第31話 俺のターン(準備)

「はははははっ!!」

「今日は宴だぁーっ!!」

「ふん…」


 お頭と呼ばれる男はその様子を鼻で笑い、赤ワインを呷る。


 いつも通り宴になってしまったか…アレで俺の気分を害したと思ったのか、コイツら如きが気を遣いやがって。


 先程、の奴を殺した所為か、雰囲気が暗くなっている上にピリピリしていた。それを鑑みてコイツらが気を遣って無理矢理盛り上げている。


 …悪くない。


 俺は少し笑みを深めながら、また赤ワインを呷る。


 そんな時ーー



 ガラガラガラッ



「「「!!」」」


 何かが落ちる様な音が鳴り、俺達は洞窟の入り口の方へと視線を向けた。



 ◇


 その数分前。


 俺は徐ろにボードを出現させた。


 そしてーー


「この洞窟内にいる生物の数を確認してくれ」


【……ダンジョン主からの命令を受託。確認しますーーーこの洞窟内、もといダンジョン内にいる生物は全部で32。その中に確認した事がある生物が一体存在します】


 ダンジョン主であるこの能力を使い、相手の戦力を確認していた。


 なるほど。31人が敵、確認した事がある生物っていうのがサーナか。お、場所も確認出来るな。なら…こうして…こうすれば…


「アノム」


 その他にこうすればもっと安全性が…


「アノム!」

「いっ!? な、何だルイエ?」


 ルイエに耳を齧られ、俺は涙目になりながら振り向く。


「何をするのか私にも詳しく話す」

「あー、分かった分かった。ちょっと待っててくれ。今準備するから」


 少し眠くなってきたのか、少し片言のルイエを宥めながらダンジョンへと命令を下す。


「罠一覧を表示してくれ」


【ダンジョン主からの命令を受託。今のDPから出来る罠一覧を表示します】


 お、気が効くな。


 最近のダンジョンは異様に気が効く。やはりこれも人間が生活出来る環境を整えたおかげか?


 そんな事を思いながら、罠とDPが表示されたボードを見て行く。


 なるほどな…まぁ、色々あるな。


 俺の今の所持DPは大体900P ぐらい。


 そこまで贅沢が出来ないDPだ。あまり大きな罠を張って一網打尽なんて、考えない方がいいだろう。出来るなら…そう、相手の足を数分止める事、それで良い。


「…よし、決まったな」

「何?」


 俺がそう呟くと、ルイエが耳を俺に近づける。


「まずは…」

「ふんふんふん…」


 俺はこれから起こす作戦の内容を、簡単にルイエと説明する。


 そしてーー


「それと聞きたい事があるんだが…」


 俺はダンジョンへと話しかけるのだった。



 ◇


「何だこれは? 瓦礫?」


 1人のある男は、お頭に言われ、何十人かの同僚を連れ、洞窟の入り口から少し入った通路で眉を顰めていた。


 地面には幾つもの岩の破片が転がっている。

 周囲の天井、壁はいつも通りで何も変わった所はない。


 何故こんな所に瓦礫が?


 男だけでなく、そこに居る全員がそう思った。


「「「っ!!」」」


 その瞬間、全員の足下に浮遊感が訪れる。


 それに数人が気づき、咄嗟の反応を見せる。


「うわぁあぁあー!!」

「あぁああぁあぁーっ!!」

「な、何でこんな所に落とし穴が!?」


 しかし何人かの同僚がその落とし穴にハマり、情けない声を上げる。


 その落とし穴に反応した男達は、それを見て目を丸くした。


「うおっ!?」

「あぶねぇな…」

「……何が起こってるんだ?」


 此処は俺達『アイスフェイス』のアジト。侵入者が来た時の備えはそれなりにいている。しかし、此処には落とし穴等作った覚えがない。どうなってる?


 そんな事を思って辺りを警戒していると、ある陰が見え、落とし穴から逃れた数人が各々の武器を構える。


 そしてーー


「おいおい、何だ? ウルフ?」


 そこから出て来たのは何の変哲もない…いや、少し顔に何かを付けているウルフの姿だった。


 男達は油断なく、武器を構える。

 此処に残ったのは落とし穴に落ちなかったアイスフェイスの中の精鋭だ。ウルフ如きどうって事ない。


 そう思っていると予想外の事に全員が驚きを隠せなかった。


「な、何だ!? 急に煙が!?」

「ゴホッゴホッ…な、何だ急に眠気が…」


 ウルフの近くから煙が噴き出され、瞼が重くなる感覚を覚えた男は同僚に指示を出す。


「外だ! 外に迎え!!」


 その男の好判断に皆が頷き、入り口に走り出す。


 しかしーー


「な、何だ!? これ以上前に行けねぇぞ!?」

「何だよこれ!? この透明な壁!!」


 どうなってるんだ…アソコにはただウルフがいただけ…はっ! まさか!!


 男は虚な目をしながら、辺りを警戒する。


 するとーー


「悪いな。アンタ達の事してないんだ」


 マジ、かよ。


 男は絶望に近い感情を覚えながら、その光景を目に焼きつけながら目を閉じるのだった。

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