第4話

 俺はどういった経路で復讐に手を貸してほしいと頼んだのか、という事と俺が一度殺されていること、そして、時が戻ったこと。

 それらの話をしている間魔王はじっとこちらを見ながら静かに聞いていた。


「なるほど。大体理解出来た。勇者の復讐には興味無いが私は勝負に負けている。それは手伝おう。」


 とりあえず手を貸してくれるようで安心した。魔王の力と俺がいれば国一つ滅ぼすことができるはずだ。

 王や騎士には最大限の絶望を味あわせてあげることが出来る事に喜びを感じる。


「しかし時が戻るか…」


 魔王はブツブツと何か考えているようだ。時が戻ることについて何か知っていたりするのだろうか。


「貴様は何故、勇者が魔王を討伐するようになっているか知っているか?」


 魔王がそんなこと聞いてくる。勇者が魔王を倒すのは昔からよくある話でそれが当たり前だ。勇者は魔王を倒すために生まれて来るとずっと言われてきた。


「勇者が16になるまで待機するより、王国騎士のような者を復活したばかりの私に送って討伐させる方が効率的だと思わないか?」


 魔王の質問について思考を回転させる。魔王を討伐せず、勇者の成長を待つ理由があるとすれば、数で押しても勝てないから?自らを危険に晒したくないから?

 いや違う。たとえ数で押せなくても俺の仲間ぐらい強い者なら騎士団の中にも沢山いるはず。

 危険に晒したくないとしても、魔王を十数年放っておく方が危険だ。だとすれば、


「勇者にしか倒せないから……」


 呟くようにしてそう答える。勇者にしか倒せない、前、仲間と一緒に倒した時は俺じゃなくても魔王にダメージを与えていたはずだから、厳密に言うと勇者でないと魔王にトドメをさせないということになる。


「あぁ、そうだ。勇者にしか魔王は倒せない。逆もまた然り。歴代の勇者は魔王を倒した後、老衰で死んでいるはずだ。」


 そう魔王は答えを言う。

 あの時王国騎士に殺されたことが時が戻った原因ってことか。

 俺がそう言うと、魔王は恐らくそうだろうなと言って肯定する。


 勇者や魔王が適切な倒され方をされないと時が戻ってしまうのは分かったが、何故そうなるかは全く分からない。

 あるとすれば魔法だが、時を戻すなんて魔法存在するのか?たとえ存在したとしても凄く高難易度のはずだ。そんなものが扱えるのか?


「悩んでも解決しない事は神の所為だと言ってしまえばいい。」


 無言で思考を巡らせていた俺に魔王がそんな事を言った。魔王の言葉に少し呆ける。

 魔王でも神の所為なんて言うんだな。可笑しくなって笑ってしまう。それもそうだな、と言ってさっきまで考えていた事を思考の隅に移動させる。

 

 少しの間魔王と会話をする。お互いに使える魔術だとか何が出来るのかとか、これから役に立ちそうなことを共有する。

 俺の復讐が達成する間は裏切ることはないだろうが、後のこと分からない為、流石に全て教えることはできない。強力すぎる魔術だったりは共有してない。きっと魔王もそうだろう。

 粗方、共有も終わり、そろそろ王都へ向かうか、そう思った時だった。


 パリンと何かが弾けたような音が微かに聞こえた。


 魔王城の中を見渡すが何かが壊れたような後はない。

 魔王の方に目を向けるが魔王は何も聞こえてない用で急に振り返った俺を不思議そうに見ていた。

 ふと魔力の減少が止まっている事に気がつく。魔術を使用している間、魔力は減り続ける。それが今、止まった。

 凄く嫌な予感がする。


「どうした?」


 急に黙り込んだ俺に魔王がそう言葉をかけてくる。


「王都は後だ。今すぐ俺の村へ向かう!」


 焦って少し声を荒らげてそう魔王に伝える。

 どうする?ここまで2、3日かかる距離だ、急いで向かったとしても間に合うか?

 いや、関係ない。できるだけ早く村へ帰るんだ。


「村がある方角は?」


 城の外に出て、馬を呼ぼうとしている俺に魔王が後ろから声をかけてきた。突然の質問に対して疑問に思いながら、王都から東の方だと答える。

 俺の答えに魔王は頷く。俺は頭に疑問符を浮かべたまま立っている。ふと、浮遊感を覚える。

 担がれている。小脇に抱える形で。


「馬で向かうよりこちらの方が速いだろう。」


 魔王はそう言うと、大きな音を立てて空へ急上昇する。上昇する際の強い風圧が止み、ゆっくりと目を開ける。


「は……?!」


 思わず声が出てしまう。俺は今、さっきまでいた魔王城が小さく見える程高い位置にいる。

 チラッと魔王を見る。こいつは空も飛べたのか。

 城の中だったから飛べなかっただけで、魔王城の外で戦っていたら俺に勝ち目はなかったのではないか。

 魔王が俺に協力してくれて良かったなと密かに思う。


 魔王が俺を抱えて村の方向へ進む。小脇に抱えられてる俺は今生で1番と言っていいほどださいはずだ。はぁ、と心の中で溜息をついた。


「それで、貴様の村に何が起こった?」


 そんな声が頭上から聞こえてくる。魔王の言葉を聞いて、何も理由を伝えていなかった事を今思い出す。


「村を出る前に守護の魔術を村にかけたんだ。その魔術で減り続けていた魔力が、先程、一切減らなくなった。魔術が破られたのかもしれない。」


 勇者の紋章を使用した魔術が破られたなど考えたくもないが、勇者の紋章も万能ではないのだろう。

 複数の魔術師が攻撃したか、殺意のない獣や村の人が気づかず魔法陣を消したか。後者であれば嬉しいのだが。


「何も起こっていなければいいが。」


 そう言うと魔王が、はぁ、と溜息を吐いて、飛行速度を上げる。

 突然上がった速度と風圧にギュッとめをすぼめる。薄らと映る視界の先に俺の村が見える。


「魔王!あれだ!そこに見えるのが俺の村だ。」


 俺がそう叫ぶような声で魔王に伝える。すると、速度は変わらぬまま、地面に近づくような飛び方に変える。


 村に近づいてくると、村の入口付近に大勢人がいるのが見えた。腰の剣に手を置いて、ギュッと握りしめる。


 目を凝らすと、鎧を着ているのがわかる。王国騎士だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る