第26話 重度の拗らせ

-side エリク-




「まずは、父上。ようこそ我が家にいらっしゃいました」

「あ、ああ。それにしても流石エリクだね。こんな建物を自力で建ててしまうとは……いやはや、我が息子ながら恐れ入る」

「いえ。この建物はもともとあったものを使わせていただいているだけで、俺の持ち物ではありません」

「そうなのか。その人には感謝だな。もしいたら、後でお礼を言いたい」

「分かりました」



 家族水入らずで話した方が良いとレオンに言われたので、今、エリクは父親であるトム=ドーソンと話している。



「父上。あの時は、どうもありがとうございました」

「ん?なんだ?感謝する覚えはあっても、される覚えはないぞ?」

「出かける前の贈り物にあった手紙、読みましたよ?」

「えっ……!あっ。あーー!私はっ!なんと、恥ずかしい事を……!」



 エリクが最初に、デゾートアイランドに送り出された時、友達や、親戚から、沢山の贈り物をされた。その中には、トムからの手紙も入っていたのだ。

 手紙には、『不甲斐ない父親で申し訳ない。お前も、私の可愛い可愛い我が子だ。本当は、追放するのが、不安で、不安で仕方がない。でも、せざるを得なかった。代わりに、私の財産の一部を、与える事にした。こんな事で、許してもらえるとは思えないが、せめてもの償いに……』--という趣旨の事が書いてあった。エリクにとっては、宝物である。もちろん、今でもとってある。トムにとっての黒歴史手紙を。



「恥ずかしいだなんて、言わないでください。嬉しかったです。あの手紙。俺は、父上に、あまり好かれていないと思っていたので。愛してくれていたんだなと、分かって」

「あっ……!当たり前じゃないか。いや……すまん。私がお前に愛情を与えてやれなかったんだな。すまない」

「父上。--今なら、まだ間に合います。やり直しませんか?家族」



 これは、エリクの本心である。実は、エリク。家族のことは、大好きだったのだ。特に、重度のシスコン。ブラコン。

 兄弟愛が、とても重い。

 多分、良い意味で。



 そんな、兄弟を大事に育ててくれる父上の事を、追放されたからという理由だけで、嫌いになれる訳がなかった。



「そうだな。今ならまだやり直せる--か。エリク。今夜は久々に家族で、思い出話でもしようじゃないか。今後のために」

「ええ--!」



 こうして、無事、エリクは父親と和解をし、良い雰囲気で、合法的に、妹と兄に近づく事に成功したのだった。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「にーに!大好き!にーにがいなくて、寂しかった!」

「ほ、本当か?俺もソフィアがいなくて、寂しかったよ。ほら、高いたかーい!」

「キャハハハハハ!」



 なんだこの可愛い生物は?合法最高!--と、限りなく危うい発言をしそうになったエリクは、無事、兄に睨まれ、正気を取り戻したことで、事なきをえた。

 この兄--ジルのことも、エリクは大好きである。2人とも身なりは金髪青眼。父親似で、精悍な顔つきのエリクとは違い、母親似の可愛らしい見た目である。



「兄上もお久しぶりです!」

「久しぶりだな。エリク。その……、お、俺は別に、再開できて、嬉しいなんて思って無いんだからな。あっ……」

「嬉しいんですね。兄上。分かっています」

「う、うるさい--!そんな訳ないだろ。俺はもう行く!」



 このツンデレな兄上の事を最高に、尊いと思っているエリク。

 一方、ズバリ、心情を言い当てられたジルの方は、恥ずかしさでいっぱいのようだ。



「待ってください。兄上」

「なんだ?」

「にーに。お顔、真っ赤!」

「なっ……!」



 妹であるソフィアにまで、指摘される程分かりやすいのにも、関わらず、自分では隠せてると思っていた--。そんな兄上の事が、エリクは大好きである。



「兄上。心配しなくても、兄上の気持ちは全部伝わっています。俺の唯一の兄上のなんですから。兄上、俺の事大好きなんでしょう?」

「ななな……」



 ジルは図星で何も言えない。



「だから、ちょっとくらい仲良くしませんか?兄上?」



 こいこいこい……!--と、エリクは心の中で叫ぶ。



「--!……仕方ねえな。少しだけなら、仲良くしてやっても、いいぞ」



 よっしゃあ!デレた!内心思ったが、顔には出さず、冷静に、淡々と返すようにする。



「やった!兄上。ありがとうございます!」

「おう」

「わーい。ジル兄とエリク兄、仲良し!ソフィアも仲良し」

「そうだな。--って、エリク」



 ここで、エリクの意識は途切れた。

 --なお、一部始終を見ていたレオンからは、とりあえず、警察に通報しておこうか、だそうである。



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