第6話 愚かなる人間の創造物

 無事大学を卒業した健人は上京した。

 健人の配属先は本社のある汐留であった。

 配属部署は、当会社の顧問弁護士が配置されている総務部法務係であった。

 新入社員の事務職としては異例の抜擢であった。

 

 健人の東京の住まいは会社が契約している賃貸マンションで、本社から電車で20分の所であった。

 

 健人は2日間通勤した後、1か月間の新入社員研修を受講するため、軽井沢の研修施設に向かった。


 研修初日、昼食を摂っていると、高校時代の野球部の旧友が健人に気づき、「おい!健人!お前もこの会社に入社したのか!」と嬉しそうに近づき健人の向い正面に腰掛けた。


 その旧友は徳島県出身の近藤義秀といい、愛媛県の健人の高校に入り親元を離れ下宿生活をしていた。


 至って真面目な男であり、高校入学した時から健人と馬が合い、健人が野球部を退部してからも親身に付き合ってくれた。

 大学は別々になったが、健人の高校時代の友達は近藤しか記憶がなく、健人の親友であった。

 

 一方、近藤の方は、高校2年の春、フリーバッティング練習中に近藤の投げた投球が健人の左目を直撃し、それが原因で健人の左眼が弱視となり、健人はやむを得ず野球部を退部した経緯があったことから、必要以上に健人に気を遣っていた。

 

 まさか、同じ会社に入社するとはお互い思ってもいなかったことから2人とも非常によろこんだ。

 

 近藤は理系出身でありシステム開発を担当していたが、プロジェクトは健人と同じ「行政の電子化」のオンラインシステムを担当し、同じチームであった。


 健人は軽井沢の研修後、飛ばしに飛ばした。


 主な仕事内容は、会社に関わる訴訟事案を担当し、その争点効をピックアップした上で顧問弁護士と検討を行い、裁判で必要となる資料の収集や会社担当者の事情聴取などを担当した。


 また、仕事に慣れてくると取引会社との契約書の精査、その問題点の精査も委さられるようになった。


 健人の新社会人としてのスタートは、正に順風満帆と言っていいものであった。


 その中で健人が一つ気に食わなかったことは、同じ部署の先輩の1人が熊本出身者で健人と同じ大学出であり、更に高校が詩織と英一と同じであったことだった。


 その先輩は、かつて健人と詩織が付き合っていたことや、現在、詩織が英一と付き合っていることまでは知らなかったが、事あることに熊本の話をしだすのが健人にとってはとても鬱陶しかった。


 健人は他の新入社員を後目に着々と実績を積み上げ、総務部法務係の中でも顧問弁護士の正に片腕としての存在となり、土日も厭わず猛烈に仕事に打ち込んだ。


 それは、出世欲とかではなく、仕事に専念することで詩織の記憶を脳裏から抹消したかったのであった。

 

 健人は、入社2年目には、その調整力、折衝能力を買われ、今、会社が特に力を入れている行政機関の電子化に向けたシステム開発の折衝担当者及び契約担当者に抜擢された。


 総務省のマイナンバーシステムを始め、農林水産省の統計事務のオンライン化、県庁市役所の窓口サービスのオンライン化、警察、海上保安庁、検察庁、税関といったセキュリティシステムの契約などを担当した。


 しかし、健人には無理があった。所詮、24歳の若造で、たった入社2年の経験則しかなく、ましてや、仕事ばかりに打ち込み、仲間は作らなかったことから、同期からは疎まれ、先輩社員からはいろいろな嫌がらせを受けていた。


 そのような中、親友の近藤だけが健人の心の支えとなっており、仕事終わりには、よく2人で新橋で飲み、お互いに会社の愚痴を言い合っていた。


 その年の師走の夜、いつものように、2人で新橋の焼き鳥屋で飲んでいた。 

 すると、近藤が珍しく泣き言を言い始めた。


 近藤は、この半年間、担当する海上保安庁の警備システムの入札仕様書の作成に向け、懸命に取組み、入札1か月前には予定どおり仕様書を完成させ、上司からも決裁を得ていた。


