第2話 王との謁見

 それから一月ほど後の、晴れた日の昼過ぎのこと。いつもの如く、中庭にて夕食用の食材を探しておった王女であったが。急に国王ダレイオスに呼ばれた。


 着替えもせず、長袖長ズボンのいわば野良着のらぎが許されるは、まさに実の父子ゆえというほかない。


 普段なら、そのかぶる帽子――花が添えられてあり、また王女らしくかわいらしきものであったので――ただ王女の目的はそこにはなく、あくまで目当ての食材をおびきよせようというものではあれ――をほめでもして、国王の方から愛想を振って来るのだが。


 今日ばかりはそれは難しいようで、うかない顔で次の如く言った。


「タマゴ王子の母国は、今回のことを許せぬと言うて来ておる。しかも王子自らが魔道師部隊を率いて、から覚悟しておけとまで」


「ならば、私が出向きましょう。」


「おう。謝って来てくれるのか。さすれば、相手も怒りをしずめ、ほこを収めよう」


「違います。私は何も悪くありませぬ。父上は私に何をあやまれというのですか。ましてや、とっちめられるようなことは何もしておりません。そうではなく、魔道師として、私がお相手してさしあげましょうと言っておるのです」


「そなたの言い分は分かる。しかしあえてことを大きくする必要はあるまい。そなたは結婚に合意しておったではないか。赤の他人なら、その怒りも分からぬではない。しかしどうせ抱かれるつもりだったのだろう。ならばひとさわりくらい」


「なりませぬ」


 と言い様、眼前にひざまずく王女がにらみあげたならば、国王は想わず身を引いた。これまでにも何度かその火を点けられ、先の王子に劣らず、大騒ぎをしてみせた国王であれば、それも当然と言えようか。


「とすると、そなたといつもの部隊で迎え撃つというのだな」


「私一人でも十分です。しかしそれは父上がお許しになりませぬ」


「確かにそなたは強い。しかし魔道のやり合いをする以上、常にもしもということはありえるのだ」


 そこで王はすがるが如くの顔つきとなった。子を想う親の心情というのは、王女にも分かる。そして幼い時から、何度聞かされたか知れぬ言葉がやはりこの後に続いた。


「妻の忘れ形見はそなただけだ。そなたを失えば、どうやって生きていけというのか」


 国王はついにぐっすんとなる。

 

 ただこれは芝居である。そしてそのことが私にばれていることには気付いておるだろうに。にもかかわらず、これをやらねば父の気が済まぬらしい。


「泣かないで下さい。怒りますよ」


 そう一言、言われただけで、やはり涙はあっさり引っ込んだ。一度として成功したことがないのに、ついつい泣き落としに走るは、まさに父親ゆえの愚かしさというほかない。未だに娘にそうした可愛らしさを求めずにはおれぬとみえる。それが無い物ねだりとは気付いておろうに。

 

 かあさまがおられれば違ったろうかと想うと、少し父が不憫ふびんになり、それゆえ怒りはおさまったのだが、相も変わらず娘の心を読むのが苦手らしく、


「分かった。その怒りはあの王子にこそ向けよ」


 そう言い残すや、国王は自らがあるじであるはずの、その謁見室から急ぎ逃げ出した。

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