天使の小道具
「ケンジ、何処へ行ったんだ?」
「春の風に誘われたんじゃないの?」
「まさか女性か?不謹慎すぎる。葬式だぞ」
「あいつは春にめぐり逢う。知ってるでしょ?毎年、復活祭の日に茨の冠が贈られるの」
「ああ、そのうち男からもあるな」
悠太は輝と妙子の話し声を聴き、四角い革鞄を抱えて歩み寄り、輝が胸ポケットから手紙を出すのを間近に見て、『僕のラブレターじゃないですか?』と、感動で胸が熱くなった。
「これを渡したかったんだが」
「KEELS BARで待ちましょう。ケンジが来たら奢らせてやるわ」
「そうだな。約束は守る奴だ」
妙子は賢士に「KEELS BAR HOUSE」へ来いとLINEし、輝の手から手紙を取ろうとしたが躱されて、手紙は香典返しの紙袋の中へ放り込まれ、悠太も手を伸ばすが幽体なので掴めない。
「行くぞ」
「いいじゃない。見せてよ」
「これはケンジに渡す約束なんだ。悪いが、妙子であっても許されない」
輝と妙子は手紙の取り合いをしながら玄関口へ歩き出し、悠太は四角い革鞄を開き、内ポケットにあった白い手袋を取り出して装着し、再度、紙袋の中の返礼品に挟まった手紙を指で摘んで鞄の中へ隠した。
『掴めた。すいませんが、これは返してもらいます』
悠太は背中のゴム紐を感じながら、玄関のドアを開けて通りを歩き出す輝と妙子を見送り、セレモニーホールへ戻って喫煙室へ入り、隅のテーブルの上に四角い革鞄を置いて手紙を取り出す。
『ケンジくんはKEELS BARで手紙を見る事はできない。だってマリアと過去へ戻るのですからね……』
もしくは死ぬかだが、悠太は失敗は考えずにこの手紙にメッセージを添えて、復活した賢士へ渡す方法はないかと考えた。
四角い革鞄に入ったアイテムは霊界と現実世界を繋ぐ、不思議な力を秘めている事は間違いない。悠太は筆記用具を床にばら撒いた時に、パイロットの万年筆があったのを思い起こし、それを手に取って封筒の中の便箋をテーブルの上に広げ、万年筆で重要なメッセージを書き込む。
『後は君にこの手紙が届くように、運を天に任せるしかない……』
便箋を封筒の中へ戻し、四角い革鞄の内ポケットの奥へ仕舞い込んで、パイロットの万年筆と白い手袋を元の位置に正確に戻してから鞄の蓋を閉め、両手を握り締めて神に祈った。
『僕にできる事は此処までだが、ジーケンとマリアなら奇跡を起こすと信じています』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます