第4話






「…………へ?」


「家はどこだ?ここから近いのか?」


「はい、僕の家はこの道を曲がって真っ直ぐ行ってしばらく歩いたところにあります……って、じゃなくて!い、いきなり何を言っているんですか!?まさか、家まで送り届けると言って僕を奴隷商に売り払う気じゃ……!!」


「奴隷商?何を言っているか分からないが、ちゃんと家まで送り届けてやるから安心しろ。それに私はこう見えて……結構強いぞ」


「いや、強いとか弱いとかじゃなくて……!いたたたっ!?ちょ、離して、離して下さーー……ひんっ!?」



 女は嫌がるアルフの腕をがっしり掴み直すとそのまま腰を落とし……ビュンと目にも止まらぬ速さで路地裏を駆け出した。そのあまりの速さに小柄なアルフの体は耐えきれず、暴風に巻き込まれたように体が宙に浮いてしまう。



(うわああああああ!か、体が浮いてるううううう!?し、死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬーーッ!!)



 普通ではありえない出来事にアルフは死を覚悟するが、幸か不幸かアルフが気を失いかける寸前でぴたりと女の動きが止まり、アルフの体は慣性の法則に従い、前の方へと投げ出される。



「ふぎゃっ!?」


「着いたぞ、少年。」


「いたたたた……着いたって……え?」



 ずきずきを痛む体を押さえながら女の声に顔を上げた瞬間。アルフは驚愕に目を見開いた。なぜならばあの曲がり角からどんなに急いでも十分以上は掛かるところにある自宅が目の前にあったからだ。



「え?な、なんで僕の家が目の前に……?」


「? なんでって走ってきたからに決まっているだろう、少年」


「い、いや……走ってきたのは分かっていますが、あの曲がり角からここまで少なくとも十分以上は掛かるのにどうして……」


「ああ、普通に走ったらそのくらいは掛かるだろう。でも『疾風脚』を使えばあのくらいの距離なら一分も掛からないな」


「疾風脚……?……って、ええええ!?ま、ま、まさか……!お姉さん固有スキルが使えるんですか!!?」


「む、そうだが……なぜ少年はそんなに驚いているんだ?」


「お、驚くに決まってますよ!!だって……お姉さんは『職業持ち』ってことですよね!!?」



 ……ここで簡単に説明すると『職業持ち』とは特別な力を使える人間のことを指す。例えば、【剣士】という職業を持っている人間は固有スキル『身体強化』を使えるし、【魔術師】という職業を持っている人間は固有スキル『魔力操作』を使える。だが、職業を持っていても固有スキルを使いこなせない者も多く、大体の者は一般人として一生を終えることになる。しかし、ごく稀に固有スキルを使いこなし、達人と呼ばれる領域に到達することが出来る者たちがいる。それが『職業持ち』と呼ばれる者たちなのだ。そして『職業持ち』たちは皆例外なく強いため、国によっては『職業持ち』であるだけで高給取りになれる場合もあるほど重宝されている。


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