猫に戻りたがった人間になった猫

「ご主人様! 私を猫に戻してください! お願いします!」


 人間になった猫のリッチーは、大魔法使いである主人のモーズに言いました。


「だから無理だって~。何度も言ってんじゃ~ん、一度人間になったらもう二度と猫には戻れないよぉって~。リバース系の魔法は知らないんだってぇ……」


「そこをなんとか! 偉大なる魔法使いであるご主人様!」


「しかたない……もう一度説明するぞよ――ワシの偉大なる魔法『コネコ~ネ』は不可逆的であり――」


「そこをなんとか!」


「ちょっ、まるで話を気かな~い……。リッチーよ、ワシだってお前が猫に戻った方がどんなに良いと思っているか……」




 さて、なぜリッチーは人間に戻りたがっているのでしょうか?

 それは、人間になったリッチーがとてもブサイクだからです。

 顔が異様に大きく髪の毛はモジャモジャ、日に焼けた肌に横幅のある鼻と分厚い唇、それに口髭をもっさり蓄えていました。


 大魔法使いモーズは言います。


「せっかくお前を『ベシャ~リ』で口がきけるようにしてやって話相手として楽しんでいたのに……」


「話ならこのままでも出来ますよ!」


 リッチーは大きな顔を大魔法使いモーズに近づけます。


「出来るけど違うんじゃって! ワシはブサカワ猫なお前が口がきけて、話が出来るのが良いと思っていたのに……。とりあず、その顔近づけすぎないで……」


 大魔法使いモーズはリッチーの大きな顔を杖を使って押しのけました。


「それをお前は……ワシがこっそり書いてる『モーちゃんのマル秘魔法メモ』を盗み見て自分に魔法を掛けるとは……」


「だってご主人様! 私が猫だった時にご主人様が連れて行って下さった村の酒場、私はそこにいる人間達皆から『ブサカワ』と言われてチヤホヤされました。しかしやがて人間達は酒席に戻り、飲めや歌えのドンチャン騒ぎに興じます。で、『ブサカワ』の意味は解りませんが猫の私がこんなにチヤホヤされるんだったら、人間になってもチヤホヤされて、皆と一緒にドンチャン騒ぎに興じることが出来るでしょう……チュッチュアハハでムフフな展開もさもありなん! そう思ったのです!」


「う~ん……不純! リッチーよ、お前は猫だから『ブサカワ』とチヤホヤされたのじゃ……。人間になったらただの『ブサイク』よ……」



 その後、偉大なる魔法使いモーズは、人間になったリッチーを猫に戻す魔法を作り出すことに成功し、リッチーは元の『ブサカワ』猫として人間達に愛され続けました。

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