第33話 ヴァロンとの戦い

 DPには色々な使い方がある。


 その中でもこんなのいつ使うんだ?そう思う物もあった。


 それがこれだ。


「さ、さみぃ…!!」

「な、何だこれ…急に寒く…」


 ダンジョン、洞窟の中に吹雪が吹き荒れる。


 DPとは本来、ダンジョンを発展させる為のポイントだ。こんな天気を変えるのがダンジョンを発展させるのに何の役に立つかと思うだろうが…人間が過ごせる環境が整って位階が上がった事から分かる通り、ダンジョンの発展とは、生活の基盤そのものの推移が上がる事を示している。

 つまり、その環境下でしか育たない生物や植物を育てる際に役に立つ。


 これなら身動きは早々取れない、しかも吹雪で視界不良で俺の姿も見えないだろう。


 俺はその吹雪の中、部屋の端っこを壁を伝い奥へと進む。


「何だ!?」


 その時、俺が敵の位置を把握しながら進んでいると途中、誰かが一直線に近づいてくるのに気付き、そこから飛び退く。



 ガァァァン



 空間に鈍く大きな音が鳴り響く。


「ち…何だこの結界みたいなのは…」


 あ、あぶな…


 ダンジョン領域から攻撃が逸れ、剣先が地面を蜘蛛の巣状に砕いた光景が俺の目に映っていた。

 何で俺をこんなに正確な場所を捉えられるんだ…しかも剣でこんな残状になるか?


「悪いが次は外さない、ぜっ!!」

「っ!!」


 考えてる暇もなしに、男は俺の位置が分かっているかの様に剣を振るう。

 それと同時に攻撃が行われ、ダンジョンの領域が震える様な轟音が空間に響き渡る。


 クソッ! どうやってこっちの場所を特定してるんだ…一先ずは早く奥に…!!


 そう思った俺は壁を伝う事なく、最短で奥へと向かう。


「ちっ! 待ちやがれ!!」


 後ろから人間とは思えない速さで追って来ている。


 あの男…よく見れば目を瞑ってるのか? しかもこんな吹雪で寒いだろうに、何故あんな早く動けるんだ?


 だがーー


 相手はこの視界でこっちの位置を把握している。このままサーナを探しに行っても、アイツに捕まるだけ。


 このダンジョン領域には人が入って来れなくても、


 この吹雪はDPを少しずつ消費する。


「これ以上の天候変化は俺の首を絞めるだけ…さて、どうするか…」


 俺は走ってた足を止め、その男の前へと仁王立ちした。


「ん? 何だ? この俺、ヴァロン様の覇王丸の餌食になる覚悟でも出来たってか?」

「…」

「何か喋ろよ、話せるんだろう?」

「…何で、俺の居る位置が分かる」

「お? 知らねぇのか?」


 随分見た目とは違って軽薄そうな男だ。このまま話してどうにか情報を得たい所だが、こっちには時間がない。


「いいから教えろ」

「……別に? 魔力を波紋にして相手のいる位置を特定してるだけだ。所謂、魔力探知だ。それなりの使い手なら使えるだろ?」


 ヴァロンは少し眉を顰めると、言い始める。


 成る程…魔力を波紋状に放出し、相手の位置を特定する。魔力でそう言う事が出来るのか、誤算だったな。


「それよりも、此処に魔王軍が何の用だ?」

「魔王軍?」

「何だ? 違うのか?」

「…いいや、その通りだ」


 …此処は魔王軍の名を借りてた方が都合が良い。そう判断しての事だったが、肯定すると、ヴァロンの眼は鋭く変わった。


「これ以上何かするつもりなら、俺も容赦しねーぜ?」


 ヴァロンは自分の身の丈ぐらいの大剣を上段に構えた。


 魔王軍にも居た、こういう奴が。

 いつもは軽薄そうに振る舞うが、ある時になると顔つき、力を発揮する奴が…。


「別にお前らと戦いたくて来た訳ではない」

「はっ! よく言うぜ!」


 それが言われるのと同時に、ダンジョン領域とヴァロンの覇王丸がぶつかる。


 ……ダンジョン領域が破られる訳ではないとは思うが、この男の意識を失くさないと、サーナを助けにはいけないな。


「おいおい、さっきからこの壁は何なんだよ?」

「お前に教える筋合いはないな」

「何だよ、釣れねぇな!!」



 ガッキイィィィィッン



 甲高い音が鳴り響き、自分の周りにあるダンジョン領域が揺れている様な感覚に襲われる。


 …自分がダンジョン主じゃなかったらと思うとゾッとするな。


「はぁ、物理攻撃じゃ無理そうだな…あまりこっちは得意じゃねぇんだがな」


 ヴァロンはそう言うと大剣を背中に背負い直し、手をこっちに向けた。


 何だ?


「ファイヤボール」

「っ!」


 男の手から炎の球が現れ、凄い速さで此方に迫り、俺のすぐ隣の地面で爆発が起きる。


「おっと、久々で狙いが定まらなかったか。だが…こっちは効きそうだな」


 ヴァロンはニヤリと笑い、改めて俺の方に狙いを定める。


 マズイ…! アイツ魔導師なのか!?


 俺はそこから急いで走り出す。


「待ちやがれ!! ファイヤボール! ファイヤボール!! ファイヤボール!!!」


 連続にヴァロンの手から炎の球が放たれる。


 俺のダンジョン領域は外からの攻撃に弱い。この前エンペルに領域外から雪玉が普通に投げられた事から、もしかしたらと思ってたが…


 クソッ! 今の状況で気付きたくはなかったよ!!


 心の中で悪態を吐きながら素早く足を動かし、ヴァロンの周りを円を描く様に移動する。


「チッ…はぁ、はぁ」


 ヴァロンは舌打ちをして、大きく息を切らす。



 でもーー


 幸い、魔法を使うのが久々みたいだから助かったな。


「ぐっ…何だ? 急に…!」


 男は魔法を使うのを止め、頭を抱えて膝を着く。



 やっとか。



 俺は静かに笑みを深めた。

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