第22話 誘拐事件
翌日。俺はいつものような生活を送ろうとしていた。朝を起きて、顔を洗って、歯を磨く。それが全て終わったら、パジャマから制服に着替える。
東京美高等学校の制服に着替え終えると、寝室から出て、ダイニングルームへと向かう。
そこには愛香と愛莉がもうすでに席について朝食を取っていたのだ。
「おはようさん。お二人とも」
「ええ。おはよう」
「おはよう!健次お兄ちゃん!」
俺は他の二人に挨拶すると、自分の席に着く。
セバスは朝食を運んでくれた。本日の朝食は目玉焼きにトーストだ。
ふむ、洋風か、悪くないな。
俺は手を合わせて、いただきますと言ってから、食事に取り掛かる。
……このヒモ生活も10日間が経ったんだな。
正直、この生活にも慣れて来たものだが、違和感を覚える。
愛香のペットになった俺は、何をすればいいのか、正直わからない。彼女が与えた命令はエンデル公募に応募することだった。
正直、まだ時間もあるし、今すぐに手かげても仕方がない。
俺は自由なままで生きている。そうすることは間違いないだろう。
「今日は、リムジンに乗って行きますか?」
「いや、やっぱり。その車には乗り慣れないから、今日は徒歩で学校に行くよ」
「そうですか。なら、私はお先に失礼いたします」
「おう!気をつけてな」
朝食を済んだ愛香が立ち上がると、愛莉は愛香のあとを追うように、席から立ち上がる。
そして、玄関の扉のほうまで歩くと、足を止める。
「どうした、何か忘れ物か?」
「いいえ。なぜか、慣れなくって」
「慣れない?何をだ?」
「行ってらっしゃい……」
「あ……」
そこで俺は自分が犯したことに気づく。
俺がぽそりと放った、『行ってらっしゃい』は、誰にも彼女に言いかけなかった。
この家、マンションを出る時に誰も彼女を
俺がこの家に引っ越して来てから、そう言うようになったのだ。だから、彼女が不思議な気持ちを抱いたのだ。
「じゃあ、本当に行きます」
「おう。行ってらっしゃい。俺は、すぐに追いつける」
俺がそういうと、愛香と愛莉は仲良く手を繋いで、この部屋から去っていった。その後についていくように、セバスも出ていく。
この部屋に取り残されたのは、俺一人だけだった。
広い豪華なダイニングルームに、俺は一人で朝食をとった。
食事が終わると、そのまま立ち上がり、椅子をしまうと、リュークを背負う。
「さて、俺も早く登校しようっと」
と、俺は一人だけテンションを上げながら、エレベーターの方へと向かった。
エレベーターを降りて、マンションを出るといつもの道を歩み、登校する。
5分くらい徒歩で歩いていると、ガチャン!と言う轟音が響き出す。
何事か、と音の元を確認すると、まず目に入ったのはリムジン車が止まっていた。リムジン車の左右に軽車が2台ぶつかって来た。それはまるで、映画のアクションシーンのように、派手だった。
それで終わると思いきや、両車の軽車の扉が開くと、軍服を着た人が数人、出てくる。みんな、ガタイのいい体をしている。軍隊たちはリムジン車のドアを叩き落とす。
リムジン車の扉がこじ開けられる。ある一人はリムジンの中から愛香を引っ張り出してきた。
「ちょっと!あなたたちはなに!?」
「うるせえ!こっちへ来い!坂本愛香!」
など、怒鳴りの声が響く。
セバスはそんな異変に気づいたのか、早くも運転席から飛び降りる。愛香を守ろうとするが、もう遅い。愛香はとある軽車に乗せられる。彼女が乗った軽車のナンバープレートは、足立12−3だ。
「撤収だ!撤収!」
と、リーダーらしき人物がそう叫ぶと、全員軽車に戻る。
そして、猛スピードでその場を去ったのだ。信号を無視して、他の車を避けながら、アクセルを踏んで行ったのだ。
まだ、頭の中が整理できていない俺は、リムジン車へと駆けつける。
「一体、何が起きたのですか!」
「愛香様が誘拐されました!」
「な、なんですと」
そこで俺はやっと冴えない頭が活性化する。
さっきまで俺が見たのは誘拐行為を目撃していたのだ。
愛香は、ガタイのいい人たちに誘拐されてしまったのだ!
「お姉ちゃん!お姉ちゃんが……」
「大丈夫か愛莉!」
「私は大丈夫。でも、お姉ちゃんが!」
愛莉は壊れたラジオみたいに、延々と姉の愛香のことを話していた。
俺は愛莉を抱き抱えて、よしよしと、彼女の頭を撫でてあげる。
幸い、愛莉には外傷がなかった。ただ、精神ダメージが負ってしまったのだ。
「セバス!警察に通報だ!」
「わかっております!」
俺は愛莉を落ち着かせる中に、セバスは携帯端末で警察に通報する。
……やられた。犯人にしてやられた。
誰か知らないが、坂本愛香が誘拐されたのだ。
◯
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