「ちょっと待って? 唯ちゃん、今、どこにいるの?」

『え? ええと……』

 唯は言葉を濁す。

「まさか、近くに居るとか、ないよね?」

『それは……』

「どこにいるの?」

『とにかく頑張りなさい!』

 ツー、ツー、ツー

 と、電話が切れた。


「不覚だったわ……。私がしたことが、悪手を打つなんて……」

 電話を切った唯は、くっ、と歯を食いしばっていた。

「あれはどう見ても悪手だね、唯ちゃん」

 達巳は、「はぁ……」と、ため息をついた。

「今のタイミングで電話は駄目だよ。それも二葉ちゃんにしちゃあーね。するなら翔也だったね。あいつの方が、勘が鋭いから意外と俺たちが近くに居ること自体分かっているんだよ」

「あれが?」

 唯が翔也たちの方を指す。

 二葉がおどおどしており、翔也は困った表情をしている。

(何やっているのよ、まぁ、今のは私が悪かったけど……)

 達巳は唯の様子を見て、ふっ、と笑みを浮かべる。

「大丈夫だって、さぁ、行くよ」

「え、ええ……」

 そう言って、達巳と唯は、二人の監視を続ける。


 翔也は、ふと思い出した。

 今朝、夏海が自分に渡した小さなメモ用紙の事をすっかり今まで忘れていたのだ。

(そういや、あいつ、何を書いたんだ?)

 りんご飴を左手に持ちながら、右のポケットに入れておいたメモ用紙を取り出す。

 そして、開いてみると、何かが書かれてある。

(何々? ——あほか、こいつ……)

 そこにはこう書かれていた。


 ——お兄ちゃんへ——

 今日の祭りで食べ物を買ってきてね。

一. 焼き鳥

二. 焼きそば

三. たこ焼き

 そして、最後はお兄ちゃんの思い出だよ!


 最後は、ハートマークがついていた。

「ねぇ、翔ちゃん。な、何を見ているの?」

 二葉はのぞき込んで、そのメモを見る。

「これ、夏海ちゃんが書いたやつなの?」

「ああ、なんか、買ってこい、だとさ……」

「じゃあ、一緒に屋台でも……回らない……?」

 二葉は恐る恐る、翔也に訊いてみる。

「んー、まぁ、別にいいけど……。お前はいいのか? 付き合わせてしまって……」

 翔也は申し訳なさそうに言う。

「うん。べ、別にいいよ……。私、暇なんだ~」

 なぜか、目を合わせてくれない。

 翔也は疑問に思いながらも何も考えなかった。

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