第29話 盗賊? 何かヤバそう?

「ふぅ…今日も酒がうめぇなあ…」


 暗い洞窟の中、スキンヘッドで精悍な顔つきをした男は、透明なグラスの中に入っている赤ワインを呷り、そう呟く。


 そしてその周りには何十人もの者が頭を垂れていた。


 そんな所に、ある知らせが飛び込んで来る。


「お、お頭…」

「あぁ? 何の用だ? 良い気分で飲んでんのによお?」


 入り口を見張っている1番下っ端の男が、お頭と呼ばれる男の耳に口を寄せる。


 そしてそれを聞いた後、男は赤ワインの入っていたグラスを握りつぶした。


「…連れて来い」

「は、はいぃいぃ!!」


 その地面を揺らす様なその声は、知らせに来た男に情けない声を出させながら、入り口へと向かわせた。


 それから数分後。


「お頭ー!!」


 1人の男がやって来る。

 その男は1人の少女を腕に抱えていた。


「おい」

「「「はっ!」」」

「ぐっ!?」

「うわっ!!」


 その男は、お頭と呼ばれる男の一声によって、2人の手下の手によって、地面にへばり尽かされる。


 そして1人は抱き抱えられていた少女、サーナを確保した。


「な、何しやがる!?」

「お前…よくノコノコと俺らのアジトに来れたもんだな?」

「別に何もねぇだろうがよ!! あんな事ぐらい!! それよりもコイツだ!! コイツは売れる!!」

「あぁん?」


 お頭は眉を顰めながら、サーナへと目を向けた。

 サーナはその値踏みされる様な目に体を震わせる。


「……これの何処が売れるんだよ?」

「こ、コイツはアルベック山脈の麓でこの格好で普通に居たんだ!! 特別な能力がある筈だ!!」

「へぇー…コイツがアルベック山脈の麓にねぇー…」


 その目には少女の様子が鮮明に映されていた。


 服装は薄着のTシャツを羽織っただけ。それに藁で編んだ靴。ブーツではない。膝や膝が赤く、凍傷になりかけている。


 これで山脈の麓に?


 男の様子を見れば、嘘をついている様子ではない。


 なら本当にコイツは…?


 疑問は拭える事はないが…決まっている事はある。


「ま…お前はここに居て良い奴じゃねぇ」

「は!? 何を!?」

「…お前ら、始末しろ」

「「はっ!!」」


 男は2人の男に捕らえられ、奥へと連れて行かれた。


「さて…コイツは……そうだな、一先ずは奥の牢へと入れておけ。今は酒を良い気分で飲みてぇんだ」

「はっ!」

「手を出すんじゃねぇぞ!! そいつに手を出したら許さねぇからな!!」

「は、はっ!!」


 男は一層背筋を伸ばすと、サーナを奥へと連れて行った。



 ◇


「アソコか…」

「…どうにかして入らないかしら?」


 俺達はサーナが連れ去られたとされる、アルベック山脈の麓の洞窟の前へと来ていた。


 洞窟の入り口の両脇には、コートを着た2人の男が寒そうに体をさすっており、武器である槍の様な物を持っている。


「アジト、って事でいいんだよな?」


 見張りがいる、しかもその見張りが着ているコート。それなりの値段をしている様な物に見える。それから、此処はそれなりの団体である事が示されている。


 強い団体。しかも盗賊団に近いものだろうと予想が付いた。


 どうするか…。


「アノム」

「ん? どうした?」


 悩んでいると、ルイエが俺に小声で話しかけて来る。


「私、行ってみても良い?」

「……は?」

「じゃ」

「ち、ちょっと待てって!!」


 ルイエは俺の静止を聞かず、見張りの元へと足を進めた。

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