発おっぱじまるんじゃないよねえ?

「(おい…お前、なんでグラナティスのヤツがここにきているんだ?)」

「(えっ?ああまあ…彼女呼んだ方が面白おもしろぉーく―――上手く解決できると思いまして。)」(確信愉快犯)

「(おいっ!おいおいおいおいっ!今聞き逃さなかったぞ?!『面白い』だと?シノブお前……面白がってグラナティス呼んだのか!)」

「(あーーーはいスミマセン言葉の綾デシタ。(棒) けど、この場をしのぐと言う意味では彼女に任せておけば問題ないかと。)」

「(う゛……むむう~~だが、いやしかしオレが無事なのは何より大切なんだが、こいつらの所為でアマルガムが潰れちゃ“元”も“子”もないぞ??)」

「(……ま、そう言うのも含めて、まず“今”彼女カノであるグラナティスに任せてておけばいいんじゃないかと―――)」


確かにオレは、“元”彼女カノであるヴィリロスがこの都市(というかオレだよね)を目指しているという報告を得て、早急にアマルガムから離れる選択を迫られ事実そうしていたわけなのだが……「いーーーーやいやいやちょっと待てって?!お前今……グラナティスのヤツを“今”彼女カノと言ったのか?」


「は?は??はああああ??? い、今何て言ったんですのぉおお~?」

「ヴィリロス、“素”が出てるよ。 しかし、時間と言うものは非常に残酷なものだ。 長年疎遠になっていたという君とは“自然消滅”と言う事になり、しかし私は彼とはここ最近蜜月関係になっていてねえ?」(ニヤソ)

「そ……そんなバカなあっ!ねえオプシダン、わたくし達学生時代付き合っていたんだよねえ?なのにわたくしの事を忘れちゃったと言うの??あれ程愛し合ったというのに…」

「え?いやいやいや、アレってそんなんじゃなかっただろ?第一お前はオレの後を勝手に付き纏っていただけじゃないか、言うなら。」

「(……)ふっうーーーん、あ、そう言う事だったんだーーーなあーんだあ、それじゃわたくしとほぼ同じ……なのになによ、『蜜月関係』て。」(ジロリン☆)

「(うっ)ふ、ふん、それでも君との関係の時よりは進展はある。 何より彼は私を頼っているのでね、だから私は彼の相談事に応じたまでの話しさ。 一方的に自分からの愛を押し売ってた君とは!」

「ムッキイィィーーーねえオプシダン、それ本当?」

「う、うん?まあ……概ねの処は合っているーーーーーーーーーーーーーーかなあ?」


いや……あのなあグラナティス、お前ヴィリロスのことを『愛の押し売り屋』みたいな事言っているが、お前も十分と変わらんからな?

それになあ……なんでこいつらは、オレの事をさも自分のモノのように扱うんだよ!オレはオレだけのものだろうが、なのになんでこうも下らない理由で感情剥き出しになれるかなあ~~~と思っていたその時、オレは事態がこれ以上最悪になるなんて予測もつかなかった。 それというのもだ、ヴィリロスがアマルガムに来ることをどこで聞きつけたのか、最近オレが雇った―――


「醜いですね、魔王ともあろうお方がお二人して往来でわめき合っていると言うのは。」


「誰ですの?お前…」 「誰かと思えばオーガの鬼“姫”サツキではないか。 いや、私は別に彼女とわめき合いたいとは思っていなかったのだけどね、しかし彼の事になると自然と大声になってしまっていた様だ、以後慎まなくては、ね。」

「何?オーガの鬼“姫”ですってぇ~え?そう言えば、わたくしがヴェルノアの【英雄】を蹴散らす直前、カーマインの奴はブリガンティアの【勇者】の前に敗れ北ったやぶれさったと聞いていたが……」