 しかし、入札直前になって、急に上司からこの案件は見送るよう言われたのであった。


 近藤はこのプロジェクトのため半年間、昼夜を問わずシステム開発の完成を目指し、他の競争企業に劣ることはない仕様書を完成させたとの自負を持っていた。


 近藤は、健人に愚痴った。


 「政治の力が働いたんだよ。先日、国会議員が会社に乗り込んで来てから、急に一転して見送りとなった。


 俺のこの半年間は一体何だったんだろ!」と、


 この頃の時代、特に行政機関の大きな発注事案については、必ずバックに政治家の顔が見え隠れしていた。


 システム機能の良し悪し、費用対効果云々よりも、談合紛いの順番制度が暗躍していたのだ。


 この純粋無垢な若者には、この裏街道の仕組みがどうしても理解することができなかった。


 近藤の入札案件は飛んで行った。


 それで終われば良かったが、会社は近藤のこの半年間の業績は全く認めず、最低ラインの業績評価を下し、次期異動を札幌支社とした。


 技術職の近藤にとって、札幌支社は営業とシステムのアフターケアの業務しかなく、先進的なシステム開発はできないことになる。


 実質的には、例の海上保安庁の案件が外に出ないよう、遠くに飛ばされたのであった。

 

 健人も近藤の案件の契約書作成担当者であったことから、近藤の血の滲むような努力を目の当たりにしていたため、会社の近藤に対する処遇、「長い物には巻かれろ」という風潮に憤りを覚えていた。


 そして、事件は起こった。


 翌年の3月の中旬のある日、「行政電子化プロジェクトチーム」の送別会が会社近くのホテルで行われていた。


 出席者は、社長を始め、会社取締役、顧問弁護士など錚々たるメンバーが出席していた。

 そこにプロジェクト委員の健人も近藤も居た。


 お偉方の挨拶等が終わり、各自テーブルを移動し、今度の異動についての話が始まっていた。


 健人と近藤は出口付近の末席のテーブルに座り、高校時代の話に花を咲かせていた。


 近藤も今度の異動は心外ではあったが、これもサラリーマンの定めと割り切り、例の案件は吹っ切れていたように明るく酒を飲んでいた。


 そこにあの健人の上司先輩である熊本出身の男が近藤の隣の席に座って来た。

 その男は、既にかなり酒が回っており、呂律が回っていなかった。


 その男はいきなり近藤の肩に手を回し、もたれかかるように絡み出した。


 「お前、ミスったんだってな! 札幌かぁ~、当分は北国生活だな。」と


 近藤は作り笑顔でその男にお酌をした。


 その男は次に健人に絡み出した。


 「後藤君も近藤みたいにならないよう気をつけないとね。

 君、あれでしょ?大学時代、熊本美人に捨てられたんでしょ?正月、熊本に帰ったらさぁ、俺の友達が、俺の会社の後輩の後藤って奴、佐野詩織に逃げられた間抜けな男など言ってたよ。


 後藤君、これからは頼むよ~、俺に恥をかかすなよ~」と宣った。


 その時、近藤がその男をぎゅっと睨み、


 「そんな昔話、今して、どうするんですか?

 アホらしい!」と怒鳴った。


 すると、その男は近藤の襟首を握り、


 「お前、左遷の身で、俺に意見をするつもりか!」と更に絡み出した。

 

 その瞬間、その男の顔面に健人の拳が突き刺さり、その男は椅子ごと後ろに吹っ飛び、曲がった鼻と歯が折れた口から血を流し、ひっくり返った。


 健人は更にその男に近づき、足で数回、顔面を踏み潰した。


 会場は騒然とし、数人が慌てて健人をその男から引き離した。


 その男は鼻骨と顎の骨を骨折し、全治3ヶ月と診断された。


 健人は停職3ヶ月の処分となった。


 酒の席でもあり、絡んで来たのは先方だったことから、警察への被害届けは提出されなかった。


 健人は自宅待機中、あの学生時代の瞑想を再開していた。


 怒りは、あの熊本の男、悪しき旧態依然とした会社の姿勢よりも、「詩織」に向けられていた。

 


