第28話「驚愕!問題児仙田登場」

「天城さん!」


 僕は立ち上がり、天城さんの手を引いて立たせる。


「え、ちょっ」


 天城さんは突然の僕の挙動にポカンとしている。


 僕は天城さんを連れてトイレ横にある展示パネルの後ろに隠れた。


 傍から見ればきっと異常者だろう。


 しかし、そんなことを気にしていられない異常事態だ。


「あっきー!いきなりこんなところに連れて何なの!?」


 天城さんは何が何だか分からない様子で僕を問い詰める。


「奴がいたんです。仙田が」


 僕は仙田の方に目をやると、天城さんも僕の視線を追ってようやく状況を理解したようだ。


「せ、仙田くん!?どうしてこんなところに!?」


「今の奴に見つかってしまえば僕達はあることないこと噂されるのは間違いないです」


「た、確かに…見つかったら面倒なことになりそうだね」


「とりあえずここに隠れてやり過ごしましょう」


 天城さんは頷くと身をかがめる。


 僕は仙田の動向を追った。


 どうやら奴は気づいていないらしい。恐らくここは死角になっているようだ。


 仙田は僕達が隠れているパネルから十メートル離れたところに位置する発券機に行ってチケットを買う。


 そして、パネルとは真逆の売店の方へと足を進めたのでほっと一安心する。


 しかし、仙田はくるっと百八十度回転して僕達の方へと向かってくる。


 仙田はトイレに行こうとしているのだ。


 すっかり安心した僕は見事に顔がはみ出ていたことに気づいていなかった。


 僕と仙田の目が合ってしまった。


「あきら!ってなんでそんなところに隠れているんだよ」


 仙田は訝しげにこちらへと近づいてくる。


 僕はパネルの裏を覗き込まれたらまずいと考え、自分から外に出てパネルの前に立つ。


「い、いやぁ暇だったから一人で映画を観に行こうと思ったらさ、お前を見かけて、会いたくなかったから隠れていたわけで」


「一体俺が何をしたっていうんだよ!」


「お前がいたら碌なことがないからな。仙田こそ一人で映画を観に来たのか」


「あぁ、俺は次なる女子を落とすために映画に誘おうと思ってな。映画の事前調査ってやつだ」


 仙田も映画デートを企てているらしい。僕は仙田と同レベルという事実がなぜか悲しかった。


「なあ、お前さ、何か俺に隠しごとしてないか?」


 仙田の一言に僕は心臓を掴まれた心地がした。


 確かに、パネルに隠れていたら誰でも怪しむのは間違いない。ひょっとすれば仙田ならやり過ごせるかと思っていたが流石にそうはいかないらしい。


「は、はあ? 僕は清廉潔白がふさわしい紳士なんだ。そんなことあるはずないだろう」


「もしかして誰かと来ているとか? パネルの後ろに誰かいるんじゃないか」


 僕の雑な返しを無視して仙田はパネルの裏を覗き込もうとしてくる。


 僕は通せんぼをし、奴の前に立ちはだかる。


「やっぱり何か隠しているだろ」


「いや、隠してなどいない」


「じゃあ何で通せんぼするんだ」


「ちょっとした気まぐれさ」


「ええい、こうなったら力づくだ」


 仙田が僕を強引に押しのけようとしてくる。


 当然、スポーツ系の仙田に貧弱な僕が勝てるはずもない。


 ああ、これはバレてしまう。


 すると館内でアナウンスが響いた。映画開始の案内のようだった。


 それを聞いた仙田は僕を掴んでいた手を外した。


「いけね、もう映画始まるわ。トイレ済ませてフード買いに行きたいからここでお暇ということで。また今度問い詰めるからな!」


 仙田は思い出したかのように、僕に別れを告げて目の前のトイレに入っていった。


 僕は仙田が見えなくなるのを確認すると、パネルの裏に隠れている天城さんに合図をし、急いで映画館から出ていった。


 ショッピングモールの通路まで行くと僕達はガラス手摺にもたれかかり一息ついた。


「奴は相変わらず間が悪いですね」


「全くだよもう…いや別に仙田くんが悪いわけじゃないんだけど」


「仙田感知センサーなるものが欲しいです。彼にGPSでも付けましょうか」


「ふふっ、それじゃもう仙田くんのプライバシーを侵害しちゃってるよ」


 僕達は戯言を言って笑いを漏らした。


 そして、二人の間にぎこちない空気が流れる。


 天城さんは僕の顔から目を逸らし、自分の髪をいじっている。


 きっと、僕の方から誘ってくるのを待っているようだ。 


 心の準備などしていないが、僕は天城さんに言う。


「こ、この後って、ひ、暇ですか? そ、その、少し早いですが、ご、ご飯でも行きませんか」


 僕は吃りながらも天城さんを誘った。


 面と向かって異性にお誘いするのは僕にとってハードルが高かった。


 すると、待ってましたとばかりに天城さんは目を輝かせた。


「いいよー! このショッピングモール内にね、あたしが行きたいと思っていたオムライスの店あるんだ。そこ行かない?」


 僕が頷くと、天城さんはオムライス店まで案内してくれた。

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