第53話 黒戸 白の思い残し

黒戸 白が骨川 糞ノ山を倒し、火野 京子が現場の状況を確認してから警視庁に連絡してだいたいの状況が落ち着いた頃


「白くんちょっといい? 学校で怪我をした生徒達はみんな桜台中央病院に搬送されたって連絡が入ったは、白くんも怪我してるから病院に行きなね……私もやる事やったら病院に向かうから」

京子は骨川邸で白に別れ際に耳打ちし。


「そうですか、分かりました京子さん達も早く病院行ってくださいね、後遺症が残ったら大変ですから」

白は笑顔で京子に声を掛け手を振り骨川邸を後にすると、ボロボロになった体を引きずり桜台中央病院へと足を進める。


「ここ数日で何回この病院にお世話になるんだ……そう言えば美希や礼子さん……姫野さんは大丈夫だったんだろうか……」

白は病院に向かう途中でポケットからスマホを取り出し画面を見つめ、連絡もメールも来ていない事を確認する。


「まぁもともと友達も知り合いも少ない僕だからこれも当たり前か……」

白は最近メアドや電話番号を交換した美希や礼子から何も電話もメールも来ていない事を心配し道でスマホを覗き立っていると、向かって反対の道の方から凄い数の女性が骨川邸方面に向かって歩いて行くのを目撃する。


彼女達は白がさっきまで居た骨川邸の方角へと向かって歩き、女性とすれ違う度に何故だかその女性達に白は話しかけられ。


「あの白様……あっ……いえ、その大丈夫ですか君? 凄い怪我してるけど肩でもおかししますよ」

通り過ぎる女性達は何人も白に話掛けては心配そうな表情を浮かべ。


「あっ、いえいえ大丈夫です、わざわざ心配して頂きありがとうございます」

白は何度もその都度丁重にお礼とお断りの言葉を述べてはペコペコと頭を下げ自力で病院へと向かった。


ーー

ーー


病院に着くと受付にすぐさま白は向かい。


「す、すいません? あ、あの、その……少しお聞きしたい事がありまして、白間……白間 美希さんと沢村 礼子さんと言う方はこちらに怪我で搬送されてはいませんでしょうか?」

白は人見知りを発動しながらも忙しそうにしている受付の女性に申し訳なさそうに話しかけ。


「えっ!? あっ! し、白様……じゃ、じゃなくて……えっ、あっ……は、はい、302号室に二人とも入院されてますね、まぁ入院って言っても検査入院みたいなものなので心配になさらなくて大丈夫ですよ」

受付の女性は当然の如く白愛会の者であり、突然の黒戸 白の訪問に驚きドキドキしながらも、なんとか平静を装いつつ、白に対して冷静に対応する。


「ありがとうございます!」

白は対応してくれた受付の女性に対し深々と頭を下げお礼を言うと三階に向かい足を進める。


「あっ!? ま、待って下さい!  お見舞いに行かれる前にあなたの方がとても重傷だと思われるのですが……私の方から先生の方に便宜べんぎを図って先に見てもらう事も出来ますよ?」

受付の女性は三階に向かおうとする白を呼び止め心配そうに見つめ、特別に診察してくれるよう先生に便宜を計らってくれる提案をする。


「あっ!? 大丈夫です……お心遣こころづかいありがとうございます、でも他に待ってる患者さんがたくさんいるのにそんなズルは出来ませんし、 僕の怪我はただ刺されただけなので、混雑が引いた時にまた伺わせて頂きます、ご心配して頂きありがとうございます、そのお気持ちだけで十分です」

白は一礼すると再び階段の方に向かい、その後ろ姿を見た受付の女性は白が姿を消すと突然立ち上がり、受付フロアにいる同僚皆んなに聞こえる様に叫び出す。


「みんな分かってるわね! 白様はお怪我をなされているわ、だから白様のためにも早く丁寧に効率的に他の患者さんを見て、速やかにこの混雑をなくすのいい?」


「「おー!」」

受付の女性の声を聞いた看護師や医者はその声に応える様に叫び声を上げ、病院全体が心が一つに結ばれ気合がみなぎりテキパキと自分達の仕事を進める。


ーー

ーー


白は三階の302号室に着くとドアをノックをする。


コン コン


しかし何も返事がない、白はしばらくドアの前で待つがなんの反応もないので「失礼します」と一声かけて病室に入る、部屋は大部屋にも関わらずとても静かで、誰も居ないんじゃないかと錯覚をし、ベットはカーテンで仕切られていたために白は美希や礼子さんがどこに寝ているのか分からず右往左往していると。


「く、黒戸くん……?」

部屋の出入り口の方から白に声をかけられ、白は振り返るとそこには姫野 咲が色々と荷物を持って立っていた。


「黒戸くんもお見舞いに来てくれたの……って!? 黒戸くん身体ボロボロじゃない! 服も血だらけで……先生! 先生に診てもらわなきゃ」

白の姿を見た咲は慌てて床に荷物を置き、白の手を取り先生の所に連れて行こうとする。


「あっ!?  だ、大丈夫……大丈夫だから、ちょっと胸の辺りを突き刺されたぐらいだから、こんなのほっとけば治るよきっと……でも心配してくれてありがとう姫野さん」

白は咲に心配ないと握られた手をギュと握り返し、照れくさそうに笑顔で感謝を述べた。


「いやいや、胸に突き刺さったぐらいって!? 全然大丈夫じゃないからそれ、黒戸くん頭とか打った? ほっといて治るレベルの怪我じゃないから」

咲は慌て驚く。


「僕の事よりも美希や礼子さんは大丈夫なの? 僕のせいでまたみんなに……姫野さんも危なくアイツに暴力を……ごめん」

僕は自分を責め落ち込み、姫野さんに謝る。


「何言ってんの黒戸くん? 私を助けてくれたのはあなたでしょ……危ない目に合ったんじゃない、危ない所を助けてくれたんだよ君は」

咲は握っていた白の手を胸の辺りまで持ってくると、白の手を優しく包み込むように握り直し。


「ありがとう、黒戸くん」

咲は骨川に襲われた時の事を思い出し体を震わせて涙を流しお礼を言う。


「ひ……姫野さん……」

白は咲から手を離すと咲の背中に手を回し優しく抱きしめ。


「大丈夫……何かあったらまた僕が姫野さんを守るから……」


「うん……」

白は咲の頭を撫で彼女が震えるのが治るまで抱きしめる。


「あの〜ご両人? そうゆう事は私達のいない所でやってもらえませんかね? 白は誰のお見舞いに来てくれたんだか……もう」

カーテンで仕切られた一つのベットから耳慣れた声が聞こえる。


「えっ!? み、美希……そこにいるの?」

白は声のするベッドのカーテンを開けると、そこには美希がベッドから上半身を起こしてカーテンの隙間からこちらを覗き見ている姿勢でいた。


「『そこにいたのか』はないでしょう白! 私のお見舞いに来てくれたんじゃないの? なのに……なのにさ、咲とイチャイチャしちゃって……酷いよ」

美希は白の顔を見ると嬉しそうな顔をしながらもすぐにさっきの事を拗ね、なんか勘違いした事をブツブツ言い出す。


「み、美希、な、何言ってんのよ……わ、私はただ黒戸くんにお礼をしていただけで、べ、別にイチャイチャなんか」

咲は顔を赤くして慌てた様子で弁解する。


「はいはいご馳走さま〜、そんな顔を赤くして言われても説得力ゼロで〜す……それに白は朴念仁だからちゃんと言わない限りは……いやちゃんと言っても分からないかも」