「はい……武運つたなく私達が支えていた戦線が崩れ、今はこのような処に落ち延びてはいますが―――しかしコレとソレとはまた別、今は私達の“主人”であるオプシダン様に危害を加えるというのならば、この私一人でもあなた方にあらがわせて頂きます!」


えっ、なにこの……オレの事をそんなにまで?(キュンキュン) あれどうしたんだろ…胸が苦しいーーー流行り病かなあ?(トゥンクトゥンク)


とまあオレは急激な身体の異常(心臓の動悸たかなるこどう)を感じるのだったが、今まで風邪一つ引いてこなかった健康体でもあるためイマイチ原因が不明……まあ生活環境がガラリと一変してしまった所為もあるからと感じていたのだが……


「(ふぅ…)ヴィリロス、ここはひとつ休戦協定を結ぼうじゃないか。」 「は?わたくしとお前と『休戦協定』??なぜにまた……」

「視てて判らないのならすこしばかり“貸し”を与えてやろう。 このまま私達2人が争い合った処で勝っても負けても私達2人には利はないからだよ。」 「ん~~~~~~~~ん??」

「まだ判らないのかい―――まあ、ここ最近のオプシダンを取り巻く環境の変化を知らない君にとっては無理もない話しだろうけれどね。」 「なによ、その―――またわたくしをバカにしたような発言!」

「仕方がない、ここはもう一つ君に貸しをつくっておくとするか。 早い話しだね、どうやら彼女も彼に好意があるみたいなのだよ……これ以上の説明がいるかい?」 「ん?ん~~~と、つまり…………と言う事は!!?」


そう……二頭の虎(つまり私達)が互いに利の無い争いをして傷付けあっている間に、もう一頭の虎(オーガの誰かさん)が『漁夫の利』を占めてしまう―――と、ここまで判り易く説明しないと判ってもらえないとは。 しかもこのオーガの鬼“姫”は他のオーガの(女)戦士とは違い、見た目も見目麗みめうるしい……それに一緒にいた“剣”鬼の方も容姿は整っていたな。 もしかするとこの2人の出自はかなり身分が高いのではないのか?だとすると……ここへと落ち延びた理由―――そこはもう少し“彼女達”に働いてもらう以外なさそうだ。


何と言う事なの?!わたくしから彼を奪い去ろうとしている泥棒猫のグラナティスだけならいざ知らず、オーガ如きがわたくしのオプ様を狙っているだなんてえ~~~!

ま、まあ?わたくしのオプ様はとても魅力的な方なのですからあ?寄って来る“悪い虫”(要はわたくし以外の女共の事ですけれどねッ)は引く手数多あまた―――まあその事でわたくしの“オトコ”を鑑る目に間違いはないのですけれどもぉ~~~オーーーーッホッホッホ!


        * * * * * * * * * *


それはさておき―――なのですが、なぜわたくしが慕っているオプ様がこんなにも魅力的なのかと申しますと…

あれはそう―――現在いまを遡る事350年前、当時まだわたくし達は『学校』の学生でした。

{*ここで言う『わたくし達』とは、オプシダンやグラナティスもこの中に入る}


この『学校』とは、わたくし達『魔王族』もそうなのですが、もうひと種属…『亜神族』も通っており、卒業をした折には前述の“オーガ”や“エルフ”、“ドワーフ”や“ホビット”という『魔族』―――と、“ヒューマン”や“獣人”達『ヒューマン族』と言う被支配階級の者達を如何に上手く統治するかを勉強する施設なのです。

{*ここで“前者”と“後者”の違いを。 “前者”である『魔王族』は『魔族』を支配する者達であり、“後者”である『亜神族』はヒューマン達『ヒューマン族』を支配する。}


そこでわたくしは、“上級”の家の出と言う事もあり『学校』に入学してから初めて行われる試験に家名に恥じない成績を残そうとしたのでしたが……なんと、なんと―――なんとおおお!この“上級”のわたくしを差し置いて首席を取った者がいたのです!当初はその悔しさもあり枕を涙でずぶ濡れにした夜を過ごしていたものでしたが、ある折に決心したわたくしはいつかそいつ…ああいえ、その者をとっちめて差し上げようとしたのですが―――……


