第35話 黒戸 白と聖夜の夜

僕、黒戸くろと しろは小学生の虐めが始まった日からある事が気になっていた、それは僕に対しての虐めが始まり出した時から毎月、家のポストにプレゼントが入れられているのだ。


プレゼントと言っても決して豪華な物とかではなく、手作りの些細な心のこもった物で、送り主の一人は白間しろま 美希みきなのはなんとなくだが分かっていた、美希はいつも匿名でプレゼントを入れていたが、中身がが美希ぽくって直ぐに気づいた。


美希に直接お礼を言おうとは思っていたが、美希がわざわざ匿名で渡しているのだから僕もそれを汲んで、あえて知らないフリをしていた。


問題はプレゼントは二つ入っている事なのだ、美希は僕や紅へ対しての罪の気持ちなのだろう、プレゼントの内容が紅の様な女の子向けの時があったからだ。


そして問題はもう一つのプレゼントだ、そのプレゼントにはいつも手紙が一緒に添えられていた。


『ごめんなさい 緑山みどりやま しずく

と悲しい短い文が書かれていた。


緑山 雫は僕と同じ幼稚園、小学校に通い、紅とも仲が良かった、でも小学校二年生になるとしばらくして姿を消した。


そんな雫ちゃんがなぜ僕にプレゼントを送り、謝罪の手紙を書くのか不思議だった。


雫ちゃんの連絡先も知らなければ、彼女が姿を消してからは一度も会っていない、そんな彼女の悲しい手紙に僕は心配になり、プレゼントを渡しに来る時を狙い、彼女に声をかけてみようと思った。


そう思い立ってからは夜な夜な家の路地角で僕は毎日、雫ちゃんが来る日を待つ日を続けた。


12月24日


雪が降る聖夜の夜、僕は寒い雪が降る家の路地角で雫ちゃんが来るのを待った。


外で待ってから三時間は経っただろうか、周りをキョロキョロとしながら、厚手の手袋にダウンコートを着た黒縁眼鏡の綺麗なエメラルド色した髪の少女が僕の家の前に来るとポストにプレゼントを入れ、僕の家に一礼して何かを呟き泣き出した。


僕はゆっくりと雫ちゃんに近づき、雫ちゃんの呟き声に耳を傾ける。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

雫ちゃんは泣きながら何度も何度も謝罪の言葉を繰り返していた。


「雫ちゃん?」

僕は驚かせまいと小さな声で彼女に声をかけた。


「えっ!? し、白くん……」

雫ちゃんは僕の顔を見るや驚き、その場から逃げようとする、僕は咄嗟とっさに彼女の手を掴み雫ちゃんを僕の方に引き寄せ、抱き合う様なに捕まえた。


「し、白くん……私の事覚えてるの? わ、わ……私、ごめんなさい!」

雫ちゃんは僕の胸に顔をうずめて謝る。


「どうしたの雫ちゃん? 何で謝るのさ、学校も最近来てないし……」

僕は彼女を抱きしめながら、彼女の背中をゆっくりでると、しばらくして落ち着いてきたのか、雫ちゃんは僕に全ての経緯を話してくれた。


「そう言う事か、分かった……大丈夫、雫ちゃんがそんなの気にする事ないよ、どっちみち奴らはそんなの関係なしに僕を虐めてきてたさ」

僕は彼女を安心させる為に笑顔で答える。


「で、でも私の……私のせいで紅ちゃんや、美希ちゃんが……」

雫ちゃんはそれでも自らに責任を感じ目に涙を浮かべる、そんな彼女の姿を見て僕を更に強く抱きしめ、僕がとった行動が知らず知らずのうちに雫ちゃんの様な子に辛い思いをさせてしまっていたんだと痛感した。


