第25話 元幼馴染は金髪美女と2人きりに。「ただのアメリカンジョークだよ」


「Alright everyone, so now we will be having a pair group activity for describing the picture in your own way, so please discuss now. Alright, go!」

「じゃあやるか颯流。マディせんせーが言ってたのはこの4コマ漫画を題材にして好きなストーリーを作ることだよな?」

「ああ、正解だ。英語のリスニングが上達したようだなクロワッサン」


 今は4限目でマディ先生が直直に英語の授業を受け持っているのだ。

 月愛との打ち合わせでは授業後に話しかけろとのことだから、今は授業に集中だ。

 隣の席のクロワッサンと共に課題に向き合うも密かに雑談に花を咲かせる。


「なぁ颯流よ。やっぱりマディ先生って魅力的よな」

「魅力的って?」

「はっ、惚けても無駄だからな? お前が熟女萌えなのはとっくに知ってるだぜ?」

「っ……そうだったな。はあ分かったよ認める……マディ先生は極上の蜜と肉だ」


 金髪美女を始めとして女優かと勘違いする程のとんでもないスタイルの持ち主だ。

 碧眼にぷっくらした唇など……本人に対しては失礼極まりないだろうが、俺がお世話になっているおかずの題材に取り上げられている登場人物たちにそっくりだ。


「くくくっ……あんな女性に指導してもらえたら最高だろうなぁ?」

「なっ、お前な……!」

「Hey Shuya and Seshiru, no Japanese during my class please!」

「So-sorry Madi-sensei!」


 彼女の授業中に限って基本的に日本語禁止だから指摘されてしまった。


「この野郎」

「くくくっ。本当は喜んでるくせに」

「チッ」


  己クロワッサンめ……どこまで俺の性癖を嘲笑い続けるつもりだ。

 けれど悔しいことにマディ先生に構ってもらえて喜んでる自分もいるんだよな。

 これじゃあまるで俺が罵倒ばとうされるのが大好きなドMのようで気持ち悪いな。


「マディせんせー!」

「Yes, what is it Runa?」


 クロワッサンの対応に頭を悩ませていると月愛がマディ先生に接触を図った。

 そして昨日の打ち合わせ通りにマディ先生の耳に例のセリフを囁いた。

 するとマディ先生も1度だけ俺を一瞥いちべつした後に授業を再開させた。


 これで月愛からの根回しが完全に終わったからは後は俺の番か。

 俺は授業が終わる昼休みまで待った。

 






