第3話 スキルツリーの使い方を覚えよう!

 空星晴輝(27) 性別:男

 スキルポイント:3

 評価:剣人


+生命力

+筋力

+敏捷力

+技術

+直感

+特殊



「うーん」


 3は初期ポイントか?

 とすると、徐々に増えていく?


 どうしたら増えるのかがまだ判らない。この辺りはきちんと確認したほうが良いだろう。


 次に評価だが……これは現在の総合的な強さを示しているのだろうか?


「説明はないのかな? ……お!」


 評価に触れてみると、手前に小さな窓が浮かび上がった。


『剣人:武器・攻撃の扱い方を習得した初心者』


 なるほど、と晴輝は鼻を鳴らす。

 説明を読む限り、概ね晴輝の予想は当たっているようだ。


 現在の晴輝の評価は剣人。

 剣を扱うただの人、といったところか。


 強くなればきっと、この評価も変るはずだ。

 自らの強さの基準がわかる項目があるのは有り難い。

 とはいえわかりやすいとは決して言えないが……。


 晴輝は『+』をタッチしてツリーを開く。


-生命力

 スタミナ0(持久力を上昇させる)MAX30

 自然回復0(怪我や持久力の自然回復速度を上昇させる)MAX30


 なるほど、と晴輝は鼻を鳴らす。

 初期値はゼロと。


 ここにポイントを1つ振ると、一体どれほど効果が上がるのだろう?


 スキルをタッチしても、説明文は1行のみ。

 上昇率は書かれていない。


-筋力

 筋力0(筋力を上昇させる)MAX30


-敏捷力

 瞬発力0(瞬発力を上昇させる)MAX30

 器用さ0(器用さを上昇させる)MAX30


-技術

 武具習熟

  片手剣0(片手で扱える剣タイプの武器習熟度を上げる)MAX10

  投擲0(投擲習熟度を上げる)MAX10

  軽装0(軽装タイプの防具習熟度を上げる)MAX10

 隠密0(気配隠蔽能力を上昇させる)MAX10


-直感

 探知0(生命体や罠などを探知する能力を上げる)MAX10


「隠密……」


 おそらく気配を遮断するタイプのスキルだろう。

 魔物に気づかれずに近づいて一撃必殺!

 実に格好良い戦闘が行えそうなスキルだ。


 だが、これはやめておこう。

 安易に振れば、一生誰にも気づかれなくなりそうだ。


 衆目の面前で死んでも隠密のせいで気づかれない。

 そんな最後はごめんである。


 ポイントが振れる最大値が微妙に違う。

 この違いは……基礎身体能力?


 いや、技術はMAX10だ。


 10まで振ると別スキルが派生する?

 合算30ポイントになるのか、あるいは技術は別枠なのか。


 いまのところ確認する方法はないが、おそらく別スキルの派生はあると見て良いだろう。


 説明はテンプレかと思いきや、微妙に違う。

 片手剣や軽装は習熟するタイプが書かれているが、投擲には『投擲習熟度』としか書かれていない。


 おそらくこれは縛りの違いだろう。

 片手剣と軽装は、それぞれ縛りがある。

 だが投擲には縛りがない。


 きっとこれを取得すれば、ハンマーだろうが小石だろうが、なんでも上手に投擲出来るようになるに違いない。


「しかし……んー」


 解放されたツリーを見て気づく。

 武具習熟が片手剣と軽装だけなのは、どう考えてもおかしい。


 通常のスキルツリーならば、大剣や弓、盾などがあっても良いはずだ。


「もしかするとこれって、個人の適正に合せて変化するのか?」


 人によっては大剣があり、またここには乗ってない特殊なスキルも出てくると。

 十分考えられる。


 他の人のツリーをのぞけるかどうか、今度試してみよう。

 晴輝はそう心に留め置いた。


 いよいよ最後だ。

『特殊』とはなにを指すのか?


