第45話 ブラコンですね

「……皇?」


声だけで誰かもう直感的に分かる。


元気に溢れたその声に、イライラした気持ちがあっという間に吹き飛び、俺は思わずもう一度後ろを振り返って――。


とんでもねぇ光景を目のあたりにした。


後ろから紅葉の肩に両手をかけて、何やら楽しそうに話しかけている皇。

パッと見、周りの登校中の生徒は親し気な友達同士の戯れか何かだと思うだろう。


だが、遠目でも俺には分かる。

眉が僅かながらピクピクと痙攣して、何かの手違いで皇に腹パンでもしそうな殺気を醸し出す紅葉を。


(やべーな)


そして、そう思うや否や。


俺は最悪の事態が起こる前に二人を引き離すべく、


「よ、よぉ皇! おはよう! ちょっと俺と昨日のアレについて話そうか……!」


紅葉の肩にかかった皇の右手を掴んで、それとなくそっと二人を引き剥がそうとした。


「え? ……あ、はい! アレですね! アレ! いいですよ!」


何でそんなに鼻息荒くて嬉しそうなんだよ。

つーか返事はしているけど、全然紅葉から離れようとしないし、目線が俺の方じゃない。視線どこ向いて……?


そう思って、皇の視線を辿ると、バチバチッとに花が出そうなぐらい、紅葉と睨めっこしていた。


「…おに、


先程よりも一段と眉が動いてやがる。

挙句、昨日皇に言われた事気にしてるし。


「……そ、そう言う事だから紅葉! また放課後な!」


「……」


逃げるが勝ち。


俺は皇の手を掴んだまま、紅葉の目が届かない所まで、全力で学校に向かって走りだした。

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