激闘

 死神のジジが、ゆらゆらと、まるで亡霊か何かのように左右に体を揺らしている。首を下げているため、フードに隠れた表情は見えない。恋火はそこから、どこか危険な予兆を感じ取った。

 ジジがガッと顔を上げた。見開かれ、血走った目。裂けたように広がる口角の上がった口。覗く八重歯。

「フフ、ハハハハハハハ!」

 ジジは狂気の表情で笑い声を上げた。

「面白いぞ、お前!」

 ジジが一っ跳びで恋火に接近した。その小さな体に似つかわしくない大鎌を振り回す。

 恋火はジジが繰り出した太刀を冷静に刀で受け止めた。

 グワーン、という鈍い振動音が鳴り響く。水面に波が広がるように。

「こんな気分は久々だ!」

 ジジが連続で攻撃を繰り出してくる。恋火は後退しながらいなしていった。

「本能がかき立てられる! お前をぶっ殺してやりたい!」

 死神の野蛮な言葉に気を取られることなく、恋火は集中し続けた。

「そのはらわた抉り出して、切り刻んで、骨までしゃぶってやる!」

 恋火は隙を見て、攻撃に転じた。その小さな体に向けて一閃する。

 ジジが大きく跳躍しかわした。

 両手で鎌を振り被り、恋火の首元目がけて振り下ろしてきた。

「死ねぇ!」

 恋火は後ろに飛び退る。

 ザン!

 大鎌の刃先が床に突き立てられた。そこを中心に地面に亀裂が走り隆起する。とんでもない馬鹿力だ。

 恋火の視界に銀色が奔る。意識するよりも先に体が動き、恋火は前方に向かって刀を振り下ろしていた。

 恋火はブンブン回転しながら飛んできた大鎌を叩き落とした。危ない。あと一瞬遅れていたら真っ二つにされていた。

「アハハハハハハハ!」

 ジジは亀裂の中心に立ち、高笑いした。何がそんなに可笑しいのか。神様の考えていることはわからない。

 自分たちのしていることは、神への反逆なのだろうか。

 たとえそうだとしても、やることは変わらない。

 大切な仲間を奪われて、黙っていられるわけがない。

「風楽。今行くから」

 十字架に磔にされている彼に言葉を飛ばす。

 彼は、待っていた。

 自分を信じてくれている。

 もう一度、彼の手を取りたい。

 恋火はいまだ高笑いしている気の触れたジジに向かって走った。

 刀を構え、刃を振りかざした。



 想いが、流れていく。

 大樹に伝わり、世界を成長させていく。

 熱く燃え上がる火の魂が、枝先に実を実らせていく。

 その様子を見守っていた少女は、鈴を転がしたような声で囁いた。

「これで最後」

 少女が大樹に生った朱い実に触れようとした時、大樹の陰からニニが現れた。

 ニニは持っている鎌の刃先を少女の首筋に当てた。

「もう茶番は終わりよ」



 恋火の一太刀は空を斬った。ジジの体はカラスへと変わり、宙を飛んだ。そのまま血の色の空へ向かって飛んでいった。退屈そうなカラスの鳴き声を残して。

 暴れるだけ暴れて急にいなくなるなんて。やっぱり神様の考えていることはわからない。

 恋火はゆっくりと歩きながら、風楽に近づいていく。

 ようやくだった。

 これでやっと、本当の再会だ。

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