第4話 真一 ダンジョンの攻略を決める

 「………。えっ、えーーーー‼︎‼︎」


 突然のことで俺は思わず声を上げてしまった。


 「ダンジョンに潜るって。いったい、どういうこと‼︎」


 「真一くん、落ち着いて。今のところ原因は分からないけど、こっちの世界にダンジョンが出現した。その上、魔物が外に出てきている。今後、何も起きないことが一番だけど、僕たちでも何が起きるのか予想もできない。」


 「それなら、いっそのことダンジョンに潜ってレベルを上げて力をつけるしかないあるまい。どんなことにも力で対応できるようにのぉ。」


 「なっ、なるほど。」


 確かにじいちゃんたちの言う通りだ。ダンジョンに魔物の分からないことだらけでこの先何が起きてもおかしくない。明日が普通の日常である保証が全くない。


 「とはいえ、一人でダンジョンに潜るのは不安なんだけど。」


 「安心せい。最初のうちは、わしらのどちらかと一緒に潜ることになる。」


 「まずは景さんからは今まで通り武術を、そして僕からこの世界で言うところの魔法を教えてあげよう。戦うときの手札は多いこしたことはないからね。」


 「すまんが、孫を頼めるか山さん。」


 「別に良いよ、気にしないで。真一くんは僕にとっても可愛い孫なんだから。」


 こうして、俺はダンジョンに潜ることが決まった。

 ダンジョンを冒険にすることに対して不安を覚える一方で、未知の経験に少しだけワクワクもしていていた。


 「ところで、庭のダンジョンは大丈夫なの?」


 「えっ、あー。あのダンジョンは大丈夫だよ。念のため、僕が魔法で結界を張っておいたから。何かあったらすぐに分かるし、真一くんがあったような弱い魔物を外に出さない効果があるから。心配ないよ。まぁ、久しぶりに結界を張ったから。そのときに思わず光ってしまったけどね。」


 ひとまず、ダンジョンは問題ないらしい。

 そして、どうやら家の前に人集りができることになった光はこの結界が原因のようだった。


 「じゃあ、ゴブリンもあのダンジョンから出てきたの?」


 「いや、ゴブリンは君の家の庭のダンジョンに由来する魔物だと思うよ。けど、あのダンジョンからでてきた訳ではないと思うよ。地震の後すぐに、僕は異変を感じて結界を張ったから。魔物は外に出てないはずだよ。それにダンジョンは《大氾濫》とき以外、魔物が外に出ることはないんだ。一部例外があるけどね。」


 どういうことだ?

 つまり、あのゴブリンは庭のダンジョンに出る魔物と同じではあるが、ダンジョンからとび出してきた訳ではないということか?


 「ん⁉︎」


 今、そんなことより大氾濫って言わなかったか?


 「ねぇ‼︎《大氾濫》って何?」


 「あっ、あぁ。《大氾濫》はね。ダンジョン内にいる魔物の数がある程度増えすぎると、それをリセットするためにすべて外に吐き出すんだよ。その結果、ダンジョン周辺に魔物が溢れて街が破壊されるから《大氾濫》と呼ばれているよ。今回は一匹だけのようだから違うけどね。」


 「魔物が溢れでるの⁉︎大変だよ‼︎あのダンジョンは《大氾濫》を起こさないの⁉︎」


 「真一くん、落ち着いて。安心して良いよ。この後、僕が少し間引きしておくから気にしないで大丈夫だよ。」


 「なら、あのゴブリンはどこからきたの?」


 「わしは、ダンジョンに紐付けられて魔物が外に一緒に召喚されたと考えておるの。」


 「おそらく、そのゴブリンはダンジョンの存在を認識させるためのものであると考えているよ。魔物を目印にしてダンジョンの存在を伝えるためにね。」


 山田さんは、喉が渇いたのかお茶を一口飲むと続けた。


 「ダンジョンを見つけるだけでなく、中に入ってきて欲しいみたいだね。」


 「その証拠に、君にステータスが与えられただろう。異世界では産まれたときから与えられるステータスだけど、君は魔物を初めて倒したことで手に入れた。このことから、管理者は君に、ダンジョンを攻略するメリットを提示していることになる。君がどう思うかは別にしてもね。」


