Day.4 チュートリアルの時間だ創造神。都市開発に必要な施設を言ってみろ

 少年が提示してきた「都市計画せかいちず」を棄却した翌日。

 この世界でただひとつしかない建造物いえのリビングで、少年はカップ焼きそばを啜りながら、全能たる私にこう切り出してくるのだ。


「なあ創造神。都市開発に必要な施設を知っているか?」


 ——だから、私が作って欲しいのは「都市」ではなく「世界」なんだがなあ……。


 とはいえ。

 どうやら私が有している「世界創造」の能力と、少年が有している「都市開発」の知識には、相当の差異が生じていることも、ここ数日間の交流で分かってきた頃合いだった。

 とりあえずは話を聞いてやろうじゃないか少年。寛大なる神に感謝するが良い。


 白紙の紙を机に広げながら、チュートリアルの時間だ、と少年が言った。

 ……おっと、そこの君たち。四日目で「チュートリアル」なんて遅すぎるとか、鉄板過ぎるツッコミを入れるんじゃない。



*****



「まず都市開発の最優先事項は、ライフラインの確保なんだ」


 ずばり——「発電所」「水道施設」「ゴミ処理施設」の三つ。


 私はすかさず言葉を返してやった。

 その三つ——すでに攻略クリア済みなんだが?



「……はあっ!?」


 よくよく考えてみたまえ、冷静沈着な少年らしくないぞ。

 今、私と少年がいるこの建物。ほら、もう電気が点いているだろう?


「やっべえ、全然気が付かなかった! ど、どこから『電線』引いてるんだ!? つーか、何発電だ! 火力か? 風力? それとも地熱発電か!?」


 ——創造神わたし供給による「自家発電」だが?


 あんぐりと口を開けて固まっている少年に、私は一発芸を披露してやった。

 自家じか発電というか、自神じかみ発電。私の全身をピカピカ光らせてやった。

 この家に限った話ではない。今後「電力」を必要とする施設には、私を介せばすべて、滞りなく電力を回すことが可能だ。

 無論、全能たる私に「収容限界キャパオーバー」など無い。安心してくれたまえ、少年よ。


「……じゃ、じゃあ水道は!? 水はどこから持ってきた!」


 つい昨晩も風呂に入っていた少年が、しきりに部屋中を見渡し始める。


 私は答えた——水の道と書いて「水道」なんだろう?

 人間には視認できずとも、私たち神にしか見えない「道」で、あらゆる施設に水を引くことが可能なのだ。

 わざわざ鉄パイプとか地下に潜らせなくて良し!

 ああ、もちろん「下水道処理」とかも不要だよ少年? 穢れた水など、私がすべて「浄化」してしまうからな。


「じゃ、じゃあゴミは!? 焼却炉は、リサイクルセンターは!?」


 今更何を言っているのだ、少年よ。

 私がわざわざ答えてやらずとも、聡明なる少年ならば、そろそろ解答に見当を付けても良い頃合いではないだろうか?


「ま、まさか……『魔法陣』か!」


 ——ご名答!

 私は「創造」と「召喚」の全能神だ。

 私が目指す最高の世界に不要な不純物ゴミなどは、すべて別世界に飛ばしてしまえば良いのだよ、少年! 頭良いな私、ははははははは!


 すると少年は、途端に頭を抱え始めた。

 何をそんなに困っているのかと、私が少年に問いただしてみれば。


「確かに……ライフラインの整備はめっっっちゃ面倒くさい。都市開発の最重要項目にして最難関項目だ」

 ——いや、最難関項目は確か「交通整備」ではなかったか少年?

「でも違う……違うんだよ創造神!」

 ——え、何が違うの?

「すべての施設には『役割しごと』がある。どんなに水道パイプを引くのが面倒くさくても、どんなに発電所や焼却炉の公害が鬱陶しくても、人間社会を回す重要なシステムとして、その存在を蔑ろにしてはいけないんだ……!」

 ——そ、そうなんだ?

