第28話 皆でワイワイ勉強
「なになに、颯流っちは今回も学年トップを狙うつもりなの?」
「わー! 凄いよ颯流くん、今回も1位になっちゃうんだ」
「いやーどうだろうな。特に目指してるわけでもないのに勉強してたら勝手になっちゃってる感じかな」
休み時間に木下さんと桃園さんに話しかけると話し合いがテスト関係に移った。
いや本当はかなりの時間を勉強に注ぎ込んだからこそ前回は学園トップになった。
でも好きな人の前ではカッコつけたくなるんだよ。俺すげえだろ、みたいな?
「先ず勉強出来るってのが良いよねー。私には無理無理」
「お前はそもそも授業に積極的に参加してないからだろ桃園さん。先生に当てられたときに声がミジンコになるし、家でも勉強してないなら赤点になっても仕方ない」
「あははっ。ミジンコって。ぷっ、くははっ。あ、ごめん、これちょっとダメなやつかも」
そう言って涙目になりながらお腹を抑えて爆笑し始める木下さん。
そのまま桃園さんの肩にもたれかかって笑う木下さん。何をそんなにウケたのかは知らないけど彼女の笑みを引き出せたと考えただけで幸せな気持ちにさせられる。
「もう優希ったら……それに颯流っちもなかなか言ってくれるじゃん? 今回のテストで1教科も赤点取らなかったら何かお詫びをしてよね」
「いや赤点は当たり前のように回避できるようになっとこうな? 分かったよ、赤点回避できたら一回だけ何でも言うことを聞いてやるよ」
「……へえ。颯流っち、本当にそれで良いのかー? 本当に私がシたいと思ってることに、遠慮なく使っちゃうぞゾ?」
そう妖しい瞳で俺の瞳の奥を覗き込んできた桃園さん。
これは迂闊だったな、この間に『お礼にセックスする?』と言われてたんだった。
「……っ……やっぱり昼飯を何か奢る方に変えさせてくれ」
「ふふーん。それじゃあ今回はそれで我慢してあげる」
「へ、何のことを言ってるの2人とも?」
「いや何でもないぞ木下さん。本当に何でもない」
「そうだよーん。私と颯流っちの間にはまだ何も無いかんねー」
「お前も一々語弊を招くような言い方をするな!」
この状況を楽しんでるのか、からからと笑い始める桃園さん。
こいつも月愛ほどじゃないにせよかなりの小悪魔的な側面を持っている。
しっかり手綱を握っておかないとどんな風に暴走するのか分からないのが怖い。
「けどやっぱり赤点回避するなら教わりたいよねー。優希もそう思わない?」
「そうだよね……なるべく勉強出来る人に教わりたいよね……チラッチラッ」
「……っ! じゃあさ2人とも、良かったら放課後図書室で一緒に勉強しない?」
桃園さん本当は話をここに誘導してたのか、マジで有難う、なんだ良い奴じゃん。
「わぁっ! 名案だね颯流くん! それじゃあ放課後に待ってるね!」
「しっしっし。颯流っちなら問題ないねー。それじゃあまた後でよろしくねー」
「分かった。それじゃあまたな2人とも」
俺は放課後までウキウキした気分で時間を過ごすのだった。
※
「ここなんて言うの颯流くん?」
「それは A lot of birds were flying at the sky when I looked up. だから、私が見上げると沢山の鳥が空を飛んでいた、が訳だ」
「おー颯流っちのネイティブ発音相変わらずだよねー。マディ先生と会話してるときの颯流っちってザ・大人って感じでカッコいいもん」
木下さんに英語を教えていたところで桃園さんが褒めてくれた。
以外にも学校の図書室は空き気味だから雑談してもOKな空気が流れている。
当然俺の方も木下さんと一歩でも仲良くなれるように機会を作って実行するぞ。
「そうだよねー! 月愛ちゃんも凄いし、2人ともカッコよく見えるよね。マディ先生も心持ち楽しそうに喋ってる感じなくない? 愛素もそう思わない!?」
「わかるー、2人と話してるときだけいつもより笑顔が深くなるよね?」
「そ、そうなのか?」
「ニャハハ。そうだよ〜。颯流くんも実はマディ先生と話すときに鼻の下伸ばしてるの知ってるからね?」
「え──」
「たまに視線もいやらし、じゃなくて妖しいもんねー? あはははっ」
「マジで言ってるのか? いやだ、俺を見ないでくれーっ!」
俺なるべくマディ先生の大きなおっぱいに視線が行かないように気をつけてたんだけど、もしかしたら結構盗み見てることが周囲にバレてたりするのか?
