転生先はやりこんだゲームの世界

ホークピーク

第1話 マイナーゲーム<黒竜と魔王>へのひとりぼっちの転生

 俺は死んだらしい。突然死だった。

 死因はどうでもよいとして、ここはどこだ?

 周囲にはこれといったものは何も見えない。霞がかかっているようだ。

「あなたは死にました。ここは死後の世界ということになります」

 突然声がした。

 と思ったら目の前にフードを目深に被って顔の見えない女性が立っていた。

「説明してもよいでしょうか?」

「はい。あぁ、あの、死後の世界?」

「死にましたから」

 女性はなんでもないことのように肩をすくめた。

「これから転生します」

「異世界転生みたいな話ですか?」俺はちょっとわくわくしてきた。

「そうです。当然じゃないですか。死んだら転生するんです」

「誰でも?」俺は眉をひそめた。

「全員が転生します。地上ではそういった知識もないそうですね。簡単に説明しますと死後どうするかというのは神々がその時折に定めています。

「現在、地球で死んだ人間はその地球での生活の中でもっとも時間を費やしたゲームの世界に転生します。転生しようがないゲームやゲームをまったくしていない人は地球で輪廻転生します」

 俺は天を仰いだ。

 俺はこう見えて?もゲーマーだった。最近のちゃらい?ゲームなんかじゃない。俺が10歳の時に発売された<黒竜と魔王>を30歳となった今でも続けているんだ。最も時間を費やしたゲームだというならいうまでもない。これだ。

 その女性、いやもう認めよう。女神だ。女神はどこからともなくタブレットのようなものを取り出した。

「なるほど。あなたのゲームは<黒竜と魔王>なのですね。初めて見ました」

「はじめて?」

「これまで一番多かったのは<竜探索>でしょうね。多くの皆さんが同じ世界へ転生しています。行った先は天国のようですよ?」

「なぜです? <竜探索>といえば魔王も復活するような世界じゃないですか」

「どれだけの人が転生していると思いますか?」

 地球の人口が約80億人。インターネット人口が半数超として少なめに見て40億人。そのうちゲームをするのはどれぐらいだろう。転生に適した世界観があるということだとRPGをはじめアドベンチャーゲーム。もしかしてレースゲームなんかも背景に映し出される世界(ほとんど地球だけど)がる。

 そういったゲームをしたことがある、ということならざっくり10億人ぐらいか。

 死亡者ということだから単純に1/100にして毎年1000万人弱か。

「<竜探索>は世界的なヒットだから、毎年100万人ぐらい?」

「当たらずとも遠からず」

 女神ははっきりとは答えなかったが、大外れと言うことではないらしい。

「ファンタジーの世界の人口は多くても数億人です。そこに毎年100万人規模で地球の知識が持ち込まれる」

 女神はこどもに言い聞かせるような口調で言った。

「あなたがたのいうチートどころではありません。圧倒的な知識とスキルであっという間に工業化が進みました。知り合いも多く転生しています。場所も地形も違いますが日本もあるんですよ。しかも魔法があるものですから工業+魔法で地球よりもいろいろと進んでいます」

「スチームパンク的な世界観」俺はうめいた。「うらやましい」

 メジャーなゲームの世界はどこも同じだと言うことだろう。

 膨大な数の人間が転生し、協力(敵対もあるだろうが)して科学技術を進展させる。しかも魔法の類いのある世界ではずっと優れた技術となる。まさに天国だろう。天国としてイメージするのに近い世界になり得る。それは容易にイメージできた。

「それに引き換えあなたの<黒竜と魔王>では今まで誰も転生していませんし、今後の予定もありません。ひとりぼっちですね」

「いやいやさすがにそれはないでしょう。ゲームの作者とかいるでしょ?」

 俺は苦笑して見せた。強がりだったかも知れない。

 女性は顔は見えないけれども可哀想なものを見るような表情をしているのがわかった。

「それを含めて誰もいません。作者らもこのゲームはそれほどの思い入れがなかったのでしょう。次作以降の世界へ転生の予定です」

「うわぁ」俺は頭を抱えた。

 何という天罰だろうか。

 超マイナーなゲームを続けていたせいで、一人だけで異世界転生をしなければいけないという。メジャーなゲームの世界なら種族規模でのチートでもしかすると地球よりも進んでいるとさえ言うのに。

「な、なにかスキルはいただけるのですよね?」

 俺の希望はあっさりと横に振られた顔に否定された。

「ありません。この地球での人生で得た知識はそのまま引き継がれます。それだけです。それで十分なんですよ」女神は付け加えた。「普通は」

「そんなのあんまりだ」

「普通は少なくとも同じ世界へ転生者がそれなりにいますから、協力してこの世界での知識を活かせばまずまずの暮らしはできます。もちろん圧倒的な力の前に滅ぼされるだけと言うこともないわけではありませんが。いや、それにしても<○○>で一人だけなんて。前代未聞です。

「さて、説明は以上です。それではよい異世界転生を」


「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

 俺は赤子の泣き声で目が覚めた。

 いや、それは自分の泣き声だ。

 目を動かすと小さな小さな体と手が見える。

 本当に転生したらしい。

 ふと窓が見えた。

 外には紫色の空が広がっていた。やはり<黒竜と魔王>の世界らしい。

 地球でのことは思い出せる。だが俺は平凡な営業職で趣味もゲームの社会人だった。異世界で大きく役に立ちそうな知識は持ち合わせていない。

 この世界は人間に厳しい。

 悪魔の大群が攻めてきていて、死亡→リスタート→違うルートで挑戦→死亡、の繰り返しが前提にあるようなゲームなのだ。リスタートの効かない生身の人間では生存確率は恐ろしく低い。

 実際、俺は1ヶ月後に住んでいた場所(まだ外に連れて行ってもらったこともないのでどんな場所かもわからない)に悪魔の軍勢がやってきて、俺の転生後の人生はあっさりと終わった。

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