第23話 公爵の決断(王国side)

-side トム・ドーソン-




「父上……、我々の立場は日々危うくなっています。どうにかしないと不味いです。おそらく、近いうちに大きな決断をしなければならないでしょう」

「分かっておる」



 ドーソン公爵家はマスク王国建国時から王家を支える名門一族である。

 その一族は今、窮地に立たされていた。

 エリクという領内人気も高い、突出した天才を失った挙句、王様が彼を追放したことにより、今まで、エリクが行ったことの責任追求をしろという声が王城中から上がっていたのだ。

 これは不味い、と思ったエリクの父親で、ドーソン公爵家の当主であるトムと、次期当主でエリクの兄であるジルは話し合いをしていた。



「誰にでも分け隔てなく接していて、心優しいエリクがそんな無責任なことをするはずないのに、こんなことになるとは……世の中は理不尽ですね」

「そうだな……エリクは悪くないのに、こんな形になってしまうとは」



 エリクが誰にでも分け隔てなく接しているというのは事実ではあるが、それは他人をどうでもいいと思っていたからできた事だともいえる。

 したがって、心優しいかと言われたら、真実を知っている人からすれば、……???という反応をしてしまうことだろう。

 彼が責任感ある若者かどうかも審議が必要だ。おそらく、全くな……ゴホンゴホン。



「エリクはどこかでのたれ死んでいるだろうか……?いや、あの子のことだ。きっと、デゾートアイランド内でも逞しく生きのびているに違いない」

「そうですね。エリクの事だ。もしかしたら、今頃独立王国でも築いているのかもしれませんよ!」



 エリクの事を誰よりもよく知っているトムとジルはそう判断したようだ。流石というべきか、当たらずとも遠からず……と言ったところだろう。



「そうだな……、どのみち、王国内にいても我が一族に未来はない……!もういっそのことエリクを頼って、領民全員でデゾートアイランドに移動してみるのがよいだろうな」

「確かに。エリクに賭けてみるというのが、我々が生き延びる最善の策かもしれませんね」



 この日、ドーソン公爵家当主はとある重大な決断をした。それは、王国に黙って、デゾートアイランドに領民ごと移動するという事である。



 これに賛同する者は多かった。もちろん反対する者もいたが、通常、大きな決断をするときには一定数いる反対派も、かなり少なかったと言える。

 それだけ、エリクが生き延びている可能性が高いと思った者が多かったのだろう。



 特にエリクの知識を崇拝していて、ドーソン公爵家領内に移住してきていた学者や研究者などは、もし、叶う事なら彼にもう一度会いたいと切望しており、行き先がデゾートアイランドと知ると、真っ先に飛び出そうとするものまでいた。もちろん、死ぬ確率が高そうなので、止められていた。



 今までの地位や名誉を捨て、家族や領民ごと国を出るという大胆な決断をできたのも、エリクのおかげであるのは間違いないだろう。まあ、変態が伝染してしまったからだとも言えるが……、真実は不明である。



 いずれにせよ、マスク王国は膨大な力を持っている公爵家の人間、財産、エリクによって飛躍的に発展した機械産業を丸々失ってしまった。

 この決断の半年後、今まで、当然のように食べれていた農作物が食べれなくなり、衣服や家具などは質が悪くなり、値上がりし、王国は大混乱に陥ってしまったようだ。



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