美希はニヤケた様子で『咲もか〜』と落ち込み肩を落としし、何やらブツブツと独り言を言い出した。


「咲もあきらめな……まあ自分でも分かってんだろけどさ本当の自分の気持ちをさ」

美希の隣のカーテンの掛けられたベッドから会話に割り込む様に声が聞こえる。


「その声は礼子さん……?」

白は礼子の声のするベッドのカーテンを断りもなく開ける。


「わ!? バカ!  開けるな……」

礼子は上半身裸で濡れタオルで体を拭いてる最中で、突然開けられたカーテンに驚き両腕で胸を隠す。


「あ、あ、あ……ご、ごめん……」

白は直ぐにカーテンを閉め顔を赤くして謝り。


「べ、別に謝らなくてもいいけどよ……ほら私は美希や咲みたいに……な、なんだ……む、胸がないから白ガッガリしたろ……」

礼子は白に裸を見られ恥ずかしそうに口籠もり、凄く寂しそうに落ち込んだ声でカーテン越しに白に話しかけ。


「そ、そんな事ない! 礼子さんの肌凄く綺麗だったし、とてもバランスの取れた綺麗な体のラインしてて、僕は好きだよ」

白はカーテンを背に礼子に話す。


「ほ、本当? 白……私も白の事が好き……」

礼子は嬉しそうに白の言葉を返す様に思いを伝える。


「えっ!? 最後の方が何を言ったかよく分からなかったけど、本当に綺麗だから気にしないで下さい」

白は礼子の最後の方の言葉を聞き逃す。


「ねぇ分かったでしょ咲……ちゃんと言っても白には伝わらないから、白はね朴念仁に恋の難聴を持つタイプなんだよ」

カーテンから顔だけ出した礼子はジト目で咲に忠告をする。


「あっはっはっは本当だ 、黒戸君は鈍感なのかな? こりゃ大変そうだ……でもそれってまだ特定の誰かがいるってわけじゃないって事でもあるわけだ……だったら私にもワンチャンあるわけだよね、美希? 礼子?」

咲は美希や礼子を見渡し、嬉しそうに話し掛ける。


「ダメ! 却下」

礼子は咲の問い掛けに冷たい目で拒否し。


「ヤダヤダ、ダメ! 諦めて! 咲なら他に好きになってくれるような人がいくらでもいるでしょ? そちらをお選びください」

美希も駄々をこねる子供のように咲に冷たい目で別のプランを提示し拒む。


「ひ、酷い二人とも……二人こそ諦めて私に協力してよ! 二人とも前に黒戸君に酷いこと言いまくってたじゃない」

咲は二人の反応に腹が立ったのか反撃に出る。


「いやいやあの頃は私まだ白の事よく知らなかったし、昔好きじゃないからって、今を好きになったらいけないなんて理屈ないし、今の気持ちが一番大事でしょ」

礼子は必死に過去の発言を弁明し。


「そ、そうよ礼子の言う通りよ、私だって昔から本当は好きだったし、色々と白には申し訳ない事したと思ってるし、だからこそこれからは白の為に私は……と言う事で咲は諦めてちょうだい」

美希は気不味そう反応をするも、昔とは違い今は強い意志を持った目で今の素直な気持ちを自分の言葉で話、咲の言葉を全面否定した。


「まぁまぁ、みんな病院内だしもう少し静かにしよう……他の同じ病室の人達にも迷惑だしさ」

白は三人の間に割り込み礼子を抱きしめ。


「それより無事で本当に良かった……ごめんね目の前で殴られていたのに助けに行けなくて……それに美希を助けてくれてありがとう」

白は礼子を強く抱きしめ謝罪とお礼を言い。


「えっ!? し、白……ううん、いいんだよこんなの対した怪我じゃないし、私の方こそありがとう……愛してるよ」

礼子も白に答えるように強く抱きしめ、白にお礼を言い再び告白をする。


白は礼子の言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、ただ笑顔で頷き、礼子から離れると今度は美希に向き直り、美希を抱きしめ。


