第49話 黒戸 紅 対 ジャック・ザ・リッパー

「本当にあんた達は揃いもそろって馬鹿ね」

骨川邸の正門から遠く、薄紫色のボブカットした三白眼の少女、黒戸 紅があきれた顔で白愛会のメンバーに近づく。


「く、紅ちゃん……」

緑山 雫はなんでここにと言う顔つきで後ろを振り向き。


「戦闘中に敵から目を離さない! 戦闘の基本よ、忘れた雫ちゃん?」

紅は笑顔で優しく雫に話しかけ。


「か、会長……わ、私達も一緒に戦います!」

諜報部隊のメンバーが紅に駆け寄る。


「気持ちは嬉しいけど、アレは貴方達が勝てる相手じゃない、ここは危険だからこの場から逃げなさい」

紅はジャックを睨みつけ諜報部隊メンバーに言い放つ。


「ご、ごめんなさい紅ちゃん……私の勝手な行動で仲間を……」

雫は顔を伏せると紅に謝り。


「何言ってんの、お兄ちゃんの為にした行動なんでしょ? だったら私が咎める事なんか出来ないわ……ありがとうね雫ちゃん……いえ、みんなありがとうお兄ちゃんを愛してくれて……後は一番にお兄ちゃんを愛する私が始末するから、雫はみんなを連れて逃げなさい」

紅は皆んなが取った行動を咎めるでもなく、とても嬉しそうに感謝の言葉を述べ皆んなに指示を出す。


「おいおい、いつまでお喋りしてるつもりだクックックッ、まさか……まさかな、こんな所でお前と出会えるとは思っていなかったぞ……パープルデビル! 前は負けたが、今の俺は昔とは違うぜクックックッ」

ジャックは久々に会う紅に喜び、こんな早くに復讐出来る巡り合わせに興奮し、足元に倒れる渋谷 凛の顔面を足で踏みつけ紅に話しかける。


「汚い足で私の大事な家族を踏んでんじゃないわよ!」

紅が怒鳴った瞬間、声音がジャックに届く前に紅はジャックの懐に入り込み、ジャックの襟元を掴み一瞬で宙に放り投げる。


「な、何!? は、速い!」

ジャックは気づいた頃には空中に飛ばされ、紅の動きが見えていなかった。


「大丈夫、凛? それに薫も……アイツを倒したら直ぐに縄を解くから少し待っていて」

紅はジャックに向き直しかまえ。


「クックックッちょっと油断したぜ、まぁこうでなくちゃなパープルデビル」

ジャックは嬉しそうに舌舐めずりし、戦闘態勢に構え。


「あんたが誰だか知らないけど、一瞬で終わらせてあげるわ、かかって来なさい」

紅は相手を挑発するように手を動かす。


「俺も舐められたもんだぜ、死ねパープルデビル!」

ジャックは紅に向かって突進。


(動きは単調、スピードも私から見たら遅い……相手じゃないわね)

紅はジャックの動きで相手の力量を一瞬で計り、突進してくるジャックに向けて渾身の一撃の拳を喰らわせる。


ボキッ!


紅の正拳突きがジャックのボディーにめり込み、その場に物凄い音が鳴り響くと。


「ぐわぁーー!! て、手が!」

紅の手首は折れ、その場に倒れ込み手を抑えながら苦痛の叫びをあげて地面をのたうち回る


「おい、どうしたよパープルデビル……まさか今の一撃で勝てたと思ったか? 残念だったな俺は痛くも痒くもなかったぜクックックッ」

ジャックは面白そうに笑い、倒れる紅を見下みくだしながら紅の髪を鷲掴みにして唾を吐き掛け馬鹿にする。


「ぐっ!? な、何あの硬さは……人間の硬さじゃない」

紅はジャックを上目つがいで睨みつけ。


「なんだその目は、目上めうえに対しては敬意を払えや!」

ジャックは紅のあご目掛めがけて渾身の蹴りを放つ。


「ぐっ……はっ!?」

紅は数メートル吹っ飛ばされると顎が砕け、口から大量の血がしたたり落ち。


「い、痛い……なんて破壊力なの……このままだと殺される……」

紅は負傷していない方の手で顎を抑え、強くなってから初めての恐怖と絶望を感じ震え、地を這うように逃げる事しか考えられなくなっていた。


「おいおい、どうしたよパープルデビル? さっきの威勢はどうした。 安心しろよそう簡単には殺さねぇよ、痛ぶるだけ痛ぶって、苦痛で泣き叫ぶ顔を見ながらジワジワと服を引き裂いてはずかしめを受けさせながら殺してやるからよ……もっと遊ぼうぜクックックッ」

