第37話 歓迎会

-side エリク-




「それでさ、こちらがエンシェントドラゴンのトールで、こっちがフェンリルのルークとその家族なんだ」

「え……?ははっ……!寝ぼけているのかな?俺は」

「私にも同じものが見えていますわ。お兄様。私も寝ぼけているのかしら?」

「寝ぼけてないから安心しろ」



 あれから、しばらくして、2人を起こしたエリクはエリクの部屋で、屋敷の中を当たり前のように動き回っているトールとルークを紹介している。いきなり、トールとルークを見たものは十中八九驚くからである。



「ならば、幻覚……」

「幻覚ではないのう。それに我は今人間の姿であろう。そこまで、驚くこともあるまい」

「「喋った!?」」

「普通のことであろう?ほれ、このように人間の姿にもなれる」



 トールが小さいドラゴンから銀髪黒目の子供の姿へ移行する。トールは握手しようと、セシルとエリーゼに手を近づけた。すると、--ズザと後方に下がる。



“いや、お主、人間の姿でも威圧感が半端ではないであろう。こやつらが驚くのも無理はあるまい”

「こっちも、しゃべった!?」

「喋る魔物とか、おとぎ話でしか聞いた事ないわ」

「ほれみろ。お主の方が驚かれているではないか」

“我は姿を変えれば、驚かれないぞ。ほれ”



 そう言うと、ルークは小型犬くらいのサイズになる。非常に愛くるしいその姿はエリクの妹であるソフィアやその友達にも非常に人気である。



「わあ!!かわいい!」

「変身魔法……こんな高度で、洗練されている魔法、初めて見た。これが伝説の魔物、フェンリルの力……」



 捉え方は2人それぞれで違うが、2人とも警戒をとき、ルークを撫で出した。魔力を豊富に含んだ、もふもふな毛感触はとても良いのだ。トールはそれを見て、嫉妬深そうに、ムッとする。



「ぐぬぬぬぬ……。我も、人間になった時、愛くるしさがあれば……」

「あはは、トールは子供の姿になっても、威圧感放ったままだからなあ」



 そう言いながらもエリクは人間になったトールを撫でる。子供の姿になったおかげで、エリクのちょうど撫でやすい位置に頭があるのだ。髪は魔力を含んでいるせいか、少しひんやりふさふさしていて、心地よい。



「な、なあ、エリーゼ。もしかしてエリクシア王国は、軍事面において、とっくにマスク王国を抜かして、トップなんじゃないか?」

「そ、そうですね。お兄様。一応、エリクのためにと、色々軍事面で手を回そうとあちこち根回ししましたが、無駄だったかもしれません」

「ほう。軍事面で、我らに助けを……?確かに、不要だな」

「「やっぱり……」」



 言葉を選ばないトールの言葉に項垂れるセシルとエリーゼ。それに対して、エリクは自分のことを心配してくれて、色々行ってくれたことを察して喜ぶ。

 一応、どんなことをやってくれていたのかを聞くと、マーチャルトは経済面で、マスク王国が弱らせるようにじわじわと、弱らせ、難民を周辺国と共に引き受け、マーチャルトが同盟を結んでいる--リンハルト同盟の国々と一緒にいざとなった時に備えて、共同で軍事訓練、および、技術開発を協力して行なっているらしい。

 1国をなるべく犠牲者が少なく、潰すにはどうしたら良いかと各国の首脳陣が、様々な事を考慮しているのだという。



「ありがとう。2人とも。まさか、そんな事をしてくれているなんて……」



『思ってもなかったよ』--とエリクが言おうとした瞬間、レオンがやってきて、ハモった。「お、レオン」と言う返事に、「やあ」と言う言葉で返す。



『思ってなかったよ。まさか、そんなことになっているなんて。やってくれたね』

「いやいや、俺たちも、まさか、ここまで大事になるとは、当初思ってもなかったんだ。あ、初めまして」

『初めまして。大丈夫、話があるのはエリクたちにだから』

「なんの話だ?」

『また後で--。ところで、君たちはここに泊まっていくのかい?』

「え、ええ。あなたは?」

『ああ、すまないね。エリクの友達の、レオンだよ。よろしく』

「私は、エリーゼ。よろしくお願いします」

「僕は、セシルだよ。よろしく」



 普段敬語を使われなれているエリーゼとセシルは、若干動揺しているのだろう。しかし、顔に出さず応対している、流石王族である。それにしても、レオンの話は十中八九説教だろう。長くなりそうだし、2人を部屋に送りながら逃げるか。



「2人とも、今日は夜遅いし、もう寝よう。送るよ」

「ああ、送るのは大丈夫だよ。護衛もいるし、道も覚えたし」

「いやいや……必要だろう」

「いやいや……レオンさんのお話もあるだろう。そちらを優先してくれ」

「いやいや……(う……余計な事を……)」

「いやいや……」

『エリク』

「うん?」

『逃がさないよ』

「はい」



 この後、お説教されるのだろうと覚悟しながら、エリクは、2人を見送ることにした。



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