「彼らに『役割しごと』を与えてやってくれ、創造神。神様チートを使って存在を否定するような愚行、市長の俺には到底できない……!」

 ——ま、まるで施設を「人間」みたいに扱うじゃないか、この少年!?


 神様を「チート」呼ばわりする少年に、私は未だかつてなく怪訝な顔を浮かべた。


 可能であるものを可能だと言って何が悪い。

 わざわざ建設しなくても電気や水が使えると言っているのだから、全能たるわたしの導きに従うだけで良いではないか。

 なぜ人間という愚かな生物は、もとより鬱陶しがっている存在たちライフラインに、わざわざ存在する権利を与えなければ気が済まないのだろう。



 一度破壊した森林ものをわざわざ取り戻そうとしたり。

 必要のない施設をわざわざ残しておいたり。

 面倒な役割しごとをわざわざ引き受けたり。

 人間の為すこと考えることは、一貫性がなくてよく分からない。



 そう言ってやれば少年は、少しの間沈黙してから、こう答えるのだ。


「……多分、目に見えないものが怖いんだ俺たちは……」

 小さな声で。

「自分の知らないところで起きているかもしれない事件ニュース。目に見えなくても実は存在しているかもしれない幽霊ゴースト屍人ゾンビ。自分の耳には入ってこなくても、どこかで噂しているかもしれない俺の話……」

 顔を俯かせながら。

「目に見えないものが怖いから、目に見えるものを増やしたい。俺の見えないところでライフラインが動いているなんて、俺は到底看過できない」


 そう答えるなり少年は、数時間ほど前から書き直していた「都市計画せかいちず」に、発電所や水道の位置を記し始める。


 発電所には世界に「光」を与える仕事を。

 水道施設には世界に「水」を回す仕事を。


 神々わたしたちが世界に新たな生命いのちを芽吹かせるように。

 市長たる少年は、施設たちに新たな仕事いのちを吹き込んでいくのだ。



*****



「……でも、『魔法陣』でゴミ処理ってのはちょっと格好良いな」


 地図を書きながら、少年がぽつりと呟いて。


「ちなみに、どこの世界に飛ばしてるんだ? ゴミだらけの世界がどこかにあるってことか?」


 私は答えてやった——心配しなくて良いと。

 ひとつの世界に集約されたゴミが、ただ溜まり続けるということはない。時間の経過とともに風化していき、次第にその世界の大地として消化されていく。

 そうして大地の新たな恵みとなって、また別の世界の生命となるのだと。


「ふうん、神様流の『リサイクル』ってやつか」


 納得したように頷いた少年が。


「その『魔法陣』、ゴミ処理施設として採用だ。施設の地点を決めたら、そのまま固定で配置させよう」


 そして、施設で「儀式」でもしようじゃないか。

 ひとつの役割を終えた生命が、いずれ新たな生命に生まれ変わることを願って。

 鬱陶しがられるだけの、一度は世界に存在を否定されたはずの不純物ゴミたちが、その役割を最後までまっとうできるように。


 なるほど——それは確かに良い都市せかいだ。

 今までで最も、私の目指す「最高の世界」にふさわしい結論だと思わないか?



(Day.4___The Endless Game...)



*****

【おまけ】

 私たちが現在暮らしている世界(地球)の日本・国土交通省が、公式サイトにて、都市開発に関する非常に分かりやすい説明資料を掲載しています。

 これを見ていただくと、巷で人気のあらゆる「都市開発シミュレーションゲーム」も、二次元ゲームでありながらきちんと三次元リアルとリンクしたシステム設計をしているんだなあと、一人のゲームプレイヤーとして実感することができるはずです。


 URLを記載しますので、興味がある方はぜひご一読ください。

 公害が〜とか幸福度が〜とか、金輪際ゲームシステムに文句を言えなくなります。(ある意味「閲覧注意」です)


 国土交通省「みんなで進めるまちづくりの話」

 https://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/index.htm

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