ジキルとハイドと白兎

みぃ

Season 00

00-01 『ハイド』  Side:Hyde

子供の頃は、それぞれ思い描く形は違えど、誰しもがヒーローに憧れるものだ。


俺も例外ではなかった。テレビを見て、映画を見て、あるいは漫画を読んで。誰かを

救うために頑張っているヒーロー達に熱中していた。


あの頃の俺はただ純粋で、世界の全てを信じ切っていた。


ゆっくりと息を吸い、数秒呼吸を止めてから、またゆっくりと吐く。カチャカチャと音を立てながら、仕事の準備を始める。


――人はいつか成長していく。時が経つと共に、昔感じていた憧れだとか、夢だとか、そういう世界が色あせていく。世の中の大人の殆どは、もうヒーローもおとぎ話も信じて居ないのだろう。


……大人を責めている訳ではない。社会の言う、立派な大人になるとは、そういう事なのだろう。


でも、それでも、子供の頃の夢を諦めない大人たちがいた。社会に後ろ指を刺されながらも、純粋な心を捨てないで生きてきた人達がいた。


俺の双子の弟が、その一人だ。


彼は、俺とは正反対の人間だ――ただ一点、外見だけを除いては。彼は、人一倍正義感が強い。いつも誰かの笑顔と感謝を浴びては、正義のヒーローのように嬉しそうに笑っていた。そんな性格からか、彼はいつも人の輪の中心に居た。正直言って、俺は弟が羨ましかった。


今の俺達の仕事は、ある意味ヒーローと言えるのかもしれない。人の自由のために、時には諜報活動を行い、時には戦闘を繰り広げる。


そんな混沌とした生活でさえ、弟はゲームのように楽しんでいる。こんな狂った人生なら、最初からゲームだと思ったほうが、彼にとっては楽なのかもしれない。


『Hide、目標が接近中。早く準備を進めて』


通信機から流れてきた伝達に、了解、と答えながら止まった手を再び動かし始める。


今の俺に出来る事は、弟を必ずここから生きて返す事だ。そのためなら、何だってやってやる。


そう意気込みながら、今日も俺は戦場に立つ。

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