第27話 黒戸 白 とそれぞれの答え

沢村 礼子が病室から去った後、しばらくして又ドアをノックする音がした。


コン! コン!


「あれ、誰だろ? 沢村さんが忘れ物でもしたのか

な……はい、開いてます」

白が返事をすると、ドアの向こうからはサラサラな茶髪のポニーテールをした、大きい目をした笑顔が可愛い幼馴染の白間しろま 美希みきが花を持って現れた。


「いま大丈夫かな?」

「えっ!? あ……う、うん大丈夫だけど……」

美希はドアを開けるなり病室を軽く見渡し、小声で白に入室の了解の確認を取ると、持ってきた花を花瓶にけて、白の寝てるベッドの足元の所に座った。


「私ね、病室に入る前にふと昔の事を思い出したの……」

美希はなんだかつらそうな面持おももちで悲しそうに話した。


「昔の事なんか思い出さない方がいいよ、もう過ぎた事なんだから」

白はこの話を持ち出してもただただ美希が辛くなるだけだと思い話を変えようとした。


「ダメ! 良くないよやっぱり……白は私に言ったよね、白をける事が私のばつで、私に今まで通りに明るく生活してって……」

美希はうつむいたまま白の目を見ず淡々と話す。


「それが一番の最善なんだよ、僕さえ我慢してれば、美希は今まで通りの楽しい明るい生活が過ごせるし」

白は美希をたしなめるように言う。


「だから……だからそれが嫌って言ってるの! 楽しい? 明るく? そこに……そこには白がいないよ? 私は確かに白が望んだ罰を受け入れた……けど違うよこんなの……違うんだよ……」

美希はうつむきながら体を震わせ答え、美希のスカートは目からこぼれた涙で染まっていた。


「美希は今じゃクラスでも明るく可愛く……みんなからしたわれてる人気者じゃないか、かたや僕は根暗で面白くもなく、カッコいいわけでもない、そんな僕とまた関わればあの頃の……あの時の二の舞だよ? だったらそこに僕はいない方がいい」

白は美希の方を見ずに、窓の外の空を眺める。


「そんなの……そんな見せかけの人気者じゃない、そんなのなら私は要らない……あの頃の私は確かに周りに嫌われまいと、白との仲が良い事を茶化されて恥ずかしさと周りの空気に呑まれて白を避けたよ……でも、でもね、もう私も子供じゃない、みんなに……白にだって嫌われてもいい、だからもう白の辛い姿を見るのは嫌だよ、だから白との約束は守れない、そんな罰なら私は罰を受けない!」

彼女はそう語り出した後、病室の窓を開けて白が見つめる空に向かって叫び出した。


「私は……私は白が好き、大、大、大、大好き! 今も昔も変わらずずーと大好き!!」

美希は凄く嬉しそうにほほを赤らめながら白の方は見ずに空を見上げ、病院の外では行きう人がみんな美希の方を見ていた。


「美希……僕は……」

白は何かを言おうとした時。


「いらない! 白の返事はいらないよ、ただ……ただ知ってて欲しいの私は……白間 美希は黒戸 白が好きだって事を……だから、だからまた昔みたいに、紅ちゃんも含めて仲良く……」

美希は白に背を向けると体を震わせてさっきまで流してしまった涙をこらえ、いま出せる精一杯の笑顔で白の方を振り向き直し思いの丈をうったえようとした最中、病室のドアの方から誰かが美希の方へと近づき背後へと忍びった。