「……あの、マディ先生」

「な〜に? 颯流の方から話しかけて来るなんてサプライジングだね!」


 休み時間になれば日本語で話しかけても良いことになってるのでそう切り出した。

 すると高めのトーンと多彩な表情を露わにしながら返事してくるマディ先生。

 木下さん達とはまた一味違った陽キャのノリで新鮮な感覚を覚えてしまう。


「昼休みに少し時間を借りても良いですか?」

「オッケー。それじゃあマイルームにおいで」

「……ああ。分かった、先に待ってます」


 当然『私の部屋』とは第3校舎の3階にある『英語科準備室』のことで、ネイティブ先生でその部屋を活用してるのはマディ先生のみだがら、実際に彼女の領域だ。

 何かと語弊を生むような言い表し方をされたせいでドキリとさせられた。

 けどやっぱりそんな意図があるわけないのだ……俺は先に到着して待つことに。




「ハ〜イ颯流! 少し待たせてソーリーね」




 いつものように日本語の中にカタカナ英語を盛り込んでくるマディ先生だった。


「月愛から聞いたよ。今年のサマーバケーションにあるオーストリアへの語学研修に参加したいんだって?」

「はい、その通りですよ。それで先に資料に目を通しておこうと思いまして」

「アハッハッハ〜。颯流ったら去年から本当にシャイボーイだね? ハンサムでプレイボーイのようなのに、そこもキュートだから私はむしろ好きだけどね」 

「あはは、すみません照れ屋で。……けど概ね正解です」


 そう、俺がマディ先生と2人きりで話しかける状況がまさに目の前の現実だ。

 「今年の夏休みに開催するオーストラリアの語学研修の資料が見たいです」と予め月愛を通して本人に伝えることで、大義名分の元に2人きりになれたのだ。


 今はまだ5月から1週間程しか経っていないから早過ぎる気もするが仕方ない。

 去年は行かなかったから今年こそは言ってやるんだ! と言えば良いのだ。

 実際に俺も興味あるしな。ついでに資料もこの部屋にあるからアリバイは完璧だ。


 ちなみにマディ先生がなんでもない風に『好き』とか言うせいで心臓が跳ねた。

 落ち着け俺の馬鹿野郎、こんなのアメリカ文化からすれば普通のことだ。

 基本的に日本人よりも自由気ままに発言する人種なのだ、だから勘違いするな。


「アイシー、アイシー。オッケイソ〜、これが語学研修のブックレットよ」

「有難うございます、早速見ますね」

「オフコース。今年も私ついて行くから、沢山エンジョイして思い出を作ろうね!」

「っ……そうですね。今からその日々が楽しみになって来ましたよ」


 だから雑念を振り払えって俺の馬鹿野郎。

 人妻の金髪美女と2人きりの空間に閉じこもってるからって別に何も起きねえよ。

 思い出という単語を聞いただけで卑猥な妄想をした自分をぶん殴りてえ。


「それじゃあメインコンセプトから説明していくね。オーストラリアのケアンズに行って、現地の生徒達に混ざってスクールライフを楽しんでもらうのよ。皆と英語のプレゼンや発表会をしたり、遠足に行ったりして仲良くなるの。もちろん、滞在方法は生徒達と一緒にホームステイすること! 合計で5日も続くから物凄くエンジョイできるよ! ハーワズィッ颯流? イメージしただけでワクワクして来るでしょ!?」

「おお……! 確かに楽しそうですね!」


 資料を見ても外国の生徒を混ぜた集団で楽しそうにしてたり、共にグループワークで意気投合する姿や、外国人達と円を作ってランチしてる姿も映ってて楽しそうだ。

 噂では夜は滞在先の家族と徹夜で遊び回ったり、現地の人たちといろんな意味でできるのが暗黙の了解らしく、それで去年はお楽しみになった生徒も多いとか。


「最初の3日間は学校生活に集中して、ラスト2日は各自でグループを組んで好きなようにアドベンチャー出来るのよ! 指定の範囲内であれば遊園地に遊びに行くもオッケー、観光地や山、海に行くのもオールオッケー! オフコース、現地の生徒と一緒にグループを組んでもオッケー……ノーノー、むしろ推奨してるのよ」

「マジっすかマディ先生!」


 それは何というか……物凄くハーレムライフを楽しめられそうな雰囲気だぞ。

 黒人から白人の生徒達とも交流できる上に、2日も好きなように冒険出来るのか。

 そしてあわよくば異文化交流も兼ねてセック──っていやアホか何考えてんだ俺!


 そんな下心が許されるはずもないし、そもそも木下さん以外は抱かないと決めた。

 そもそもそんな夢物語のような性生活はやはり創作物の中の話だけで結構だな。

 マディ先生の雰囲気に呑まれて妄想のタガが少しばかり外れてしまったようだ。


「そうだよ? それと本当は私の方からこんなことを言うのはタブーだけど、夜は大人の付き添いが居れば出掛けてもオッケーなのが暗黙の了解よ。本当はダメだけど」

「そうなんですね」

「イエス。どうせホームで大人しくしてなさいと注意しても皆言うことを聞かないからよ。けど問題行動を起こさない限りは先生達も諦めてオッケーって感じなのよ」


 確かに人生に何度あるか分からないイベントだ……はっちゃけたくもなるだろう。


「だからリセントゥミー颯流、ホームステイ先の同級生が女の子の場合。色々と気を遣わないとダメなのは流石にわかるよね?」

「それは当然そうでしょう」

「ザッツワイ……これも本当は私から言うのはタブーなんだけど、イフ颯流がその女の子とすることがあれば……コンドームの着用はマストよ?」

「はっ!?」


 唐突な爆弾発言に驚愕してしまう。

 教師陣がそんなことを行ってしまっても良いのかマディ先生!?


「シュッ。颯流、ボイスがデカ過ぎるわよ!」

「ご、ご、ごめんなさいっ!」


 いや許せよ元はと言えば急にぶっ込んできたあんたが悪いんだろうが。


「だから必ず準備を怠ってはダメよ。ドゥユーアンダスタンド、颯流?」

「っ……は、は、はいっ!」

「………………プッ、アハッハッハッハ〜!!」


 すると何を思ったのか急に吹き出して爆笑しだしたマディ先生だった。

 

「……な、なんですかいきなり?」

「ビコーズ颯流があまりにもバージンくさいリアクションをするからよ! 今もイケメンなフェイスがトメイトーのように真っ赤でベリーキュートよ! ソーファニ〜」

「だ、だって急に言われたら恥ずかしいじゃないですか!」

「アハッハッハ、ただのアメリカンジョークだよ。知ってる? ダーティなジョークだけど少しだけ揶揄ってみただけよ。颯流って本当にまだバージンなんだね〜?」

「くっ……それがどうかしたんですか?」

「イフ颯流がラッキーボーイだったら……誰かが颯流のチェリーをポップしてくれる素敵なガールとの出会いがあるかもしれないね?」

「〜〜〜〜っ!!」


 月愛とのゲームをモロに彷彿とさせるような単語が出てきて顔から湯気が出そう。

 しかもターゲット候補が目の前の人妻さんときてるし、気恥ずかし過ぎるぞ。

 だが意地でも木下さんにしか操を立てないぞ……じゃなければ世界が滅んじまう。




 そう身悶える俺を見つめる熱い視線のことを、この頃の俺はまだ知らなかった──



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