ジャックはゆっくりと紅に近づき、お気に入りのおもちゃで遊ぶ子供のような笑顔で紅を舌舐めずりするように見回す。


(いや……助けて……せっかくお兄ちゃんの為にここまで組織を大きくして、お兄ちゃんが安心できる世界を作り上げ……沢山の信頼できる友達、親友、家族と呼べる人達を作ったのに……ご、ごめん……ごめんねみんな……私はしょせんはお山の大将だっただけだった)

必死に紅は地面を這いながら、泣きながら薫や凛が倒れている逆の方向に逃げていく。


「さぁ次はどこの部位を破壊しようかねクックックッ、手をやった事だし足をやった方がバランスも良いか? どう思うパープルデビル? そう思うだろ?」

ジャックは楽しそうにゆっくりと紅に近づき、紅の足目掛けて蹴りを入れる。


「ぎゃああぁぁぁぁ!!」

ジャックの蹴りの勢いが強すぎて、紅はまた数メートル上空に吹っ飛ばされ、両方の足が砕かれる音と共に地面に叩きつけられた。


しかし紅の目は何故か苦痛の中に安堵の表情が微かに混ざっていた。


「なんだテメー! 気にいらねぇ目だ、もっと絶望に満ちた表情を浮かべろや!!」

ジャックは紅のどこか勝ち誇った表情にイラ立ちを感じる。


それもそうだろう、紅は宙に舞った時の一瞬だったが、遠く離れた所で倒れる薫と凛を密かに裏手に回り込み助けに向かった雫と白愛会のメンバーが救出する所を確認する事ができたのだ。


「よ、良かった……こ、これでみんな助かったね……ありがとうみんな……ごめんね皆んな……ごめんねお兄ちゃん……」

皆んなが助かり安心したのか、覚悟が決まったのか、紅から恐怖も絶望も消え、殺される間際にも関わらず表情はなぜか笑顔になっていた。


「おいおい何笑ってやがる、もっと絶望し泣き叫べや! そのお前の余裕こいた顔が本当にムカつく、これは顔を引き裂いて、頭蓋骨から歪めてやらねーとな」

ジャックはイラついた態度で、紅の顔に目掛けてナイフを突き刺そうとした時、ジャックの腕にロープが絡みつき、腕が引っ張られジャックは遠くに投げつけられる。


「えっ!? あ、あんた達なんで……なんで……逃げないの……」

紅は驚愕した、せっかく仲間を救出時間を稼ぎ、逃げるチャンスを紅が作ってくれたのにも関わらず、そのまま紅の方に仲間は向かい紅を助けに来たのである。


「紅ちゃん怒るよそんな事ばっか言ってると! 私達を見損なわないで、私達は白愛会である前に友人で親友で家族なの、紅ちゃんを見捨てて助かろうなんて思う仲間は誰一人だって白愛会にいない……だからなんでも一人で背負おうなんて思わないで……そう言うとこ白くんそっくりだよ」

緑山 雫は震えながらも紅をかばい前に立ち、他のメンバーも同様に紅の前に立ち塞がった。


「そうですよ会長、白様を愛する会のんなが、白様が大切にしてる妹さんを見捨てるわけないです! それに……それに将来的に考えたら紅さんは私の義理の妹になるわけですから、そんな方を助けないなんて義理の姉として失格ですからね」

凛も負傷し辛いはずなのに、紅に笑顔で冗談なのか本気なのか分からない事を言い励ました。


「み、みんな……凛の戯言はさて置いて……ご、ごめんね……でもありがとう……本当にありがとう」

紅はいつも生徒会長として、番長、裏番長、そして白愛会会長として、皆んなのトップに立つ立場で威厳を保つために日々肩肘を張ってはいたが、久々に中学三年生の少女の様に恐怖と嬉しさで泣き出していた。


「おいおい、雑魚が何人集まろうがな所詮しょせんは雑魚なんだよ、 お前らが俺に勝てるわけねーだろ、舐めてるのか? お前ら全員、このナイフでズタズタに切り裂いて殺してやるからよクックックッ」

ジャックは少しずつ辺りを見回みまわしながら負傷しているくれないとそれを囲む様に立ち塞がる白愛会メンバーのもとに少しずつ距離を詰め、互いの戦闘領域にジャックが足を踏み入れたその時。


ズドォン! ズドォン! ズドォン!


物凄い音の銃撃音じゅうげきおんが辺りに響き渡り、全ての銃弾がジャックの顳顬こめかみに命中、ジャックはその凄まじい威力で吹っ飛ばされ。


直ぐに銃弾が放たれた方向に白愛会のメンバーが振り向くと、そこには赤い髪をなびかせた東桜台高校の制服を身にまとった、火野 京子が銃口から煙を立たせたS&W M500の銃を両手で構え立っていた。

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