第42話 入り口から様子がおかしい

-side エリク-



「ここがダンジョンだのう」

「へー……」



 見渡す限り、草原。なんと言うか、ルークがお勧めするには長閑すぎるというか、率直に言ってつまらなさそうな場所である。

 ルークは短期間で攻略できると言っていたからそんなものだろう。しかし、だからこそ、逆に警戒をしてしまう。何かあるのではないかと……、そうエリクは考えた。

 その様子を見て、トールとルークは満足そうに頷く。エリクの危機管理能力が着実に身についている事を確認出来たからだ。



「エリクの察しの通り、一見して簡単そうだが、このダンジョンの攻略難易度は高い。だが、流石にいきなりダンジョンの情報を教えるのも、野暮というやつだからのう。わしらは高みの見物しておるぞ」

「分かった。出来る限り1人で攻略してみる」

“我は先に行っておる。トール、レオン、エリクを任せた”

「うむ」



 いつも通り、ルークが先に行ったところでエリクはトールとレオンの事をチラリと見る。二人とも表情は全く変わらない。

 ルークが先に進んだことから、少なくともルークが見えなくなるところまでは、ある程度安全な事は分かっているし、フロア数も少ないと言っていたので、言うてもなんとかなるだろうとエリクは思ったので、すいすい進んでいく。



「ふう……、ぼさっとしてても仕方ないな。今のところ敵が出る気配もないし」



 そう思ったエリクは、その先もどんどん前に進んでいった。



 --GRAAAAAAAAA

 --WAOOOOOOON



 5分くらい警戒して走ったところだろうか。

 ようやく魔物の声が聞こえてきた。

 数は……、3、4匹と言ったところか。足を止めずに警戒して進むと徐々に見えてくる。



「……?なんか多くね?」

『そうだねえ』

「多いのう」



 20匹。二足歩行の牛であるミノタウロスと、ウルフの上位種シルバーウルフがいた。



「スライムとゴブリンかよって雰囲気漂わせて、ダンジョンの最初のモンスターの場所にいるのやめて欲しい」

「スライムとゴブリンと違って美味しい肉が手に入るから悪いことばかりではなかろ?」

「確かに、美味しいにお肉が沢山手に入るのはありがたい事だけれども……」

「我は、今晩ビーフシチューを所望す」

「良いけども」



 元々、今日来た目的の一つに公爵家の使用人を呼んで行うパーティのために、あわよくば食料も調達できれば良いなとか考えていたのだ。これもそのためだと思えば悪くないと、エリクは考えながら魔物を倒していく。



 --スパパパパ

 --GR?

 --どさり、どさり、どさり、どさり



「……うむ。見事なものだ」

『流石だね』

「まあ、これくらいはな」

「ほほう」

「……だが、それにしたって強すぎなような?」

「そうだのう」

『だねえ』


 この強さでこの数、もうすでにこの段階で並みの冒険者なら数時間かかっていただろう、明らかに短期間で攻略出来るようなものではない。イレギュラーでも起こったのだろうかとエリクは疑問に思う。

 ダンジョンは構成する魔素と呼ばれる魔力の素が溜まった事で出来たと言われている。イレギュラーとは、その魔素がなんらかの外部的な要因で、ダンジョン内に溜まりすぎると、通常より強いモンスターが出てきやすくなるという現象である。

 さっきの戦いも、初見殺しでぱぱっと倒せたら良かったものの、一瞬でも隙が出来ていたらかなり時間がかかっていたのではないのだろうか?エリクは淡々と思考を巡らせる。



「まあ、まだそうとは決まった訳ではない。こういう事も時たま起こるだろう。幸い、いざとなったらトールも、レオンも付いているしこれからじっくり調査していけば、大丈夫だろう」

「うむうむ。そうだのう」

『大丈夫大丈夫』

「あの……さっきから全肯定過ぎないか?お前ら」

「そうだのう」

『だねえ』

「……」



 この時点でもちろん、トールとレオンはこのダンジョンがはちゃめちゃに鬼畜仕様だという事は分かっていた。忠告もせず面白がる2人は、本当に良い性格である。

 一方のエリクは盛大なフラグを立てた事に気づかず、ほのぼのダンジョン攻略集団は先に進むのだった。



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