第3話 離れ離れ

 それから時は流れ、澪は中学生になった。

 そこそこのマンモス校だった小学校からはほとんどの児童が同じ中学に進み、別のッ小学校と合わせて三校が合わさる形となる。そこでは別のクラスとなったが、澪と陸人は同じ学校にいた。

 特に進展も何もないまま一年生の夏休みに突入した時、澪は両親から衝撃的な言葉を聞く。

「また、転校……?」

 何度目かわからない転勤の話が持ち上がっていると言うことで、家族一緒に再び引っ越すことになったのだ。つまり、澪は県外の中学校に入り直すことになる。

(安芸くんと、離れるの……? そっか……)

 小学校二校に通った経験があり、澪は諦めることを覚えていた。しかし、陸人と離れることは今までにないくらいには寂しかった。

 とはいえ、自分の恋心を伝えようという気はない。フラれるのは悲しいし、もし万が一両想いになったとしても遠距離になってしまうからだ。

 転校するのは、新学期が始まってからと決まった。九月に入り、澪は担任教師にその旨を伝え、ギリギリまで誰にも言わないよう頼んだ。


 最終日、澪はいつもと同じように学校に行った。授業を受け、いつもと同じように過ごす。寂しさはあったが、気にかけてくれる友人たちを心配させたくなかった。

 この時には既に、クラスメイトたちに転校する旨は伝えられていた。合唱コンクールを控えた時期だったが、仕方がない。

 帰りの会で、澪のお別れ会が催された。

 担任教師とクラスメイトのメッセージが書かれた冊子を貰い、澪は今までの感謝を口にした。

 大半が帰宅するか部活に行く中、澪は数人の友人と教室に残って話をしていた。その時、一人が澪を呼んだ。

「澪ちゃん、安芸くんが来てるよ」

「――へっ!?」

 実は昼間、その友人は陸人に声をかけていたのだ。「澪ちゃんが話したいことがあるって言ってたよ」と嘘をついて。

「頑張ってね」

 顔を真っ赤にして慌てる澪の背中を押し、友人は澪を廊下に押し出した。そこに立っていた少年を目にし、澪は硬直する。

「何、話って」

「あ、あの……」

 しどろもどろになった澪は、胸を手で押さえた。心臓は破裂するのではないかと思うくらい大きな音をたてて鼓動し、体全体が発熱する。

「……」

「……」

 互いに黙ったまま、どれくらいの時間が経ったかわからない。しかしこれではいけない、と澪は勇気を振り絞った。

「……ずっと、安芸くんのことが好きでしたっ」

「…………俺も、好きだった」

「!」

 呟かれた消え入りそうな返事を聞き、澪は顔を上げた。そこで見たのは、彼女と同じように顔を赤く染めた陸人の姿。

 それ以上言葉を交わすことなく、陸人は部活に行くために走って行ってしまった。澪はそれを追うことも出来ず、その場に座り込んでしまったのだった。


 二人が連絡を取り合うようになるのは、引っ越し先で澪が手紙を送ってからだ。

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