 その頃、英一と詩織の居る熊本でも陰鬱な動きが生じ始めていた。


 英一は、熊本市役所に入り2年目を迎え、秘書課の議会担当者となっていた。


 これは同市役所の若手職員にとってはある意味抜擢人事ではあったが、他の職員は気に留めることはしなかった。


 この時代、九州の地方都市、特に保守系の政治家が首長である市町村では、市議会議員等にコネがあるものが抜擢されるのは常であり、いわば当たり前となっていた。


 特に熊本県は保守系の与党が歴史的にも強く、典型的な閉鎖性の強い行政組織を構築しており、県民・市民もそれを支持していた。


 そのことは、闇の組織として辞職した英一の父である城下太郎に対する市民感情も寛大なものであり、どちらかと言うと、マスコミの被害者として同情さえされていたのだ。


 当時、プロ野球選手や芸能人が闇組織との関係をマスコミが仕切りに報道しており、一部の政治家もその煽りを喰っていた。


 城下太郎もその1人であった。


 城下太郎が議員辞職に追いやられた端緒は、今から10年前の3月期の熊本市議会の決算報告、その質疑応答の一コマから始まった。


 その議会で、元熊本市のオンブズマンで弁護士でもあった革新系の野党議員の「中谷恭子」が、市の決算報告書の中で、県南地域の高速道路の拡幅工事の受注について、入札資格に抵触する業者が落札したのではないかと執拗な質問を市長に浴びせていた。


 中谷議員曰く


 「その落札業者者は、福岡県北部を拠点とする暴力団「有働会」の関連企業であり暴対法に抵触する。


 市長はその落札業者の子会社までしっかりと調査したのか!」と追及したのだ。


 市長の答弁はそのような事実は把握してないとの一般やりであったところ、


 中谷議員は、驚くべき発言をしだした。


 「私が調べたところ、その会社は有働会の関連会社に間違いなく、更に、その会社の支出計算書には多額の寄付金として、衆議院議員の『城下太郎』議員に支出されている。


 このことは、市長もご存知ですね?

 市長は城下議員の傘下に居ますからね。」と


 市長は、「決算報告に関係しない答弁は控えさせていただきます。」とお茶を濁したのであった。


 その場は一旦落ち着いたが、当時の闇組織と有名人の関係が世の中の話題になっていたことから、多くのマスコミが城下太郎に食い付いて行った。


 それは予想以上の大騒動となり、城下太郎が所属していた与党責任者にも追及の手が伸び始めた。


 遂には、城下太郎は、まだ50代と年齢も若かったことから、

 与党幹事長から「一旦、野に下ってくれ。このままだと総理まで責任追及されかねない。

 熱りが覚めたら党を挙げてバックアップするから。」と諌められ辞職した経緯があった。


 しかし、闇組織との関係により議員辞職して熊本に戻った城下太郎に対して、

 地元の声は優しく、却って「潔く」とし、今までの求心力が後退することはなく、

 逆に城下太郎を辞職に追い込んだ革新系の「中谷恭子」に対する風当たりの方が強かったのだ。


 このような保守王国熊本で苦湯を飲まされた中谷恭子は、今でも城下太郎の疑惑に確信を持っており、その裏を取ろうと調査を継続していたのだ。


 そんな矢先に、何の因果か、城下太郎の息子である英一が市役所に入って来て、議会担当者として、その顔を間近に見ることとなった。


 中谷は、英一の顔を見て、父親太郎を見た時と同様のインスピレーションを感じた。


 「この子、裏がある目付きをしてるわ。」と


 それからは、中谷はその直感に従い、英一を執拗にマークし始めるのであった。


 そんな中、英一からMDMA中毒にされ、更には暴力団のシャブセクに足をどっぷりと踏み込んでしまった詩織は、大学を卒業し、家業の料亭の跡取り「若女将」として新たな門出を迎えていた。

 

 また、英一が市役所に勤め出してから、日中は言わば自由の身となり、料亭の部屋の掃除や食材の仕入れといった女将の勉強を母親から仕込まれる日々を送っていた。


 詩織の母親は、一時期、詩織が英一に依存し過ぎていることを心配していたが、日々、積極的に女将修行に精をだす詩織を見て安心していた。

 

 とは言っても英一との関係は学生時代よりは少なくなったとは言え、土日は英一とキメセクを行っていたが、その満足度は下がる一方であった。


 そのため、詩織の肉体は、次第にシャブセクの方に依存するようになり、詩織は竿師と会う回数が依然よりも増えて行った。


 竿師の方も詩織に惚れ込んでしまい、詩織とのシャブセクは料金を取らないばかりか、詩織の都合に合わせるといった「もてなし」ぶりであった。


 そんな詩織の変容に英一は焦りを感じていた。


 竿師に対し、詩織をシャブセクの獲物から外すよう折衝することは、闇組織に顔の効く父親太郎に頼み込めば容易く解決するものではあった。


 しかし、英一は、何となく、虫の知らせか、それはベターではないと感じていた。


 事実、中谷恭子が正に英一をマークし始めた時でもあった。


 また、直接、詩織に竿師に会うなと強要拘束することも、現在、実家に戻っている詩織に対しては不可能であり、MDMAの摂取量を増やすことも詩織の肝臓を仮死状態にすることになる。