 確かにそうだ。ダンジョンを作り出すことだけが目的なら、わざわざ俺にステータスやスキルを与える必要はない。なのにどうして与えたのか。それはやはりダンジョンを攻略してほしいからなのだろう。


 俺は知りたくなった。

 何故、ダンジョンができたのか。

 何故、ステータスやスキルが与えられたのか。

 何故、じいちゃんたちはこの世界にくることになったのか。

 そして、管理者とはいったい何なのか。



 「ねぇ、じいちゃん。俺は、ダンジョンを攻略したい。そして何でダンジョンができたのか理由が知りたいんだ。」


 真一は、目を輝かせて言った。

 そんな俺の姿に、2人は眩しそうに目を細めて微笑んだ。


 「そうか。なら、明日からより一層修行しないとじゃな。」


 「僕たちの修行は厳しいよ。君についてこれるかな?」


 俺はやってやる。いつか絶対に2人を追い抜き、ダンジョンを攻略した先に何があるのか見に行く。そう心に決めたのだった。


 「よっしゃー‼︎ やってやるぞ‼︎」


 「真一くん。やる気はあるのは良いことだけどまずは身体を休めないとね。今朝から運動と緊張の連続で疲れただろう。」


 「そうじゃ。真一、お主は先に家で休んでおれ。わしら、この後2人でダンジョンの間引きに行ってくる。」


 こうして、じいちゃんたちはダンジョンへ間引きに行くことが決まった。話しも終わり、俺とじいちゃんは家に帰ることにした。


 「じゃあ、また後でね。あっ、そうそうできたらで良いんだけど、他にダンジョンや魔物が出てきてないかテレビで確認してくれるかい。僕も確認しているけど、今のところ災害に関することばかりで何も情報が得られてないんだよね。」


 「うん、分かったよ。それと今日は、俺が夕飯作るから山田さんも一緒に食べようよ。いいよね、じいちゃん。」


 「別に、構わんよ。」


 「じゃあ。よろしく頼もうかな。」


 「2人が帰ってくるの待ってるから気をつけて行ってきてね。」


 そんな話しをした後、俺は2人がダンジョンへ入っていくのを見送った。じいちゃんたちが静かにダンジョンへ踏み入ると急に見えなくなった。他の人が入っていくのは、初めてみたがまるでダンジョンに吸い込まれていくようだった。


 真一は家に帰ると指示通りにテレビをつけ情報を集めつつ、夕飯の支度を始めるのだった。





・・・・・・


SIDE 景正じいちゃん


 ダンジョンを潜り抜けると、先が見えにくい薄暗い暗闇と静かな空気が2人を出迎える。何度も感じたことがある雰囲気だ。かつて、冒険者だったときの気持ちが蘇る。


 景正は、辺りを警戒しながら話し始めた。


 「すまんなぁ。お主に何の相談もなく話して。」


 どうやら景正は、真一に異世界のことを勝手に話したことを気にしているようだった。


 「構わないよ。あれは、必要なことだからね。」


 「それでも、じゃよ、お互いに命をかけて信頼できる仲間だからこそ一言言っておくべきじゃった。」


 「仲間だからこそだよ。僕は信じているから景さんと真一くんのこと。」


 「、、、、、、、、ありがとう。」


 景正は、改めて勝山田さんという信頼できる仲間を持てたことを喜んだ。


 「この名前ももう50年か、流石に慣れたね。」


 「そうじゃな。」


 異世界から来た彼らは、魔法がないこの世界にきてもう戻れないことを実感した。そこで異世界人であることが他の人にバレないように幸子真一のおばあちゃんに名前をつけてもらったのだった。


 そのとき、すでに良い仲だったじいちゃんはおばあちゃんの苗字の上杉に戦国武将の上杉景虎から名前をかりて景正とした。そして、山田さん夫婦はどこにでに行っても問題がないように、よくある苗字の山田に勝と京子の名前をつけた。初めのうちは慣れない名であったが、あれからもう50年である。もうすっかり身についたものになっていた。


 「さぁ、早く間引いて家に帰ろう。」


 「そうじゃな。」


 その後、2人は目的を果たし怪我なくダンジョンから帰還した。

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