第15話 元幼馴染は詮索される。「とりあえず貞操終了のお知らせ!」


「ねえねえ颯流、本当は月愛ちゃんと結婚したんじゃない?」 


 そんなウザったらしいニヤけ顔と共に俺に詮索をして来たのは、クロワッサンの彼女の小山和実こやまなごみだった。今も彼氏の膝の上に座ってるし、先程から甘い雰囲気に当てられてて癪に障る。俺を気安く呼べてるのは去年に段階から俺と知り合ったからだが。


 普段は木下さんと桃園さんと3人でワンセットだが彼氏にベタ惚れなこいつは頻繁にこうして教室内でもイチャついたりする。外見的な特徴は茶髪のショートヘアでスタイルはクロワッサン曰くCカップで、ダンス部でワックダンサーとして活躍してる影響でお腹に縦線の腹筋があるらしい。客観的に見ても上玉だと言えるだろう。


 頭は悪くないはずなのに何故か定期テストの点数は苦手科目で赤点をスレスレで回避する。それはバスケ部のクロワッサンも同じで意味がわからないんだよな。カップル両方とも揃いも揃って典型的な体育会系バカって表現がしっくり来る人物像だ。


「してない」

「それで晴れて同棲生活ってか? ヤれる場所に困らないってのは羨ましい限りだな。一部屋くらい俺たちに分けてくれよ」

「そだそだー! 颯流と違って私としゅーくんは無限にお小遣いがあるわけじゃないし、何とかやりくりしてカラオケ行くのって面倒だもん」

「お前らの性生活なんて俺の知ったことじゃねえし、そこは2人で冒険でもして探せよ。それにそんな間柄じゃねえよ俺とアイツは」

「颯流のケチ」

「けーち」

「うるせえ」


 俺の周りの連中はどうしてどいつもこいつも下ネタを平気で言えたりすんだよ……ただ月愛でさえ振り回されてるってのに、そんな美少女とはまた違った風な美少女にもそんな話題を振られるから対応に困ることもある。皆木下さんを見習えってんだ。


 それに俺は何としても真実は話さんぞ。月愛のアイデンティティーが崩壊する様は見たくないし、俺も世間から大バッシングを受けそうで冷や冷やさせられる。仲良い友人達には申し訳ないがここは月愛との約束で真実を混ぜつつ嘘を吐かせてもらう。


 幸いにも俺たちが今話してるのは教室の窓際で1番後ろの席だから他人に聞かれる心配も無いだろう。


「じゃあ何だ、お前ら義理の兄妹になったってわけか?」

「確かに、何より颯流のお父さんと結婚するくらいだから凄そうだよね月愛ちゃんのお母さんって」

「ああ、まあそんな感じだ。このゴールデンウィークで唐突に結婚したらしい」

「へ〜あのCATS Kの心を射止められたなんて、確かに奇跡みたいだよな。恋の成せるわざって凄えや、海外をあちこち飛べるんだからちょっと羨ましいな」

「本当にそれね! 私たちも世界中を頻繁に旅出来たら楽しそうだよね〜」


 この2人には俺の親父のことも話してるから俺の親父が『CATS K』と言うラッパーとして有名なのは知られている。まあそんな世界レベルな有名人が結婚したってニュースが上がってないのも不思議だと思うんだが……まあ今はそばに置いておく。


「おいまたイチャつくんじゃねえよ」

「嫌ですよ〜んだ」

「あっははっ、悪ぃ悪ぃ。それじゃあさ、今颯流の無駄にデカい家には月愛と2人しか居ないってことなんじゃねえか?」

「ああそうだな──」

「へぇ〜?」

「っ……んだよ小山その憎たらしい笑みは」

「別に〜。だって、ねぇ〜?」

「だな〜。クックックック」

「イヒヒヒヒヒ」

「チッ」


 彼女を膝の上に乗ぜながら2人で邪悪な笑みを浮かべる様はまるで魔王とその側近のようだ。性格の悪さがこうも掛け算されたらたまったモノじゃないな。


「颯流よ。アドバイスを1つだけあげよう」

「何のだよ」

「ゴムはつけろよ?」

「アッハハっ」

「黙れ、だいたい俺は木下さん以外の女性としたいとは思わねえんだよ」

「お前ほんと木下さんのこと好きだよな?」

「だよね〜。けどそれは果たして本当かな〜?」


 またもや意地の悪い笑みを浮かべてる小山に便乗する形でクロワッサンが喋る。

 

