第2話 幼馴染は恋するヤンデレ。「ただ颯流と同じ学校に通いたくって……」


「チッ……やはり後をつけて来やがったのか月愛、このストーカー常習犯の女狐め」


 振り返ると嫌と思わされる程に見飽きた顔が丁度電柱の影から出て来たようだ……不本意ながらも紹介しよう……ヤツは俺の腐れ縁の幼馴染である松本月愛まつもとるなだ。


 生意気にも木下さんよりスタイルが抜群で男を誘惑するプロポーションを維持しており、産みの母親がフィリピン人なためか目がくりっとしててミスコンの大会に余裕で張り合えそうな外見だ。胸まで掛かる茶髪ロングだが所々に黒髪も混ざっている。


 つまり日本人とフィリピン人のハーフで、フィリピン人女性特有の髪質的なコシがあって艶々でサラサラだったり、肌も色白で天使のようだ……外見だけはな。


 困ったことにこいつは普段は明るい性格だが、俺に惚れた途端に一途で献身的な線を踏み越えて執拗に俺の愛を貪ろうとするのだ……それも中学時代からずっとな!!


「大好きな幼馴染の顔が見られて喜んでるけど、それを素直に言うのが恥ずかしい照れ隠しでしょう? んふふっ、HR以来だけど再会できて嬉しいですよ〜颯流」

「何俺がお前に好意を抱いてる前提で話を進めてんだよ。大嫌いの間違いだ。あと折角余韻に浸っていた空気がぶち壊しだ」

「まあまあそんなに顔を顰めないで下さいよ、折角の私が大好きなイケメンな顔が」

「お前が今すぐ視界から失せてくれたらニッコリ笑ってやるよ」


 はあ……これでこの件は何回めだ畜生。


「アハっ、名案ですね颯流! それじゃあ私とツーショットを撮りましょう。丁度夕日が差し込んでてまるで映画のワンシーンのようになりますし。素敵でしょ? んふふっ」

「ちゃんと話聞けよお前、俺のセリフの文脈が理解出来てないなんて頭大丈夫か? 現代文の単位落とすんじゃないだろうな?」

「キャ〜っ、颯流は私の心配をしてくれるんですか!? やっと私に愛情を向けてくれるんですねっ!! 膣奥がキュンキュンしちゃいます〜!」

「勝手に感じとけっ!」


 一般男性なら美少女にこうして好意を向けられて身体をも差し出して来るとなると身に余る光栄に感じるだろうが、こと月愛に限って俺は断じてそうは思わない。


 女の据え膳を食えないだなんて男の恥だぁ? そんな戯言は俺と月愛の関係に限ってのみ当てはまることは無い……何故なら、


「私の成績を心配することは無いですよ? だって颯流も良く知ってるじゃ無いですか……私が本気を出せば学校の定期考査ごときの試験なんて軽く満点を取れると」

「でもお前去年は留年してるからまた2年生からやり直しになったじゃねえか!?」

「んふふっ……そういえば言ってませんでしたっけ? こうして颯流と同学年だけでなく、同じクラスになるためにもわざと定期考査で手を抜いて来たんですよ〜?」

「相変わらず思考回路が腐ってんなお前」


 そう……こいつは正真正銘の天才で学年、いや全国でトップクラスの学力を持っている筈なのに、ただ俺と一緒に居たいからって平気で留年まで視野に入れては有言実行する、頭のネジが何十本も飛んでるヤツだ……はあ、とんだ宝の持ち腐れだな。


 その上にどんな手段を使ったのか非常に気になるが、俺と同じクラスになるように大人たちを誘導したり、両親と離れて1人暮らしをしているのに何かしらの収入源を複数持ち合わせているせいで自分のことを金銭的に余裕で賄えてたりもするのだ。


 ついでに彼女は高2を1度留年してるから俺より1個年上な癖に謎に敬語で話すのが意味わからん……確か中学時代からこのスタイルにしたらしいが動機が謎だな。


「いや〜ん、そんなこと言わないで下さいよ〜。颯流をうちの花園高校に入学させるの結構大変だったんですよ〜? セシルが他の高校入試で満点に近い得点を取ったりするから、うち以外のあらゆる進路先を潰すのに結構な労力を割きましたよ〜」

「はっ!? 何だとお前、それマジで言ってんのかよッ!?」


 通りで俺は高校受験期間に幾つもの公立高校に受験しに行って結構な手応えを感じてたのに、何故か全校とも満点に近い点数を取っていたはずが落ちたのだ……俺が今通ってる国立花園高等学校以外は……やっとその真実が明かされたわけだなッ!?