「えっ、なに、どうしたんだいお嬢さん。」


えっ……あらなにかしらこの魅惑的なヴォイスは―――その重低音はわたくしの鼓膜や心の蔵を一挙に占拠してしまうと、いつしかわたくしは本来の目的を忘れ……


「あの、わたくしと是非とも結婚を!!」

「えっ?まだ早いだろう?だってまだオレ達は親の脛に噛り付いてないといけないんだからさあ。 だから結婚なんてまだ早い―――ただそうだねえ~魅力的なハニーからの申し出を無視するわけにもいかないから……お付き合いを前提に―――ってところでどう?」

「お・つ・き・あ・い!!!え……ええそうでしたわね、わたくしったらあなたみたいな魅力的な男性初めてでしたもので…」(もじもじもじりん♡)


あ゛~~~いるんだよねえーーーこう言うややこしい奴、まあ?オレのカリスマ性にてられて寄って来る仔猫ちゃんや蝶はいくらでもいるけどさあ……オレから拒否るのは基本ナイんだよね。 けど、オレの本性知っちゃったら別れるヤツも多いのも事実なんだけどもサ(笑)。 ま、この彼女―――どうやら見た処世間知らずのお嬢サマみたいだけど、一体いつまで保つやら。

しかし彼女……ヴィリロスは意外に粘った―――このオレの、異性が知ったら引く……いや“ドン”退いてしまいそうになるような実態(要は趣味)知ったところでより一層付き纏ってきたのだ。 とは言えオレは“受け”専門であり、基本的にオレを求めてくるヤツは断らないのがオレの主義―――なのだが……巡り巡った未来でこんな羽目になろうとは、思ってやしなかったのである。

しかも―――問題はヴィリロスだけではなかったのだ、実はオレ達の同期にはグラナティスもおり、ヤツとは“付き合っている”までではないものの気の好く合う仲間感覚で話しも良くしていたりしたものだったのだ。


それに実はオレの家は“上級”であり、行く行くはオレも親の『実家』を継いで魔王をする―――と言う割とありきたりな人生を歩んでいく予定だったのだ……が、オレのもう一つの信条として『割りと世間に波風立てないようにする』……つまりこれは、だ、オレの実家は“上級”なのではあるが―――ならば“中級”を目指してみるのも悪くなかろう……と言う事で『真の中立』を目指すようになったのである。

{*この『真の中立』の考え方は様々で、“上”も目指さず“下”にも落ちないようにする―――という割とバランス感覚が重要になってくるポジションで、油断して“上”や“善”、“下”や“悪”に傾いてしまう危険を常にはらんでいるのである。 そうしたところで300年も“中庸”“中道”を維持できた彼って…}


それに…………実は、あいつらには知られてはないみたいだけど、オレはこの学生時代に非常に厄介なヤツに目を付けられていたみたいなのだ。

今はまだそう言うのを明かせられないんだが―――ひとつヒントとしてはこの『学校』には同時期、オレ達『魔王族』の外にも『亜神族』も通っていたのだ。 ここで一つ問題なのは、この『学校』を卒業した暁にはオレ達『魔王族』は『魔族』達を治める為に勉学に勤しんでる―――が、『亜神族』は『ヒューマン族』を治める為に勉学を……そう、とどのつまり一つの『学校』で2つに分かれているのだが、オレ達が卒業した時にオレは“首席”での卒業だった……つまりは『魔王族』の中でもそうなのだが『亜神族』も合わせて―――と言ったら?? しかも、だ、『亜神族』ってそのイメージ通りプライドが高いらしく、まあーーーそのーーーーあれだ、オレ達が卒業する時ある一人の『亜神族』が近寄ってきて―――


