第16話 山田太郎と紫の悪魔〜前編〜

俺の名は山田やまだ 太郎たろう、身長百八十七センチ、体重百八キロの筋肉質な身体をし、ボサボサ頭に無精髭、しなびれたなスーツを着た今年三十三歳になるおっさんだ。今は警視庁二十三課特殊能力対策課けいしちょうにじゅうさんかとくしゅのうりょくたいさくかの室長を任されている。


庁内ではこの特殊能力対策課を『ゴミ箱』『なんでも屋』などと揶揄やゆする者が多い。


まぁ実際は世間一般的に分かるような成果をこの課が上げてるわけでもないのも事実で、そう言われても仕方ないのだろう、だが周りにどう見られようがどう言われようが、俺にはこの課でどうしてもやらなきゃならない解決しなきゃならない事件があるのだ。


俺はまだこの警視庁に所属する前は格闘家をやっていた、世界の五本の指に数える程に強く、世界の有名な格闘技団体のヘビー級王者に何度もなった事があるほどだ。

立ち技、寝技なんでもこなせる総合格闘家であり、ボクシングでもキックでもチャンピオンを何度もほうむってきていた。


そんな俺が表舞台で頂点を極めた28歳の頃、裏の社会から一通の招待状が届いた、それは俺の耳にも噂程度には聞いた事があったがまさか本当に存在していたとは驚いた。


『世界最強トーナメント』


この業界のトップファイターなら一度は耳にした事がある噂の一つでり都市伝説でもあった、この大会に出るのは難しくどんなに表の世界で有名になろうと活躍しようとも選ばれる為の選考基準は謎で、出たくても出れなかった格闘家の話はよく耳に入ってきていた。


招待状には『貴殿を今回開催される世界最強トーナメントinJAPANの選手に選ばれました。』と書かれ。


あまりにも文章が簡潔かんけつ過ぎて正直怪しいとすら感じた。


もう一枚送付されていた手紙に、日時や場所など、詳細な事が書かれていて、最後に世界最強トーナメント運営委員会と、問い合わせ電話番号が書かれていた。


「うん……俺が聞いてる噂や都市伝説ではかなりのアンダーグラウンドで、非公式で、この大会の詳細を知る者はいないと聞いていたんだが……この段階でかなり詳細に記載されているんだよな……あっ!? まさか読み終わった後に爆発する仕組みか!!」

俺は手紙を置き、すぐさま隣の部屋に飛び跳ねドアを閉め爆発に備えた。


しかし一向に何も起こる気配はない、待てど暮らせど爆発は起きず、俺は平然へいぜんを装よそおい手紙を置いた机に座ると、書いてある問い合わせ番号に電話をかけた。


トゥルルル、ガチャ(ワンコールで繋がった)


『いつもご利用ありがとうございます、こちらは世界最強トーナメント運営事務所でございます』

普通に女性の受付みたいな人が出た。


(えっ!? マジで普通の会社の様に世界最強トーナメントが運営されてんだけど)

俺は内心驚き、この段階ではまだ信用できずに、取り敢あえず話だけでも聞いてみるか。

「あーの自分はこの前なんかそちらの世界最強トーナメント事務所みたいな所から招待状みたいな者が届きまして、よく分からなくて問い合わせさせてもらったのですが」


『そうなんですか、お名前をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?』

(えっ! やばい普通に詐欺集団の手口に似ているのだが)

俺はさらに不信感がつのり、名前ぐらいならいいだろうと、少し態度を悪くして答えた。


「山田 太郎だけど」


『山田様ですね、少々お待ち下さい……あー! はいはいありました、山田様のお名前が今回の出場メンバーにノミネートされています、おめでとうございます』


「あ、ありがとうございます」

俺は祝福され、ついテンパり気味にお礼を言ってしまった。

(いかんいかん、このままでは相手の思うツボ)

そんな事を考えていると。


『で、山田様は今日はどの様なご用件でお問い合わせ頂いたのでしょうか?』

女性はすかさず俺に話す隙を与えず聞いてきた。


「えっ? あっ! いや〜〜ただちょっと、ただこの大会がですがね、うーんとなんて言っていいのか……」


『あー、もしかして詐欺なんじゃないかと疑問に思われたという事ですか?』

おぉいきなり核心を突いてきやがった!!


「えぇ……まぁ〜〜そんな所ですかね」


『まぁ仕方ないですよね非公式な大会ですから、アンダーグラウンドな世界の催物もよおしものなので、集まる客もある一定層の著名人や大富豪などかなり厳選げんせんされた人しか知る人がいない大会ですので」


「あーーやっぱ非公式なんですね安心しました」


『でわ今回は辞退するって事でよろしいですね?』


「えっ、えっ? あっ! じ、辞退はしないです、出ます、出ますよ、ちょっと話を聞きたかっただけなんで」


『そうですか分かりました、山田 太郎様の世界最強トーナメントの出場を上に報告しておきますね、日時や場所は送付された紙に書いてあるので、時間厳守でお願いします、もし何か分からない事がありましたら、いつでもこちらのお問い合わせ番号におかけください! いつも世界最強トーナメントのご利用ありがとうございます、では失礼いたします』


「あっ、どーもありがとうございます」

俺は低姿勢なまま電話を切った……


「完全に相手にペースに飲まれてんじゃねーかよ!」

俺は閑散かんさんとした部屋でひとり、自分にツッコミを入れた。

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