第6章 黒幕の正体

26話・裏付け

 通路を駆ける複数名の警備兵たち。観客はみな闘技場で繰り広げられているラシオスとローガンの決闘に釘付けになっている。場内で何かあっても、今なら騒ぎにはならないだろう。


 カラバスから指示を受けた警備兵がとある貴賓席の扉を叩くと、中から従者が顔を出して「何事か」と怪訝そうに尋ねた。


「先ほどこちらの貴賓席から矢が放たれました。失礼ですが内部を改めさせていただきます」


 警備兵はブリムンド王国直属の部隊であり、制服の襟元には国王から賜った徽章きしょうが輝いている。彼らの要請を突っ撥ねれば国王に逆らうことと同意。後ろ暗いことなどない従者は警備兵からのチェックを受け入れた。狭いブース内の確認作業はすぐに終わり、怪しいものや危険なものは一切見つからず仕舞い。その間も、この貴賓席の主人である貴族は試合に熱中していて警備兵のことなど眼中にはなかった。


「この試合が始まってから、どなたも出入りされておりませんか」


 警備兵が問うと従者は首を横に振ったが、すぐに何かを思い出したようで口を開いた。


「そういえば、さっき振る舞い酒だといって侍女が酒瓶を差し入れてくれた。あれはブリムンド国王からではないのか?」





 矢が放たれたと見られる二つの貴賓席に異常はなかった。だが、試合開始から数分後に『振る舞い酒を持ってきた』と侍女がやってきたという共通点があった。ブリムンド王国とアイデルベルド王国の国王はそんな差し入れをするよう命令をしていない。


 警備兵たちはその侍女が怪しいと見た。闘技場に侍女を連れてきている貴族は多いが、ほとんどが地味な色合いのお仕着せを身に着けている。

 しかし、招き入れた者たちはひと目で『国王からの使い』だと信じた。それなりに立派な身なりをした侍女ということだ。


「至急報告を。やはり『あの御方』の仕業とみて間違いない」


 王子たちの決闘に乗じて何かを仕掛けた人物が明らかになった。

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