 口には出せない性癖や趣味の類いではないはずだが……。

 むしろスキルツリーで『特殊』な適正をカミングアウトされても困る。


 そんな(心を折る)魔導具は嫌だ。


 一拍おいて特殊の欄をタップし、

 そして晴輝は、生唾を飲み込んだ。


「成長……加速!」


-特殊

 成長加速0(魔物を倒した時に得られる力が通常よりも多くなる)MAX5


          *


 ゲームなどの成長補正は、大抵1%からだ。

 マゾいゲームになると0,1%などというものもある。


 過度に期待して一気に3つもポイントを振ってしまった晴輝は、階段を下るに従って後悔の念がこみ上げる。


 後悔しているのはスキル振りだ。

『成長加速』の説明を目にした晴輝は、無我夢中でスキルアップのボタンを連打していた。


 スキルポイント:3→0


-特殊

 成長加速0→3


 しかし冷静になってみると、これが間違いだったかもしれない……と思い始めてきたのだ。


 成長速度が1ポイントにつき1%上昇なら、スキルLv3の晴輝は100匹狩ってようやく3匹お得になるレベル。

 そんなものを上げるならば、狩り効率の上がるスキルにポイントを振ればよっぽどお得である。


 やっぱり失敗したかなぁ。

 眉尻を下げながら、それでも晴輝はコンバットナイフを片手に慎重に階段を下っていく。


 地下1階に到達した晴輝の心臓は、鼓動を早めていく。


 札幌のダンジョン『ちかほ』は、もはやダンジョンとよべない代物になっている。

 やる気のあるダンジョン課職員が、冒険家の落命率を下げるためにあの手この手を駆使して、1・2階をほぼ安全地帯にしてしまったためだ。


 ダンジョンというよりアトラクションに近い。


 職員がそこまで力を入れるのにも理由はある。


 冒険家は国の防衛戦力だ。

 スタンピードが起こった場合、魔物を駆逐する戦力になる。


 経済的理由もそう。

 冒険家はこれまで地球では得られなかった、ダンジョン産の素材を採取してくる。

 それらの売買で得たお金を、冒険家は積極的に消費して経済を回す。


 世界中にダンジョンが蔓延ったことでグローバリズムが終焉。経済が成長し続けることで成立する資本主義は壊滅した。


 景気が停滞した日本は現在、大金を動かす冒険家に大きく依存している。

 簡単に死なれては困るのだ。


『ちかほ』は非常に安全なダンジョンと言えるが、そこに冒険はなかった。


 だがここはまだ、『なろう』にはない。

 WIKIに載っていない。

 誰も知らない、未知のダンジョンだ。


 その初めての冒険を、いまから行う。

 そう考えると、印刷会社を辞めてまで冒険家になった晴輝の冒険魂がうずき出す。


 ようやっと俺は、冒険家としての一歩を踏み出せるんだ!


「よし!」


 気合いの声と共に、晴輝は奥に向けてゆったりと歩みを進めた。



 ダンジョンの通路は、五人が優に横一列で歩けるほど広い。


 天井は三メートルほどか。よくもまあこんなものが家の地下に……。

 崩れないだろうか?


 晴輝の脳裏に僅かな不安が過ぎるが、大丈夫だろう。


 某国がダンジョンを制圧しようと核ミサイルを打ち込んだことがあった。

 だがダンジョンは入り口が若干広がる程度の被害しか受けなかった。(その後、その国はスタンピードにより半壊した)

 地震程度ではまず崩れないだろう。


 内面は粘土質だが、ナイフを刺すと三センチほどしか埋まらない。その奥は別の素材で固められているらしい。


 内部は薄暗いが、闇に閉ざされているわけではない。

 内面が淡く発光しているのだ。


 ランタンが無くても攻略出来るのは素晴らしいが、捕食的意味合いで歓迎されている気がしてぞっとしない。


 しばらく歩くと、晴輝の耳に「カサカサ」という音が届いた。


 カサカサ……で想像するのはGだ。

 本州(ないち)のダンジョンではGのモンスターもいるらしいが、北海道では発見されていない。

 Gでないと思って間違いない。


 ではこの音の正体はなんだ?


 じっと耳を懲らしていると、音が少しずつ大きくなっていく。

 ナイフを構える晴輝の前に、それはついに現われた。


「あれ?」


 晴輝は己の想像とは違う魔物に感嘆を漏らした。


 体長は晴輝の半分ほど。一メートルもない。

 その体に無数に付いた足。

 触角なのか足なのかを前に出しながら、カサカサと進んでくる。


「ゲジゲジか!」


 足が沢山ある危険な昆虫、ムカデ特有の牙がそれには見当たらない。

 なので、ゲジゲジで間違いないだろう。


 ムカデより温厚で、毒も僅かだ。

 通常サイズだと、害虫を駆除する益虫と呼ばれている。


「てっきりムカデかと思ったんだけどなあ。これはこれは」


 己の予想が外れたことで、晴輝はニッと口角を緩めた。


 己の予想が外れれば外れるほど――面白い。

 冒険とは、そういうものだろう?


 しかし、このサイズだ。

 普通の人では生理的嫌悪で卒倒してしまうかもしれない。


 だが、晴輝は相変わらず笑みを浮かべたままゲジゲジに対峙する。


「ああ、最高だ……」


 自分の知るゲジゲジと、ダンジョンのゲジゲジ。

 どう違うか?


 戦って、理解する。

 その未来が、楽しみで仕方がない。


 ゲジゲジの情報は『なろう』のWIKIにも載っている。



【ゲジゲジ】

 比較的温厚で速度も鈍重。

 殺傷力もない。巻き付かれても防具や衣類をカリカリ食べられるだけで、人間の肉まで食べようとはしない。害虫を駆除する益虫。


 攻略方法は簡単で、頭を叩き潰せば殺せる。

 触角が視覚器官の役割を果たしているため、両方切り取ればカリカリされる心配がなくなる。


 コツさえ覚えれば簡単に屠れる。初心者にとってはボーナスモンスターだ。 


 だがしかし、その見た目の生理的嫌悪は筆舌に尽くしがたい。

 精神的攻撃力の高い魔物の1体である。


 カリカリされたときの、細い足がさわさわ首筋に触れるあの感触もNG。

 何故神はこの魔物を滅絶しなかったのかと問い詰めたくなる。


 見つけ次第、叩き潰すべし。

 経験だけは豊富なので、サーチアンドデストロイをオススメする。

 日本からゲジゲジを抹消すべし。



 おそらくカリカリされたのだろう。編集者の文面に、そこはかとない憎悪を感じる。


「どちらかといえば可愛らしいような気がするけど……」


 足がちょこちょこ動く様とか。


 だからといって抱きつきたいとは思わないけれど。

 なけなしのお金をはたいて買った防具がダメになっちゃうしね。


「さて、一気にいくか」


 触角を切り裂き、返す刃で頭を刺す。

 WIKIにある動きを頭で思い浮かべながら、晴輝は一気に走り出した。


 十メートル。五メートル。

 相手はまだ気づかない。


 ナイフを振り上げたところで、やっとゲジゲジが晴輝の存在に気がついた。

 だがもう遅い。


 ――とった!


 確信したが、刃は空を切った。


 晴輝が想定していたよりも、ゲジゲジの動きが機敏だったのだ。


 どこが鈍重なんだよ!

 悪態をつきながらバックステップ。

 こちらに突っ込もうとするゲジゲジを、ギリギリで躱す。


「おおっ?」


 晴輝は軽く息を吐いた。

 晴輝は今の突進が当たると思い、身構えて回避した。

 だが、当たらなかった。


 つまり、予想より素早いが、自分の能力を超えるほどの速度でもないということ。


 急がず冷静に対処すれば、問題なく倒せるだろう。

 それが判った途端に、頭の中がしん、と静まりかえった。


「いいね。実にいい」


 体の中から感興が湧き上がる。


 楽しいけど、安全な狩りなんて、物足りない。

 ただの一方的な暴力だ。


 冒険がない。

 挑戦がない。


 でもいまは、我が儘を言えるレベルじゃない。

 弱い奴の、無い物ねだりだ。見苦しい。


 集中しろ。

 集中するんだ!


 晴輝は自分のマインドをコントロールする。


 触角をこちらに向けたゲジゲジを、ギリギリまで引きつける。


 接触する!

 その寸前でサイドステップ。


 革製の胸当てを触角がかする。

 そこを、落ち着いて切りつける。


 ナイフで切りつけられた触角が宙に浮く。

 それと同時に地面を蹴り反転。


 全力で地面を蹴った晴輝が、ゲジゲジにナイフを突き立てた。

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