「本当に木下さん以外の女子とセックスしたくないと言い切れるのか?」

「っ……ああそうだ──」

「いいや無理だね〜」

「何でそう言うんだよ」

「だってもう1度月愛ちゃんを見てみなよ。可愛くてボッキュンボンなスタイルだよ? そんな女の子と同じ屋根の下で暮らしてて意識しないわけないじゃん〜」

「それも兄妹になったとは言え、長い間も幼馴染として遊んできた松本──いや冨永さんのことをちゃんとした妹としてお前は見ることが出来てるのか?」

「……いや」


 今日で同棲し始めてまだ2日だと言うのに心当たりが多過ぎるな……特にあいつの魅惑的な性格とアプローチが激し過ぎるせいで何度も理性をガリガリ削られてきた。


「だろ? それにあいつはお前のことが好きなんじゃないかって俺は睨んでるわけよ」

「あ、私もそれ思ってた! 前から颯流と話すときだね何だか雰囲気が柔らかくなるよね? いやもう隠す気が全く無いよね?」


 まあ月愛も学校でクラスも一緒になったんだから今もあいつは自分のグループメンバーと連んでいるが、ちょくちょく俺に話しかけに来たりするからな。いくら幼馴染の間柄とはいえ態度が露骨だからな……ここはもうカードを1つだけ切っておくか。


「ま、まあ……実は中学生の頃に1度告白されてて──」

「キャア〜っ!」

「くっははははっ、こりゃ傑作だぜオイ!」

「は? 傑作ってどういうことだよ」

「そりゃ、なあ〜?」

「ねえ〜? ぷっ、あっはっはっは〜」

「さっきから何がそんなにおかしいんだよ鬱陶しいな」


 数十秒程2人で耳打ちしながらヒソヒソ話すと、2人は邪悪な笑みを浮かべた。 


「そりゃお前木下さんのことが好きで狙ってるっぽいのにいよいよ手詰まりだな?」

「ねー。しかも長年の恋がやっと報われそうな絶好のチャンスが来たんだよ!? 向こうが今更諦めるわけないよね〜」

「マジで奇跡よな? ったく神様も面白い運命を持って来てくれたもんだぜ」

「いやまあそうなんだけど、俺が木下さんに操を立てたら何も問題が無いだろ?」


 するとまた2人で顔を見合わせると「ぷっ」と小さく吹き出したのがムカつくな。


「お前本気でそんな状況を綺麗なまま生き抜けられるとでも思ってんのか?」

「甘いよ甘いぞ颯流! 恋する乙女とはどんな手段を使ってでも意中の男を手に入れるものなんだよ?」

「そうなのか? お前らの場合はどっちかと言えばクロワッサンが奮闘したと思うんだが」

「ぁ……えへへ〜。懐かしいね〜。確かにそうだけどあのときのしゅーくんは女遊びが激しかったから、下半身も心も丸ごととっ捕まえるのに頑張ったんだよ?」

「ああ、和実ったら俺が浮気してた度に記憶を塗り潰すように押し倒してきてたもんなぁ」

「へっ? ちょっとしゅーくん辞めてよ颯流の前で恥ずかしいよぉ」

「あはは、すまんすまん。ほらおいで?」

「うん」


 ギュ〜っ♡ じゃねえんだよテメえら一々見せつけて来やがって!