 ましてや、このように詩織をセックス依存症に追いやった張本人は英一自身であり、詩織の性欲を抑制することは詩織に自死を促すことに繋がる事を英一はよく理解していた。


 英一は考えた。


 「詩織の性欲を減下させる事なく、薬をこれ以上増やさず、又、人間でない性道具を」


 そして、英一はある恐るべき怪物を製造することとした。


 ある土曜日、詩織はいつものように英一のマンションに連れられて来た。


 詩織は、例の「悪夢の絶頂」の部屋に入ると、驚愕し声を失った。


 その部屋の中には搭乗型超巨大マシンバイブ「アクメライド」が設置されていたのである。


 その円形の怪物は、直径の長さが2m近くもあり、1分間に最高100回も膣をピストンする「長さ20cm、太さ10cmのディルド」と、アヌス用の「ドリルディルド」が装備された驚異のWピストン機能を備えた『拘束ピストンマシーン』であった。


 更にはディルドと膣などの結合部分には、絶えず媚薬を混合した潤滑オイルが噴射し続ける機能も備えているため、長時間の拘束ピストンも可能とされた。


 更に更に、この拘束ピストンマシーンは360°回転しながら膣等をピストンで貫かれるため、媚薬等の効果は最大級に脳内を刺激する。


 これに乗ったら最後、逝っても逝っても止まることはなく、生贄にされた者は、強烈なアクメ地獄の果てに、肉塊となって転がり続けるのであった。


 部屋の入口で棒立ちになってる詩織を横目に、英一は詩織にMDMAを与え、そしてピストンマシーンの電源をオンにした。


 すると、2つのピストンマシンはまるでガラガラ蛇のようなシャーシャーという不気味な音を立て瞬く間に強烈なピストン動作を開始し、そのディルドを目掛けジュルジュルと媚薬オイルが管から噴射され出した。


 詩織は堪らなくなりMDMAを口に含むと服を脱ぎ始めた。


 それを見た英一はニヤリと笑い、一旦、ピストンマシーンの電源をオフにして動きを止めた。


 詩織は英一に向かって、紅潮した顔で「お願い」と懇願した。


 英一は詩織をマシーンの搭乗台に乗せ、手首、足首を手錠で拘束し、詩織の膣とアヌスにディルドが挿入するようその角度を調整した。


 調整が終わると、詩織は英一を見て、「お願い!早くやって!」と涙目で訴え出した。


 英一は、「よし、始めるぞ!」と言いマシーンの電源をオンにした。


 すると2つのディルドはゆっくりと詩織の膣とアヌスに入り込んで行った。


 そして、2つのディルドは徐々にそのピストン動作を加速して行き、その結合部分に管から媚薬オイルがシュッシュっと的中し始めた。


 詩織は、

 「あっ~、すごい~、すごい~」と

 喘ぎ声を上げ、あっという間に、

 「イクイク、あっ、いっちゃう~」と

 叫び逝き果ててしまった。


 英一は更に容赦なく、Wピストンマシーンのピストン量を最大に強めていき、そして、拘束機の回転式ボタンを押した。


 気絶していた詩織は、膣とアヌスからのとてつもない快感に意識を取り戻し、


 「すごい~、すごい~、イクイク、あっ、また、いっちゃう~」と

 何度も何度も絶頂を迎えた。


 遂には白眼を剥いてしまい、ディルドを2つの口で咥えたままビクビクと痙攣し、

口からは涎を垂らし、膣からは潮を噴き上げながら、


 「もうダメ~、死んじゃう~、あっ、あっ、また、また、イク!イク!イク!いっちゃう~~逝く~~」と

 

 絶頂の雄叫びを叫び続けるのであった。


 英一は詩織の狂乱振りを見てこう思っていた。


 「このマシーンの効果も長くは続かないだろう。

 やはり、何とかしてヘ○インを手に入れなければならないな。」と

 

 何という愚かなる人間なのか!城下英一よ!


 神を冒涜するかのように、愚かなる人間の創造物である『合成化学物質』と『快楽機械』により、この罪なき女に対し、神から与えられた人体を本来の目的からの逸脱させ、絶頂の叫びを繰り返し、繰り返し、叫び続けさせる悪魔よ!


 神は必ずご覧になっている。

 

 神への冒涜者は必ず地獄へ堕ちるだ。


 そして、神はこの哀れな罪なき女を必ずお救いなる。

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