「ふ……ふん!この妾を抑えて“首席”で卒業―――なんて一体どこの誰だと思っていたけど、意外と冴えない男のようね。」

「あーーーの、オレ達初対面だよね?そんなオレにその一言ってひどくない?」

「だけど、妾を抑えての首席卒業―――褒めてあげなくもないわ。 だから…これからお前が妾と付き合ってもいいって事を許可してあげる。」


あーーーーなるほど、そゆ事ね。 この女、基本他人の話しは聞かない主義なんだ。 しかし……オレにはオレの矜持というものがある、信条がある。 向うから求めてきたのならオレからは拒まないさ、だけど拒まないだけであってその後どうするかはオレ次第なのだ。 だからその場も生返事で返して(というかあまり深く考えていない)、その後の事は―――まあ…判るよね?(笑)


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


このドタバタ劇から数日後―――とある魔族側の領内にて…


「“アルキュオネー”、“アステロペー”これまでに得た状況の報告を。」

「はっ―――では…領主様が懸念されておられたかねての案件ですが、どうやら“監視対象”は領主様が懸念しておられた様な行動には及ばない様子です。」

「ですが、それは我等の眼を欺く手口の一つと考え、以後“対象”への監視行動は続けるつもりです。」

「ふむ、上出来だ。ただ“彼”は私が知って来た期間でさえもそう易々と本性は見せてくれなかった。 だがね…私は感じたのだよ、本来なら“彼”こそは“上級”の最上に君臨してもおかしくはない立場だと……だから私も“彼”になぞらえて“下級”を選択したものだったが―――」


「領主、僭越せんえつながら発言する機会を。」

「うん、何だろう“マイア”。 発言する機会を許可しよう。」

「恐縮にございます―――さすれば、我等7人の“姉妹”がお仕えする領主こそが、“上級”の最上に君臨すべきではないのかと愚考するのですが。」

「(…)私はね、“マイア”、自分の分と言うものをわきまえている。 少なくとも私はそう思っているんだけどね……この私以上に自分の分をわきまえているのが“彼”としたなら?」

「そんな……!?私が見立てた限りでは、実に頼りなくのらりくらりと厄介事を躱そうとするばかりで……」

「違うよ―――“アルキュオネー”……“彼”はそうした事をで考えている節がある。 とてもではないが今の私では太刀打ちは出来ない。」


「お畏れながら領主―――発言する機会を。」

「うん、許可しよう“エーレクトラ”。」

「ありがたき幸せ……ならば領主は彼の者を踏み越えてのし上がる気概はないのだと?」

「ない……わけでは、ない―――ただ、今の私には“彼”を踏み台にして乗り越える実力も不足している。 ならばどうしたらいいと思うかな?」

「まさ……か―――」

「(フ…)“アステロペー”は流石に気付いたようだね、そう今はかなわないとするなら共に力をあわせるのもやぶさかではないと思っている。」


これは……さある“下級”魔王領での、領主とその部下―――“親衛隊”の意見交換の会での一場面。 その意見交換会では実に様々な“意見”が交わされました。 特段として取り上げられたのが、その“下級”魔王が最近気にしている特別な存在―――“彼”の動向を探るのが一つの目的としてあったのですが…どうやら“監視対象”でもある“彼”の事は親衛隊内でも賛否両論で、7人の内“否”とする者達は5、“是”とする者達は2……と、中々に厳しい評価だったようです。 しかしながら、実際の処“上級”の最上を狙える立場の1人でもあるこの“下級”魔王も“彼”に対しての評価だけは曲げない様子、ならばそれ程までに気に掛ける価値があるのかというと……


「ならば主上様は“彼”様のどこがお気に入りになられたのであると?」

「“ケライノー”……私はね、知ってしまったのだよ。 私がまだ学生の時分に、時流の先を読んでいるのは私自身でしかないと、そう思っていた時期に―――この私より先を見ていた“彼”がいたことを。」



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