第4話 おかえり

 どうしたら君は帰って来てくれるのだろう。

 どうしてあのとき、僕は夫婦なのに“関係ない”と言ってしまったのだろう。

 君が求めていたことは無茶苦茶なことではない。

 ただ僕に働いて欲しいだけだったのだ。高給を望むわけではなかったのだ。


 僕は仕事をすることにした。


 慌てて見つけた仕事はどう見てもブラックだったけれど、君のために頑張った。

 

 結局、君は帰ってきた。

 友達のところに行くと言っていたから、挨拶に行こうと提案したら却下された。

 君は友達のところにいたんじゃなくて、風俗の客のところにいたのだった。

 その客の彼女に追い出され、行く先のない君は帰ってきたのだ。


“逃げ場があるわけないじゃない。あったらここに眠りに来てないよ”


 そう。よく考えればわかることだった。

 君にとっての“居場所”は最初からここしかなかったのだ。


 僕はいくらでも君を責めることができた。理由はどうあれ君は男の所にいたのだから、不倫で離婚もでた。でも、僕は一言も責めずにただおかえりと君を抱き締めた。理由はどうあれ、帰って来てくれたのがただただ嬉しかったから。


 お金は自己破産をし、返済に追われることはなくなった。


“仕事やめなよ?ブラックはダメだよ”


 その君の一言で僕は仕事をやめた。


“私のためにありがとう”


 その言葉に思わず涙が出た。もっと早くに仕事を探せばよかった。探していないわけじゃなかったけど、もっと努力すればよかった。


“お互いまた仕事探さなきゃね。声が出ないから仕事探すの大変なんだよ”

「働かなくていいって言ってあげられなくてごめんね」

“大丈夫だよ”

「ちゃんとまた病院に通おう。病院、行けなくさせちゃってごめん」


 そう。君はずっと病院に行くのをやめていたのだ。


“病院、今度は声がちゃんと出るようになるかな?”

「なるよ。こんなに君は頑張ってるんだから、病気だってきっとよくなるよ、絶対。そうじゃないと、あまりに不公平だ」

“でるようになればいいなぁ。何年も出てないから、自分の声忘れちゃった……ってどうして泣いてるの?”

「……苦労かけちゃったなって思って」

“そんなことないよ。実家にいたときより全然だよ。声が出ないことを嘘呼ばわりしないし、心配もしてくれる”

「心配するのは当たり前だよ。だって、君は僕の大事な奥さんなんだから」

“ありがとう。あなたを好きになってよかった”

「がんばるから、だから、ずっと側にいて。僕も君を好きになってよかった」


 ぎゅっと僕は君を抱き締める。

 結婚したときよりも君はだいぶ痩せていた。


「だいぶ痩せちゃったね」

“ダイエット成功だね”

「……もっと柔らかいほうがいい」

“そう?私はまだまだ痩せたいけどな”

「痩せないで」


 くすくすと笑いながら僕はキスをした。

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