第2話

 次の日も、腹を空かせていた。道路はバキバキに凍っていて、とても寒い。


 そんな早朝、昨日の地味な女がまた来た。


 ミャー。ぼくは威嚇のつもりで一声鳴いた。けれど女は立ち去ろうとしない。


「寒くなかった? 本当は野良猫にご飯あげちゃいけないんだけど。うちの子になってくれないかなぁ?」


 それは、甘いささやきで。うっかり信じてしまいそうになる。


「大切にするよ。毎日ご飯食べて。お友達もたくさんいるし。どうかな?」


 どうしてぼくなんかに話しかけてくるのかわからないけれど、女は到底暴力をふるうような人間には見えなかった。


 やさしい人間なのかな?


 いやいや。そうやってみんな、殺されたりしてきたのをこの目で見たじゃないか。


 ぼくはもう子猫じゃないんだし、自分で言うのもなんだが、可愛げがない顔をしている。


 おとなしそうなフリしてたって、この女もなにするかわからないからな。


「じゃあ、帰りにまたよるからね」


 女が立ち去ると、なぜだかさみしい気持ちになった。


 信じても、いいのかな?


 人間は敵だ。


 でも、あの女は、いい匂いがした。仲間たちの匂いがした。


 きっと、毎日を楽しく暮らしているのだろう。


 飼い猫への憧れがないわけじゃない。


 だったら。


 次に会いにきたら、その時は女の言う通りにしてみようか?


 そのことを思うと、なんだかわくわくしてきた。


 だけど、空腹はまぬがれない。


 そんな時、一匹の猫が車にひかれた。車道に転がった猫は、まだ息があるものの、すでに周辺にカラスがよってきている。


 ゴミ問題は、カラスにとっても切実なのだ。


 なんとなくいたたまれなくなった。


 たとえば、すぐにあの女に連れられていたら、こんな気持ちにはならなかったのに。


 たとえば、どうして素直になれなかったのかがわからない。


 仲間の死は、いつも心を深くえぐる。生きているのとおなじくらいのつらさや衝撃がある。


 やがて、歩道側の店舗から男がゴミ袋を広げて出てきた。男は、なんのためらいもなく、まだ息のあるその猫を、トングで掴んでゴミ袋に入れてしまった。


 やっぱり、人間なんて信じない。


 つづく


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