 マジで何者なんだよこいつは、まるでこの国を裏から掌握してる支配者のようだ。


「この……悪魔野郎ッ!!」

「いや〜んそんな怖い顔しないで下さいよ〜。別に颯流の将来までをも潰したいわけじゃ無いんですよ? ただ颯流と同じ学校に通いたくって……我慢出来ずに渋々留年することにしたんですけど、今では幸せな学校生活を送ってるから問題無いですよ。それに、私には悪魔じゃなくて小悪魔が相応しいでしょう? んふふっ」

「問題大ありだッ!! まるで俺の人生の選択権が全てお前に委ねられてるかのようで怖気がするんだよっ!!」

「大丈夫ですよ、これから少〜しずつ颯流の中で私の存在を大きくして、やがて恋愛感情を発達させてからゆくゆくは結婚すると、未来はそう決まってるんですから〜」


 まるで自分を神様か何かだと勘違いしてるようだな。自分に自惚れすぎだテメェ。


「確定した未来など無い、だから俺はお前の魔の手から逃れるように最善を尽くすまでだ……そして木下さんとの幸せな結婚生活を手に入れるのは、この俺だッ!!」

「んふふっ、まあ今のところは夢を見させてあげることにしましょう」

「はっ、何言ってんのお前?」

「颯流、さっきあなたは確定した未来など無いと言いましたけど、それは日々自分が取る選択肢の繰り返しによって、目的地へと近づくあらゆる不確定要素──つまり確率を100%まで限りなく近づける事は出来るのですよ? 毎日努力することを厭わなけばそれは可能ですし、状況次第では必然の結果へと導くことも出来ますよ〜」


 そりゃ何事においても反復練習で最初は出来なかったスキルが身につくようになると、たかが趣味だとしてもブレイクダンスと向き合っている俺も知っているが……。


「そうだが、人間が鳥になれないように不可能なことも世の中にはあるってものだ……例として挙げるならば、お前がいつまで経っても俺とキス出来なかったり」

「……んふふっ、それは私が手加減をしてるからに決まってるじゃないですか? 私が本気を出せば颯流なんてあっという間に私に無我夢中にさせられますけど、それだと面白くないでしょう?」

「はっ、どう返事して来るかと思えばただの負け犬の遠吠えじゃねえか」


 だが確かにこいつの言う通りに今まで幾らでもそのチャンスはあったはずなのに、こいつは何故か自分から一線を踏み越えて来る事は決して無かったな。


 それは恐らく俺が自発的に月愛を求めるように仕向けたいからだと推測を立てているが、お前がそうやって中途半端にしてる限り手に入ることも手に入らないだろう。


「アハっ。颯流は今絶対に私のことを口先丈野郎くちさきだけやろうって思ってるでしょう〜?」

「いや今までのお前の実績を振り返ったらそんな事は決して無いんだが、どうしても不可能は世の中にあるだろ? って考えてたのさ」

「ふ〜ん、例えばどんなですか?」

「さっきお前が言ってた、俺と結婚するとかな。第一にお前が俺の家族になれるわけが無いんだよ」


 俺が冷静に物事を判断する思考力を保ってる限りはそんな事は決して起こり得ないのだよ。

 すると月愛のやつが身体を前に倒して斜めから俺の顔を覗き込むように近付いた。


「へ〜、私が颯流の家族になることがあり得ないだなんて。本気でそう思ってるんですか〜?」

「ああ無理だな。第一に俺はまだ16歳だ、少なくとも1年半の間はお前の実力どうこうじゃどうにも出来ねえだろうよ……なあ?」


 クククっ……こればかりは無理だろう。

 お前が4月11日に18歳になったのはおめでたいが男の方も18歳にならなければ法律上俺の結婚は認められないのだ。ようやく一本取れたようで爽快感に酔いしれそうだ。いやもう酔ってるだろうな……さっきからほくそ笑みが止められねえ……。


「──んふふっ」


 すると小さく笑った月愛が、もう一度笑い始めた。


「んふふふふふっ。ごめんなさいね、笑ってしまって。でも颯流の発言を侮辱したつもりは無いですよ、法律上まだ颯流と結婚が出来ないのは知ってますから。でも今から楽しみになりましたよ。あなたの予想を上回る結果であなたを驚かせては、私の好奇心旺盛な心が満たされるというもの」


 今度は月愛の目の奥に確かな炎が燃え上がってることを感じとったせいで、恐らくこれに関しては本気で言ってるんだろうが……気後れながらも反論した。


「……お前にこの国の法律を変えられるのか? はっ、どうせ今回ばかりはハッタリだろう? やれるもんならやってみろや」

「んふふっ。ええ、ええ! 久しぶりに本気を出しますわ……『月愛は颯流の家族になる』……その日はすぐにやって来ると保証しますので楽しみにしてて下さいね?」


 そう笑顔でにっこりと笑うと月愛は瞳から溢れ出す強烈な意思を引っ込めてくれたので、今日も俺は月愛をあしらいながらも帰路に着くのだった。


 ──先ほどの月愛の発言が後に本当に現実化し、同じ屋根の下で暮らしては混沌の日常生活を送るようになることを、この頃の俺はまだ知らなかった。


 まさか俺の幼馴染があんな形で本当に家族になるとはな──




【──後書き──】

 ヤンデレは文字通りにあらゆる手段を持ってして大好きな人と寄り添う。

 これテストに出ます。

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