第10話 一途なサキュバスvsおバカな獣人



「もう! なんなのよ! 負けを認めなさいよ!」


「ギャッ!!」


 キャシーはそう言って腰辺りから生えている尻尾を起用に使って、ゴブリンキングたちをなぎ倒していく。


「あなたこそ負けを認めるのです! われはお前に勝って、ロンベルトさんのつがいになるのです!」


「ギャッ!」


 俺のつがいになるこだと豪語している獣人ことミラは自身のかたいツメを使って、ゴブリンをなぎ倒していく。


「いいかげんそんなこと言うのやめなさいよ! 私はロンベルトさんのパートナーなんですよ!」


 キャシーは、ミラが俺のつがいになるのだと宣言したとき、暴れた。言葉通り、怒り狂って暴れたのだ。周りの壁に穴を開けていたりして。


 だがそれは、俺がなんとかなだめて怒りは収まった。のだが、次のミラの言葉ですべてがもとに戻ってしまった。


「よし、こう言うことにします。今からここにいるゴブリンキングを、倒したのが多かったらほうがロンベルトさんのつがいになる。これでどうです?」


 その言葉を聞いたキャシーは、


「そうしましょう……」


 と一瞬で返答して今に至る。


 ちなみに俺は魔石回収係。今の魔石の量は両者互角。だけど、キャシーのほうが息が荒くなって来ている気がする。さすがにそろそろ、体力の限界がせまってきているのか……?


 一方ミラは、さすが獣人。何度も、最初から変わらないスピードでゴブリンのことを倒していってる。


 って、俺はなんでこんな真面目に分析してるんだ?


「ふっふっふっ〜!! さぁペースを上げていきますよ! ついてこれますか!?!?」


 ミラも俺と同じく、キャシーが疲れてきていることに気づいたのか煽るようにして言ってきた。


 こ、これより早くなるの……?

 無理だよ! 今でさえも、スキルを使ってなんとかついていってるのにこれ以上早くなったら追いつけないよ!! 


 頼むキャシー……。こんなのどうせ、ミラがふざけて言ってるだけなんだ。だから、このままのペースにしてくれぇ〜。


「望むところよ!!」


 うっそぉ〜ん……。


「「おらぁああああ!!」」


 キャシーとミラは二人して奇声を上げながら闇の中に消えていった。


「あの……これって、俺のことを奪い合ってたんじゃないの?」


  

  *



 私はサキュバス。

 この前、初めて精をもらったもう立派な大人のサキュバス。私のパートナーは頼れる男の人! まだ、どんな人なのかわからないけどその……ベッドの上で結構激しかったからいい人だと思う。

 

 そんな私はこれからロンベルトさんと、一緒にラブラブ過ごして毎日精をもらうはずだったんだけど……。

 ロンベルトさんが解放してあげた獣人のミラっていう女が、つがいになるとか言い出したの!

 

 何なのよこいつ! ロンベルトさんに助けられたからって急に番になるなんて言い出して! い、いや私も助けられてパートナーになったんだけど……。


 それとこれとは別! 急に出合い頭ロンベルトさんに、「番になる」なんていう淫乱な獣は私が許さない。というか、私以外にロンベルトさんを渡したくない!!

 

 そんな思いで、ミラの挑戦をうけたのだけどそろそろさすがに息が上がってきた……。


「早く……はぁはぁ……。負けを認めなさいよ!」


「われが自分から負けを認めるなんて、死んでもありえないのです!!」


 何なのよこいつ……。

 獣人だけあって、まだ体力の底が見えない。下手したらもっとスピードをあげられちゃう。こんなスピード、人間にはついていけな……。


「あれ?」


「ふっ! とうとう負けを認めたのかです!!」


 ミラは、私が立ち止まったのでそんなことを言ってきた。


 この娘ってどこまでもおバカさんなのね……。

 って、おバカさんはこんなことに付き合っている私もだと思うけど。


「ロンベルトさんがいない……」


「へ? ほ、本当だっです!」

 

 ミラはそう言って、地面に膝から崩れおちた。

 

 一体、いつからいなくなっていたのだろう。ミラがスピードをあげたとき? いやそれよりもっと……。

 お互いに競い合っていたから気づくのが遅すぎた。

 これは完全に私たち二人の責任。


「お前のせいです!」


 ミラは私に向かって意味がわからないことを言ってきた!