「はいはいご馳走様でした」

「だから俺が言いたかったのは、女の子の方も意中の相手を手に入れるために全力で迎え撃ってくるぞってことだ」

「はあ、それは分かったよ」

「いいやまだ自覚が足りないよ? だって1度でも既成事実を作っちゃえばもうイチコロじゃんっ」

「そうだよな〜? お前は木下さんしか見てないようだけど、家には腹ペコの肉食動物が居るってことさ。何も起きないわけがねえよな〜?」

「……くっ」


 2人が言う通りに散々誘惑を仕掛けられたせいで本当に大変な目に遭ってきた。


「あっはっは、見た? しゅーくん、今の反応!」

「ああ、颯流って本当分かり易いよな?」

「もういわゆる三角関係ってやつだね〜?」

「幼馴染VS泥棒猫ってところか」

「これはもうドロドロ展開に期待できそうだよね」

「ああその通りだな! だから傑作なんだよ、これは俺たち2人で3人を暖かく見守ってやろうじゃねえか?」

「あっはっは、下手な恋愛ドラマよりもよっぽど見応えがあるもんねー」

「お前ら人ごとみたいに笑いやがって!」


 こいつらに真実を話したら更に爆笑しそうだよな……絶対に言えねえなこりゃ。


「だからまあこのことは俺と和実とだけの秘密にするから、頑張れよ颯流。お前が木下さんとくっ付こうが、冨永さんに靡こうが俺たちは応援してるからさ」

「酒の盃にするからの間違いだろ! それに傍観に徹してないで俺を助けてくれよ! ほらこういう時のためのイケメン友人キャラとその恋愛マスターの彼女役がいるんだろ? 好きな人が居るのに、家で俺をつけ狙おうとする猛獣の手綱をどう握ったら良いんだ!?」

「あっははっ、私たちに聞かれても……ねぇ?」

「颯流を取り巻く状況は複雑過ぎてアドバイスなんて無理に決まってるだろ、俺もまだ高校生なんだぞ? それにそんな大量の魚の死体が浮かんでる死海のような人間関係に俺らを巻き込むなっての」

「ふざけんな元ヤリチンのお前なら余裕で最適解を示せるだろ! それでも協力しないっていうのかよ」 

「当たり前じゃん、リアルでこれ以上に壮大で複雑そうなラブストーリー他に無さそうだもん」

「っ……ったく俺の青春をエンタメとして見やがって」

「まあまあそう悲観するなよ。……そう言えばお前ら義理の家族になったんだよな?」

「颯流がお兄ちゃんなのか?」

「ああ……」


 そりゃ嘘の設定上は義理の兄妹になったんだから当然その質問も来るか……しかも俺の誕生日は月愛の誕生日の4月11日の1週間前の4月4日だからな……理屈上では月愛が俺の義妹という設定になるわけだが、それを認めるのは何だか恥ずいぞ。


「まあ誕生日的に俺が早く生まれたんだから俺が兄ということになるな」

「つまりお前は冨永さんにお兄ちゃん呼ばわりされてるわけか」

「うわぁ〜何それ超ヤバそうじゃんっ!」

「ぐっ」


 いかん、一瞬だけあいつが俺のことをそう呼んでる場面を想像してみたら軽く悶えてしまった。これはダメなやつだ今すぐイメージを脳内で削除してポイッとな。


「あっはっは、あんなに可愛い子にそうやって懐かれるだなんて、物凄くグッとくるんじゃない?」

「颯流の反応を見るにそうらしいな? ああそう言えばそっか……お前らが体を重ねたら近親相姦になるのか……うっわこりゃやべえやっべえ!!」

「ついでに優希ちゃんから寝取って心もあそこもドロドロか〜」

「それをデートのお迎えにやってきた木下さんに見られるんだよなぁ?」

「あっはっは! とんでもない修羅場になりそうだね〜」

「そのまま颯流の闇堕ちルート行くか?」

「とりあえず貞操終了のお知らせ!」

「ああもう、うるっせえなマジで!!」


 もはや居た堪れなくなって発狂しかけた所を学校のチャイムに救われる俺だったが……昼休みになってLINERを開くと月愛からこんなメッセージが届いてた。




『昼休みに学食で優希ちゃんも混ぜて3人で食べましょう』

『来なければ颯流の性癖を話題に女子会を開くかもです♡』




【──後書き──】

 次回、3人でご飯を食べさせます。

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