「受け入れられないわね」

美希の耳元で地獄の底から悪魔が這はい出てきた様な声が美希の会話を断ち切る。


「く、紅!?」

「はい、紅です! お兄ちゃんの大切な妹の紅が看病しに舞い戻ってまいりました」

白が驚いていると、紅は白の元に駆け寄り抱きついてきた。


「お兄ちゃんが大好きなのはこの私、黒戸 紅です! 美希さんが大、大、大、大好きなら、私はスーパーウルトラミラクル大、大、大、大、大好きですよお兄ちゃん」

紅は美希を勝ち誇った顔で見下しながら吠える。


「あ、あのな……紅はちょっと黙っていてくれる、今はけっこう真面目な話の最中で、とても大切な話をしてるんだ、分かるだろ? 別に紅が看病に来てくれたのは嬉しいけど、今はちょっと話がややこしくなるからね」

白は抱きつく紅を引き離し、紅をさとす。


「真面目な話? 大切な話? 一部始終さっきからドアの外で聞いてましたが、私にはふざけた女が、人を舐め腐った話をしているの以外聞こえませんでしたよお兄ちゃん」

紅は頭に『?』を浮かべながらとぼけた表情をする。


「紅ちゃん、ごめんなさい、私はやっばり白との約束……罰は受けられない……」

美希は紅に頭を下げ、強い意志で言葉をつづる。


「ふん! 本当いい加減な女、アレはヤダこれはダメって……だったら私の罰を受けてもらうしかないわね、ちょっと顔を上げてもらえるかしら美希さん?」

そう言うと美希が顔を上げた瞬間、『バチン!」と紅がデコピンをした。


「い、痛い!? ゆ、指が〜〜!! お、お兄ちゃん指を舐めて治して」

デコピンをした紅は指を痛めたわざとらしいフリをすると、白に甘えて強引に指を白の口に押し込む、良いおとを響かせてはいたが、美希は対して痛くないのだろう。


「えっ……?」

デコピンされた側の美希は今何が起こっているのか頭の整理が追いつかず、ただ呆然と立ち尽くす。


「ハイ! これで私の罰は終わりよ、少しはアホみたいにボケ〜とただ立ち尽くしてないで痛い素振りぐらい見せたらどうなのよ美希ちゃんのバカ! そもそもいつまでぐちぐちとくだらない事であーでもない、こーでもない言って、許す? 許さない? そんな事知ったことか、懺悔ざんげなら勝手にやってろ! お兄ちゃんや私がもういいって言ってんだから気にするなバーカ、バーカ」

紅は美希に罵声を浴びせながらも、なんだか嬉しそうに少し涙を浮かべて悪態あくたいをついていた、その光景は昔三人で仲良く遊んでた頃に戻ったように、紅は楽しそうだった。


「ところでもう罰の件も終わった事だし、美希ちゃんはもう帰ってもらっていいですよ? これから私、紅のお兄ちゃんの看病タイムの時間ですので」

紅は話が終わったはずなのに未だ帰らず、まだ病室に残る美希を眺めながら低いトーンで尋ねる


「えっ!? あっ、ち、違うよ、ただ私は学校の書類を渡しに……」

紅の質問に慌てて美希は答える。


「何が書類を渡しによ、どうせそんなの口実でしょうに、このビッチ!」

紅はバカにする様な目で美希に答える。


「カチン、なによこのブラコン」

頭にきたのか美希も紅に噛み付く。


「えぇ、ブラコンですが何か? お兄ちゃん大好きですが何か? お兄ちゃん愛してますが何か?」

紅は勝ち誇った顔でまた美希を見下す。


「な、なによ! なによ!」

と美希が何も言い返せなくなると、白に抱きつきキスをした。


「えっ!」

白はあまりに不意な事に驚き。


「はぁ!?」

紅は目の前の光景に固まる。


「わ、わ、私はキスをする仲よ」

美希は暴走した。


「キィィー! さっきの罰は無し、やっぱパラダイスロックで悶絶もんぜつするはずかしめを受けてもらわないと許せないわ、このビッチは」

紅も暴走した。


「もう帰れよ二人とも、ここは病院だぞ!」

そう言いつつ、白は二人の間にあった壁が知らず知らずのうちに風化し壊れていた事に気づき、とても嬉しい気持ちになった。

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