「美希もごめん僕の事で怪我させちゃって、でも僕の為に怒ってくれてありがとう……また昔のようにこうして普通に話せるようになれて嬉しいよ」

白は美希の耳元で優しく囁き力強く抱きしめる。


「私の方こそごめんね白……私も、私もまた白と普通に話せる事が嬉しい……ありがとう、白……愛してる」

美希も白に答えるように強く抱きしめ返しお礼を言った後に礼子と同様に告白をするが、白はまたも聞こえたのか聞こえなかったのか分からない態度でただ笑顔で頷くだけだった。


「じゃあまりお邪魔してると怪我にも響くかもしれないから僕はそろそろ帰るね」

白は礼子と美希にお礼を述べると部屋の出口に向かい三人に手を振り病室を出ると。


「黒戸君!? 私も愛してる!」

咲は白の背中に大きな声で告白する。


「えっ!?」

白は病室の出入り口で足を止め聞き返す。


「私も愛してる!」

咲はさらに大きな声で叫ぶ。


「ごめん姫野さんの……何言ってるかよく聞き取れなかった」

白は申し訳なさそうに、もう一度咲に聞き返す。


「私は黒戸 白君が大好き! 愛してるの! ゼェゼェ……」

咲は汗ダクダクで大声で白のフルネームを叫ぶ。


「あ!? え……」

(流石にここまで大声でで叫ばれて、何言ってるか分からないって言うのも怒られそうだな……とりあえず何か答えないとまずいかな)


「あ、ありがとう……僕もだよ……」

白は天を仰ぐようにこの返答が正しい事を願い、無難な回答を答え。


「ほ、本当に黒戸君……嬉しい」

咲は顔を赤らめてもじもじする。


「ちょ、ちょっと待て! し、白、今の本当に咲が言った事聞こえてた? 絶対に聴こえてなかったよね? 適当に口裏を合わせてれば良いかなって感じだったよね? ね? ね?」

美希がベッドから起き上がり白に詰め寄る。


「あら美希さん嫉妬? 今ちゃんと黒戸君は私の告白に『僕もだよ』って答えたわよ」

咲は勝ち誇ったような顔で美希を見る。


「ねぇ礼子からも言ってあげてよ」

美希は悔しそうな顔をして礼子に助けを求める。


「咲、悪いけど白はたぶん……イヤ、絶対に咲の言った事は聴こえてなかったよ、だから今のは無効だよ」

礼子はとてつもなくクールに淡々と咲に言い放つ。


「またまた、礼子まで嫉妬? 見苦しいわね良いわよだったら黒戸君本人にもう一度聞いてみようじゃない……ねぇ黒戸君?」

咲は二人の抗議に腹を立てたのか、もう一度白の返答を聞こうと病室の出入り口を振り返す、がもうすでにさっきまで黒戸 白が立っていた場所には誰も立っていなかった。


「どう? 咲分かったこれが答えよ、告白されそれを受けた男子がその場に留まらず立ち去る、そんな事があると思う……現実を見ましょう」

美希は少し嬉しそうな笑顔で咲をを慰め。


「プッ! クックックッ……げ、元気出して咲」

礼子に至っては笑えを堪えつつ、取り敢えず咲を励ました。


「美希はともかく……礼子! あんた確実に笑ってんじゃないのよ、まぁ良いわ別に告白を断られたわけじゃなくて聴こえてなかっただけだから、ちゃんと私の気持ちが伝われば黒戸君も答えてくれるって事でしょ」

咲は二人を睨みすぐに気持ちを切り替える。


白はそんな三人が元気にはしゃいでるのをドアの隙間から覗き安心し。


(良かったみんな今まで通り元気に明るくいてくれて……また僕のせいで周りが暗く落ち込む事がなくて、やっぱり僕はあまり周囲の人達とあまり関わらない方がいいのかもしれない……)

白は三人に心配させまいと鼓膜が破れあまり人の声が聞こえ辛くなっていた事も言えず、適当な相槌で不快にさせていたんじゃないかと心配していた。


「さようなら、みんな……」

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