それをよりによって木下さんにバレるなんて……恥ずかし過ぎて消えたくなった。
「颯流っちは実はああいう金髪美女がタイプだったりするの?」
「……えっと」
「絶対そうだよねーさっきから目線がキョドリまくってるもん。けど仕方ないよね、金髪碧眼に大人の女性の魅力。それに加えてスタイルも凄いから負けちゃうよね〜」
「あははっ。教員たちの間でも人気者だし、あのおっぱいと色気の前じゃ男子は全員骨抜きにさせられるかんねー」
「……確かにそうかも知れないが──」
木下さんの苦笑を心の底から喜ぶような笑みに変えてやりたい。
君にそんな乾いた笑みは似合わないんだって、今この瞬間に伝えてあげたい。
木下さんは自分が魅力的な人だと分かってないようだから俺が教えてやらないと。
「木下さんが負けてることなんて決して無いよ。俺からすれば木下さんが楽しそうに笑ったときに目尻がキュッと引き締まって下がる仕草も、困ったときに『ニャハハ』と猫のような可愛い笑い声をあげる仕草はマディ先生はどう足掻いても勝てないからな……。……あ、だ、だから……そんなに悲観的になることは、無いと、思う……」
序盤で木下さんも桃園さんも驚いた表情を浮かべていたのを確認できたが、途中でこのセリフの恥ずかしさに気づいたせいで、耐えられずに視線を逸らしてしまった。
しばらく沈黙が漂って蒸発しそうになってると、斜めから木下さんが口を開いた。
「あ、ありがとう颯流くん。そんな風に思ってくれてたなんて嬉しいよ……。そ、その……だからお礼に言いたいんだけど、その……颯流くんも、カッコいいと思うよ」
「〜〜〜〜っ!!」
いよいよ顔から火が吹き出しそうになって机に突っ伏さざるを得なくなった。
すると桃園さんがニヤニヤしながら口を挟んだ。
「ヒューヒュー、颯流っちかっくいい〜! 何今のん、プロポーズ?」
「ひゃっ」
「そ、そんなわけないだろ!?」
その言葉に突っ伏してる木下さんの肩もびくっと反応した。
いきなり何を言い出すんだ桃園さんのやつは。
これ以上俺を辱めたらこのまま口からのファイアーブレスで黒焦げにしてやるぞ。
「良いな〜。優希だけ褒められるなんて良いな〜。颯流っち、私のことも褒めてよ」
「お前に誉めるべき点でもあったっけ?」
「何それ超酷くないー?
「……分かったよ」
突然我儘な赤ん坊に幼児退行した桃園さんのリクエストに答えてみる。
桃園さんの誉めるべき箇所……いや最近は意味不明な面しか見てないような?
いや無理矢理にでも良いから過去の記憶をひっくり返せ……あ、見つかった。
「そうだな……桃園さんってどうしようもないドジで天邪鬼な性格してて時々意味不明な行動を取るけど、意外と律儀な面があって素敵だと思う。前に体育館で華麗にシュート決めてたりドリブルで相手プレイヤーを素早く掻き分けていくときの表情も、いつもと違って真剣でカッコ良かった。あと意外にもメイクありも素顔も可愛いな」
女子バスケ部でフォワードとして活躍してる桃園さんはその小柄な体型もあって、素早いハンドリングと共に流れる水のように道を進んでいく様が特徴的だからな。
前回の例は飛躍し過ぎだけど助けられたら恩を積極的に返そうとしてくれる。
部活前と後じゃ恐らく汗でナチュラルメイクが外れるんだろうけど、どっちも女の子として魅力的だったのに驚いたこともあったっけな。
そうやってうんうんと頷いてると、今度は桃園さんが顔を真っ赤にさせた。
「あっ……ありがとう颯流っち……まさかそこまで言ってくれるなんてねー……」
「な、なあ2人とも……もうそろそろ本来の勉強に戻らないか?」
「そ、そうだよね……ニャハハ……この空気は恥ずかし過ぎるよ……」
そう言いつつも斜め横の床を見つめる木下さんの顔も綺麗で可愛いんだよな。
桃園さんも真横を向いたまま耳まで真っ赤になってるし突っ込まないでおこう。
俺も顔の熱から気を紛らわせるために勉強に集中し直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます