31話・不確定要素
ラシオスは酒に弱い。宴でもアルコールの含まれていない飲み物を特別に用意させる徹底ぶりである。少しでも飲めば足元がふらついて真っ直ぐ立てなくなるし、冷静さを欠く。社交の場ならば困ることだが、戦いの場ならば話は別だ。
普段通りのラシオスではローガンには勝てない。冷静過ぎて綺麗な型しか出せないため、相手に動きを読まれやすいのだ。
フィーリアは幼少期からラシオスを知っている。酒を飲んだ時、彼がどうなるかも知っている。今回決闘の直前に飲ませたのは、泥酔はしないが冷静さをやや失う程度の量。物心ついた頃からラシオスの婚約者を務めているフィーリアだからこそ加減を見極められたのである。
改めて貴賓席から闘技場を見下ろせば、ラシオスは好戦的な表情を浮かべてローガンの剣を捌いていた。時折トリッキーな動きで反撃をしている。教わった通りの戦い方しか出来ない普段の彼とは明らかに違う。
「おおっ、これなら勝てるかも」
「いや、まだうちのローガン様の方が上です」
カラバスが安堵したように呟くと、ヴァインが即座に否定した。
酔って後先考えずに動いているだけで、強くなったり腕力が増えたわけではない。日頃の鍛錬の差がこれしきのことで覆るわけでもない。
しかし、僅かだが勝機は増えている。
「フィーリア嬢はラシオス様を勝たせたいとお考えで?」
ヴァインの問いに、フィーリアは首を横に振った。カラバスが「えっ」と小さく呻く。
「いいえ。これは御二方の決闘を長引かせるための、あくまで時間稼ぎです」
「時間稼ぎって、何の為に」
何もしなければローガンが圧勝していた。数分と持たずに決着がついていただろう。そこに酒という不確定要素を加えて勝負がどう転ぶか分からなくしたのは何故か。
「……それは」
フィーリアが、ちらりと大公妃メラリアを見た。
「決闘の混乱に乗じて国家間に
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