第6話 発病
君の仕事は順調だった。もともとコミュニケーションがうまい君は声が出なくても、それをハンデにせず、働いていた。
“大変なこともあるけど、みんなが優しくフォローしてくれるから、仕事楽しいよ”
一方、僕はどんどん仕事に行くのが苦痛になっていた。僕は君が言うには神経質らしく、すぐにストレスを溜めてしまうタイプだった。
僕は何の仕事をしても長続きせず、だからといってすぐに仕事を見つけることもできなかった。そのため無職でいる期間もそう短くはなかった。
無力感や罪悪感、焦燥感に急かされても仕事はなかなか見つからず、生活の苦しい僕たちはケンカが増えた。お金がないのにもかかわらず、僕は君がボソリと欲しそうに言っていたコーヒーメーカーを買ったり、バイクがどうしても欲しくて親に借金までして手に入れていた。
君は複雑な顔をしていた。喜んでくれると思ったのにそうじゃなかった。
携帯代もどんどん増えていって、どんどん君を追い詰めていたことの自覚はその頃の僕にはなかった。
買い物がストレス解消になっていた。
やがて僕は君に連れられて精神科に行った。
なんで病院に行かなきゃならないんだろう。
僕は正常なのにと思っていた。
ーー双極性障害ですね。なかなか発見し辛い病気なんですが、よく奥さん、気づきましたね。
何だその病気は。
気分の上がり下がりがあるのは普通じゃないのか。
僕の無駄遣いは病気から来るもので、仕事が続かないのも病気から来るもので、自覚はないけど僕は病気になっていた。
投薬治療が始まったがなかなか安定しなかった。携帯代も下がらず、仕事は休職を経て辞めた。失業保険を貰いながら僕たちは暮らしていた。
君に怒られる日が増えた。
欲しい物が我慢できなくて、買い物しまくった。
作ったご飯が気に食わなくて、作り直させたり、食べなかったりした。
君はノイローゼになって、僕の食事を作れなくなった。
それでも僕はご飯は?と言い続けていた。
僕にやがて攻撃性が出てきて、身の危険を感じたら警察を呼んで逃げて下さいと君は言われていた。心配しなくても大好きな奥さんを傷つけたりなんかしないのに、失礼なもんだと思っていた。
入院を勧められたけれど、君が居ないのは嫌だったから頑なに僕は拒絶していた。
やがて君は仕事場でお客さんに酷く怒鳴られ、僕の相手をしたくないとも言い、休職していた。
それでも僕は君に頼っていて、君を追い詰めていて、やがて君は自分のご飯さえ作れなくなって、自傷行為を繰り返し、ほとんど眠っていた。
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