ループ2

我がサークルの新歓

第3話「入学式とは上級生によって新入生がハントされるイベントだ」

 目を覚ますと、見覚えがある風景が映し出された。僕の下宿だ。


 しかし、新居同然で部屋は綺麗に整理されていた。


 机の上に一枚の紙が置かれていたので目を通すと、「二〇二〇年度入学式のご案内」と記載されていた。二〇二〇年?二年前の資料がなぜここに。


 スマホのロックを解除し、カレンダーを確認すると今日が二〇二〇年四月一日であることが分かった。


 正直、先ほどの話は半信半疑である。さっきのは夢で、これはその延長線上か。


想像してみてほしい。夢の中で自分が死んだと告げられ、更には時間遡行の能力を手に入れて大学一年生からやり直せると言われたのだが、そのような非現実すぎる事実を理解できるほど頭の出来が良くない。


 なので、あそこでは納得した素振りを見せたが、まだ腑に落ちていない。皆もそうだろう?


 もしかすると、これは仙田によるドッキリで、返信をよこさない僕のことが心配で様子を見に来たら僕が酒で潰れていたので一つ仕掛けてやろうと目論んだのかもしれない。にしては手が込んでいるので奴もよっぽど暇なんだろう。


 しかし、もしかしたら、ということも考えられるので僕は入学式用の身なりを整え、大学に向かった。仙田なりの励ましなのであれば、甘んじて乗ってやろうじゃないか。



 結論から言うと、本当に二〇二〇年四月一日であった。


 入学式には、講義で見たことがある奴らが新入生の顔つきで参加していたし、学部別で分かれて行うガイダンスの名簿に僕の名前がしっかり掲載されていた。


 ということは、あれは夢なんかじゃなく、本当にあの世だったということだ。


 僕は青春ライフをやり直すことができる。やり直せるからと言って誰かと付き合える保証はないが、僕だって一度くらいはラブソングなどで語られる恋愛に共感してみたい。


 誰と付き合いたいのか。もちろん、蓬川さんに対する熱は冷めていない。二年も想い続けているのだ。


 しかし、一度フラれてしまったことで彼女にとって僕は(どうでも)良い人だということが分かった。


 一周目でどんなに頑張っても振り向かせることができなかった僕は、蓬川さんにふさわしい男になれるのだろうか。


 蓬川さん以外にも魅力的な女性はいるのであれば、別に彼女に拘る必要はないのではないか。


 ガイダンスが終わって大学から出ると、大勢の上級生が獲物を見つけたかのように一斉に非力な新入生諸君に襲い掛かった。


「君!ガタイがいいね!ラグビーやってみない?」


「インテリジェンスな顔立ち、きっと我がクイズ研究会で大活躍!」


「今はグローバルさ。英語を話せたら可愛い外国人と付き合えるよ、一緒に勉強しよう」


「君の声はうちの軽音サークルでも通用するよ。どう、この後ひま?」


 一方通行な勧誘が押し寄せる。


 圧に負けてとりあえず話だけでも聞いてみようとブースに向かうものなら無駄に近い距離感で会話を強引に進められ、結局入部する気にもなれずに心を痛めながら断りの返事をして双方不毛な時間を費やすことになる、というのが僕の見解だ。


 新入生たちが餌食になっていくのを横目に去ろうとすると、既視感ある展開がやってきた。


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