第2章 人との交流

第17話 人命救助

「ギギッ!!」


 ワームは威嚇音を鳴り響かせ、洞窟とは反対方向を向いて威嚇を続ける。


「…ガギル」

「…おぅ」


 俺はガギルに目配せをした後、近くの岩陰に隠れながら、ワームが威嚇した方向に静かに移動する。


 ガギルは移動せずに、ワームの後ろで腰に携えた拙いナイフを取り出し、前面に構える。


 最近ワームは、俺以外とも仲良くなって来ている。傷を負わされたエンペルでさえ、ワームの頭を撫でる程に。


 それが今はこの態度…近くに何かが居る。


 ガギルとあまり距離を取り過ぎないように吹雪の中、耳を澄ます。


「…はぁ……はぁ……はぁ……」


 俺は、微かな息遣いが前方数メートルの位置からする事に気付き、近くの岩陰まで迫る。


(…大分弱ってる?)


 そのか細い呼吸音から相手は元気ではないと分かった俺は、少し安心しながらも慎重に岩陰から顔を出す。

 するとそこに居たのは、人間の少女だった。


「ッ! 大丈夫か!?」


 俺はすぐ様、少女へと近づくと身体を揺する。


「異常に熱い…!」


 身体に触れると、素肌じゃないにも関わらず高温だと言う事が分かった。

 この寒いアルベックでこの高温はヤバい! 一瞬にしてそう思った俺は、急いで背中に少女を乗せるとガギルの元へと向かった。


「ガギル!! 病人だ!!」


 そう叫ぶとガギルは目を見開いて、視線を俺の背中へと移すと直ぐに表情を引き締め、頷く。


「分かった! ワーム! ちょっと我慢してくれよ!!」


 ガギルは直ぐに理解しそう言うと、ワームを手に乗せ走り出す。


 俺達は一直線に洞窟へと向かった。




 そんな時、霊王の洞窟前では…。


「zzz…」

「うーん、アノム達遅いなー」


 隣でルイエが耳栓をつけている中、エンペルが結界内で外を見ながら跳ねる。


「何かあったのかなー…」

「うっ…」


 エンペルが落ち込んでいると、近くでうめき声が聞こえて振り返る。


 そこに居たのは蹲り地面に倒れているジャルデだった。


「アレー? 何してるのー?」

「うっ…く、苦しい…」

「く、苦しいのー!? 大変ー!」


 エンペルがピョンピョンと結界内を走り回る。


「…何?」


 走り回った所為か、流石のルイエも目を覚ましてエンペルを睨む。


「ルイエー! 大変なんだよー!?」

「だから何よ…?」


 ルイエは目を擦りながら、エンペルを見る。その背後に目を移すと、そこにはうつ伏せで倒れているジャルデの姿があった。


「この人が苦しいそうなのー!」


 エンペルが大変だと言わんばかりにその場で何度もジャンプする。


「いや…その人レイスだから…助けなくてもいい」

「あー、そっかー。なら良いかー」


 ルイエに言われ思い出したのか、エンペルは跳ねるのを止めて大人しくなる。


「いや助けなさいよ!!! 人が死にそうになってるって言うのに!!!」


 これで解決と言わんばかりに寝ようとするルイエを見て、ジャルデが叫ぶ。


「…ほら、演技」

「本当だー、私を騙してたんだー…」

「あ、いや、本当に私消えちゃいそうなのよ? だ、だから助けて欲しいなー…なんて?」

「どうすれば良いかなー?」

「…ほっとこう。それからは何か嫌な感じがするし」


 エンペルとルイエは結界外から「そ、そんなぁ〜…」という言葉を聞きながら、また大人しくアノム達の帰りを待つのだった。

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