 

 私のせい……? なんで? どうして? 

 まぁたしかに、私たちが後ろにいるロンベルトさんのことを確認もしないで好き勝手していたのは悪いと思ってるけどさぁ……。


「あなたが早くするとか言ったからでしょうが!」


「ギャッギャッギャッ!!」


 私たちが言い争っている間にゴブリンキングが入ってきた。


「「うるさい(です)!」」


 私たちは一瞬にして倒した。


 このゴブリンキング……。空気とか読めないのかしらね! ちょっと可愛そうだわ!


「で、どうするのです……」


 ミラはゴブリンキングに八つ当たりをして気分が落ち着いたのか、冷静になって聞いてきた。

 

 なんだ……。思っていたより、おバカさんってほどでもないのね。


「そうね……」


 どうするっていっても、迷宮の右も左も分からない私たちが何かできるのだろうか……? いやできないと思う。なら……。


「とりあえず後ろに戻りましょう」


 後ろっていうよりかは、後ろにある落ちている魔石を辿っていけばいずれロンベルトさんにたどり着くって思う。


「な!? ロンベルト様のことを探しに行かないのですか!?」


「そんなことしても私たちが余計に迷子になるだけよ。ロンベルトさんには私たちのことを見つけ出すスキルがあるの。だから、とりあえず後ろに戻りましょうって言ったのよ」


 ふふん。この娘はまだ、ロンベルトさんが持ってるつよつよスキルについて何も知らないのよね。まぁ私のほうが一緒にいるし、説明もしてもらったから知ってるんだけどね。


「へ〜……そうなんですか……」


 ミラは私の説得にすぐ納得すると、歩き始めた。

 私も隣で歩いていく。


 この際だから少し、釘を差しておいたほうがわね。


「ふふふ……そうよ。まぁあなたが知らないのも無理ないわ。だって今さっき知り合った仲なんだから」


「ぐぐぐ……」


 その言葉を聞いたミラは悔しそうに歯ぎしりをした。


 そう。そうそう。そういうのを待ってたの! 悔しがるのってたまらなく見てて楽しいわ……。

 よし。もう一つ爆弾を投入してみようかな?


「これでも私、ロンベルトさんと一夜を過ごしたことがあるのよ?」


「んな!? それってまさか……」


「そう、そのまさかよ。あぁ! あの夜、ロンベルトさんが私のことを求めてくれたことが頭から離れまない!!」


「ぐはぁ!! はぁはぁ……」


 ミラはなにかに体を貫かれたかのように倒れ込んで、息を整えている。

 

 …………これ、結構面白いわね。

 ロンベルトさんのことを守ることができて、私が面白い反応の見られる。次は何を言おうかしら。


「はぁはぁ……ってことは、あなたたちはかなり前からの知り合いなんですか?」


 最悪! この娘、最悪の質問をしてきた!

 それを言ったら昨日になるんだけど、そんなこと言ったら絶対にバカにされる。「昨日出会っただけで何偉そうにしてるんですか?」って! どうしよう!?


 さすがにロンベルトさんとの仲は嘘は言えないし……。


「……昨日よ」


「な、な、な!! 昨日出会って、昨日一緒に寝たのですか!?」


 ミラは信じられないような顔をしながら私に聞いてきた。


「そ、そうよ! 私はサキュバスなのよ! なにか悪い?」


「われ、お前みたいなやつなんていうか知ってます」


「なによ……?」


「淫乱です」

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