こうして雪が降り積もる聖夜の夜に僕と雫ちゃんは街灯の明かりに照らされて、まるで恋人の様に抱き合っていた。


そんなドラマチックなシーンに、黒戸家の玄関から少女の声が響き渡る。


「ねぇ、お兄ちゃん! また外に出てんの、風邪引くよ? 今日は雪降ってはしゃぎたいのは分かるけど、いい加減に家の中に入んないとまた倒れちゃう……」

紅が僕に注意しながら玄関を開ける。


抱き合う僕と雫ちゃんは紅と目が合う。


「……」


ガチャ


紅は無言で開けた玄関のドアを閉め、鍵を掛け、さらにチェーンを掛ける音がした。


カチ


「ちゃ、ちょと待って! おーい紅? 紅さん? お、おぉいー!? か、鍵閉めないでよ、開けてよ!?」

僕は慌ててドアを叩き、紅に訴えかける。


「お兄ちゃんのバカ、私と言う者がいながら、酷い、酷いよ……」

紅はなんだかわざとらしい感情のこもってない怒り方で叫ぶ。


「んっ? なんだ、また何か良からぬ事を考えてんな」

僕はなんか嫌な予感がした。


「ねぇお兄ちゃん、開けてほしい?」

紅はなんか悪巧みをする声で僕に尋ねる。


「あ、あぁ、入れてくれ」

僕は素直に答える。


「じゃあね、合言葉を言って、今教えるから」


「んっ、合言葉? 今教えるならやらなくてもいいだろう」


「じゃぁ開けな〜い」


「……分かったよやるよ、やればいいんでしょ」


「そうこなくちゃ!それ じゃねお兄ちゃんは『愛してる』

って言ってね」


「……もうオチが分かったから開けろよ」

僕はドンドンと扉を叩きながら後ろを振り向き、ごめんねと雫ちゃんに頭を下げる。


雫ちゃんはその光景を見て、涙を流しながら、なにか昔を思い出すかの様に、口に手をを当ててクスクス微笑んでいた。


「もういいから開けろよ、寒いんだよ、雫ちゃんも寒がってるよ」


「雫……雫ちゃん来てるの? 待ってね、合言葉言わせたら開けるから」


「どっちみち合言葉言わせるのかよ……はぁ」

僕は何を言わされるか大体検討が付いていたため、人前……いや雫ちゃんの前で言わされるのが恥ずかしかった。


「いくよお兄ちゃん、でわ『紅を』」

紅は淡々と合言葉を始める。


「えっ!? あっ……あっ『愛してる』……」

僕は雫ちゃんをチラチラ見ながら、顔を真っ赤にして言った。


「私も愛してるよお兄ちゃん!」

紅はドアを開けるなり僕に抱きつき、顔を埋めて嬉しがり、しばらくたっって今度は雫ちゃんを確認すると笑顔で彼女に近づく。


「あっ雫ちゃん、久しぶり」

紅は雫ちゃんにも抱きつき喜んで甘えた。


「う、うん……紅ちゃん……」

紅に抱きつかれた雫ちゃんは複雑な心境を隠しきれず泣き出し、雫ちゃんの方からも紅を包みこむ様に強く抱きしめた。


「ごめんなさい……紅ちゃん、ごめんなさい!」

雫ちゃんは何度も何度も紅にも謝った。


「し、雫ちゃん苦しいよ、どうしたの? 私何かされた? 泣かないでよ、ほらいつまでも外にいたら寒いからおうち入ろう」

紅も雫ちゃんの突然の謝罪に戸惑いながら優しくなぐさめ、家へと誘った。




家に雫ちゃんを招いた後、紅がみんなで夕飯食べよと言い、僕も賛成し、雫ちゃんは最初は遠慮したが、紅の強い推しに負け夕飯を頂くことになった。


夕飯を食べながら事の経緯いきさつを紅にも話す。


それを聞いた紅はただただ。

「ふ〜ん、そっか」と言うだけで、特に雫ちゃんに質問するでもなく、怒るわけでもなく、他人事の様に聞いていた。


「あっ! そうだ、これなんだけど……雫ちゃんに貰ってばかりだったから、もし良かったら僕からのクリスマスプレゼント」

僕はふと思い出し、雫ちゃんにリボンで結ばれた色鮮やかな包装された箱を雫ちゃんに渡した。


「えっ!? う、受け取れないよ、私はお返しが欲しくてプレゼントしていたわけじゃないし、白くんからプレゼントもらう資格なんか……」

雫ちゃんは驚き嬉しそうな顔をしたが、すぐに落ち込み、プレゼントの受け取りを遠慮した。


「そうか……なら雫ちゃん、少し目をつぶっててよ」

僕は雫ちゃんに目をつぶっててもらい、渡すはずのプレゼントの包装を破き、プレゼントの中身のペンダントを取り出すと。


「受け取って貰えないなら、僕が勝手に雫ちゃんに掛けてあげるから、後は雫ちゃんが勝手に処分してよ」

僕は雫ちゃんの首にペンダントを掛け、不器用な言い方で強引にプレゼントを渡し、そのまま飯の続きを再開した。


「あ……ありがとう、白くん……」

雫ちゃんはとても嬉しそうにペンダントを両手で握り、頬を赤らめて小さな声でお礼を言った。


「え〜〜ずるい、ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん? 私のは? 私のクリスマスプレゼントは?」

紅は僕に顔を近づけて僕に問いかける。


僕は当然そう来るとは思っていたので。


「……」

完全無視を決め込んだ。


「酷い、お兄ちゃん酷い、私のこと嫌いになったんだ」

紅は言葉とは裏腹に弱みを握ったとばかりに僕に近づき、僕にしがみつき甘えてくる。


「勘違いするなよ紅、プレゼントは用意してあった、ただつい先ほど僕の手元から忽然こつぜんと姿を消したんだ……」

僕は紅に遠回しに言い訳した。


「えっ……そ、それって……ねぇ雫ちゃん、 さっき要らないって言ってたよねぇ? ねぇ?」

紅は僕の言い訳を聞くと、甘えるのをやめ、雫ちゃんに感情のこもっていない笑顔で詰め寄り、雫ちゃんの首に掛かっているペンダントを奪おうと手を伸ばす。


すると何かを察したのかその瞬間、雫ちゃんは紅の手を素早くけると。


「ごめんね紅ちゃん……ごめん」

雫ちゃんは奪われんと両手で包み隠しペンダントを守り。


「えっ!? 雫ちゃん? ねぇ私に対しての罪を感じてるんでしょ? だったらほらその罪滅ぼしにそれを私に」

紅はここぞとばかりにさっき許したはずの雫ちゃんの弱みにつけ込む。


「ほんとに色々な意味で、本当にごめんね紅ちゃん」

雫ちゃんはジト目で複雑な感情を抱え、紅に対して色々な意味にもとらえられる様な言い回しで謝り、最終的に雫ちゃんは紅からペンダントを死守した。


そんなやり取りをはたから見て僕は二人の間の溝が少しでも埋まっているのが嬉しかった。


その後も三人で色々なゲームをして遊んだり、紅と雫ちゃんが一緒にお風呂入ったりして、紅もとてもはしゃいで、雫ちゃんも少しずつ笑顔を取り戻していた。


ーー

ーー

ーー


夜も遅くなり、雫ちゃんは「長い事お邪魔して申し訳ありませんと」一言残し帰ろうとしたので。


「もう遅いし今夜はうちに泊まっていったら? 紅も喜ぶし」

僕は雫ちゃんに尋ねた。


「で、でもこれ以上はご迷惑だし……」

雫ちゃんはとても暗い表情で答える。


さっきまで明るかった彼女だが、やっぱりまだ雫ちゃんの中には僕ら兄妹に対しての罪が重くのしかかっているのだろう。


「ねぇ雫ちゃん? 私の部屋で一緒に寝よう!」

紅は雫ちゃんの手を握ると強引に引っ張り、雫ちゃんに断わりずらい雰囲気を作った。


「お兄ちゃん、今日は 一緒に寝てあげられなくて悪いけど、いいでしょう?」

紅は僕を茶化しながら、僕に確認を取る。


「バ、バカ!? いつも寝てるみたいな言い方するなよ、紅が勝手に布団に入ってくるんだろうが……あまり雫ちゃんを困らせる事はすんなよ」

僕は変な事を言う紅に慌てながらも頷き、二人に「おやすみ」と言って、僕も自分の部屋に向かった。


二人も僕に「「おやすみなさい」」と楽しそう言って、紅の部屋へ入っていった。


今年のクリスマスイブは今までで一番楽しかったなと思い出しながら僕は布団に入り寝た。


ーー

ーー

ーー


私、黒戸くろと くれない緑山みどりやま しずくを私の部屋に入れると、部屋の鍵を閉め、私は尋ねた。


「さぁ、雫さん聞かせてもらおうじゃないの、お兄ちゃんに話さなかった貴方が骨川って屑に利用された理由ってやつを」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る