第18話 ボス部屋で寝てた

-side エリク-




 その後、順調に探索を続けていたエリクたちは、現在1階層のボス部屋の前にいる。



『1階層のボスはゴブリンキングだよ。ランクも違う分、これまで戦ってきたゴブリンとは格が違う。気をつけてね』

「ああ。わかった」



 エリクは気合を入れて、扉を開く。次の瞬間、中央で寝ている魔物を見て唖然とした。

 戦闘モードだったエリクを一瞬で戦意喪失させるくらい圧倒的な強者のオーラを放っていたからだ。

 これは、エリクだけではなく並の冒険者であれば普通のことだろう。

 むしろエリクは気絶しないだけ偉かったと言える。それくらい格が違うオーラだ。



 銀色の毛をなびかせ寝転んでいる姿は、まるで、一匹狼のようである。

 そこまで観察して、エリクは気づく。



「(ん……?狼?ゴブリンではないのか?というか、あの狼知り合いな気が……)」

『あ、ルーク。先行ってなかったんだ』



 後ろからついて来ていたレオンが中央にいるフェンリルに気軽に声をかける。

 すると、爆睡していたフェンリルが目を覚まして、大きなあくびをしながら、“お、ようやく来たか。お主ら遅いぞ”と言った。

 どうやら、本当にルークだったらしい。

 尻尾をぶんぶんっと振っているあたり、本当に待ち侘びていたのだろう。



「そりゃあ、エリクに合わせてたからなあ。むしろ早いくらいだ。して、お主はなぜここにおる。てっきり我は既に最下層についていると思っておったぞ」

“ああ。この先が海フロアでな。トールに乗せてってもらおうと思ったのだ。ボス部屋なら、お主らも必ずくるだろうし、ここはゴブリンキング以外の魔物が出てこない分、煩わしくなくて休憩場所にもちょうどいいと思ってな”

「ああ。お主、水はあまり得意ではないからな。そういうことなら納得だのう」

“我だけでも、行けなくはないが、わざわざ他に手段があるのに、あえて我だけで行く意味はないからな。合理的に決断したまでだ”



 普通の人は聞いたら側頭するような発言ではあるが、彼らにとっては1階のボス部屋など休憩所と同じなのだろう。



「(初心者の冒険者が何人も命を落とすような場所を休憩所という辺り、俺がいるのにデリカシーがないとは言える。だが、島の中で、同じレベルの強者しか周りにいない彼らにとっては仕方のないことなのかもしれない。

 そもそも、魔物にデリカシーを求めるのは、期待しない方がいいな)」



 そんなことを、エリクは考えるとルークをわしゃわしゃと撫でながら、挨拶をした。

 肌触り抜群である。ルークも気持ちよさそうに撫でられながらそれに応じる。



「やっぱり、ルークだったのか。ゴブリンキングと戦うつもりだったから、びっくりしたよ」

“ああ。ゴブリンキングなら、定期的に湧いてくるぞ。戦いたいんだったら、もう時期出てくるところだろう”



 ルークがそういうと、エリク達の目の前にいきなり、大きなゴブリンが現れた。

 今まで、出てきたゴブリンの倍近くはあるだろうか。

 10歳のエリクから見たら巨人である。

 錆びた鉄でできた冠を被っていることから、ゴブリンの王であることが見て取れる。

 放っているオーラは確かに並の人をビビらせるには充分だろう。



「(しかし、さっきのルークのオーラが凄すぎて、ゴブリンキングごときでは物足りないというか。さっきの恐怖心を返してほしいというか。なんとなく、これくらいだったらいけそうだ)」



 そう思ったエリクは、一瞬でゴブリンキングの胴体を鎧ごと真っ二つにした。



 ギャア……?



 何が起こったかわからないという顔をゴブリンキングはしながら、ドロップアイテムに変わっていった。



「ふう……」



 エリクはため息をつくと、ゴブリンキングのドロップアイテムを拾った。

 ゴブリンキングのドロップアイテムはこれまで戦っていたゴブリンより、5倍くらい大きな魔石と錆びた鉄の王冠だった。



 回収が終わると、「なかなか、悪くない動きだったぞ。この調子で、戦っていればいずれ強くなれるだろう」とトールがエリクを褒める。



“ふむ。お主なかなかの腕前だな。どうだ?今から、我と手合わせするというのは?”



 一方、ルークはエリクの動きを見て早くも戦ってみたくなったようだ。



「流石に遠慮しておくよ」

“むむ。ちょっとくらい、いいではないか。”

『それは、流石に私が許さないから。エリクが死んだら、私が魔王を倒さなきゃならなくなるんだよ』

“むむ。でもお主、どうせこのままだとエリクとトールにうまく転がされて、魔王討伐に参加させられるだろう?”

『絶対ないから。私がそんなヘマするわけないだろう?』



 謎の自信で言うレオン。一方、3者は(((フラグにしか聞こえん)))とこの時思ったそうだ。何はともあれ、1階層突破である。



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